男の娘と暮らす

守 秀斗

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第5話:男の娘と別れるが、すぐに戻ってくる

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 翌朝も朝食を作ってくれる一乗寺君。

 昨夜、朝食の分も買っておいたらしい。
 ありがたくいただく。

 なかなか美味しいのだが。
 でも、気になる。

「また、あの連中、押しかけて来ないだろうねえ」
「大丈夫と思います。それに、今日、僕は元カレのとこに行ってこようと思います」

「ああ、じゃあ、これでお別れってことかな。元カレとは連絡が付いたのか」
「それが電話してもメールしても返事が来ないんですよ」
「あれ、それまずいんじゃないの。その元カレ、例の佐島って奴にやられちゃったんじゃないのか」

 俺の疑問にちょっと心配そうな男の娘の一乗寺君。

「いや、そんなに弱い人じゃないです。だいたい、両親、兄弟姉妹の家族全員が空手黒帯ですから」

 全員空手黒帯の格闘技一家。
 漫画みたいだなあ。

 ふーん、まあ、俺としては別に関係ないからいいか。
 朝食後、一乗寺君と一緒にアパートを出る。

「じゃあ、ご迷惑をおかけしました。あの、お食事代とかおごってもらって、ありがとうございます。それに佐島に殴られたりとかいろいろとあって、すみませんでした」

 深々と頭を下げる男の娘の一乗寺君。
 
「いや、いいよ。気にすんな」
「それでは失礼いたします」

 アパートの玄関前で男の娘と別れる。重たそうなカバンを持って、例の黒いTシャツに灰色のズボンを履いた一乗寺君を見送る。しかし、その後姿は女性に見えるんだよなあ。

 なんだかかわいく見える。
 あれ、また、かわいいと思ってしまった。

 俺、人妻ものが好きなんだけどなあ。
 その手のエロ小説を休日に読んだりしてた。

 最近はあんまり読んでないけどな。
 休日はぐったりとしているだけだ。

 いつの間にか趣味が変わったのか、精神薬のせいか。
 そんなことはないか。

 男の娘をかわいいと思っていいのだろうか。
 そっちの世界に入るのか。

 けど、まあ、これで二度と会うことはないから、いいかな。
 だいたい、そっちの方に興味を持っても、所詮、EDだもんな。

………………………………………………

 そして、夜。俺はぐったりとして家路についている。
 コンビニに寄る気も起こらない。

 会社の会議でコテンパンにパワハラ上司から叩きのめされた。
 叩くと言っても暴力はないがな。

 しかし、あれは言葉の暴力だぞ。
 頭がボーっとしてくる。

 そして、深夜近く、自宅アパートに近づくと俺の部屋の入口に誰かがしゃがみ込んで頭を膝の上に乗せてるぞ。
 あれ、一乗寺君じゃないか。

 そして、その男の娘である一乗寺君、俺が近づくとハッとして顔を上げた。
 ちょっと涙目になっている。

「おい、一乗寺君。君はもう元カレのとこへ行ったんじゃないの」
「それが、清水さんが大変なことになって。あの、清水さんって元カレですけど」

「大変って、佐島にやられたのか」
「逆です。佐島の背骨を折ってしまって、警察に逮捕されちゃったんです」

「そりゃ大変だ。でも、相手は暴力団で、向こうから因縁つけてきたんだろ。連中が悪いんじゃないの。正当防衛じゃないのか。よく知らないけど暴力団対策法とかだと、こういう場合暴力団っていうだけで佐島側が不利になるんじゃないのかなあ。どうせ、あの佐島って奴の方から殴りかかったんだろ」

「普通はそうなんですけど……実は佐島は暴力団と関係なかったんです。僕には脅しで言ってただけなんですよ。暴力団の構成員じゃなかったんです。外国に僕を売り飛ばすってのも冗談で言ってただけみたいなんです。それで、元カレの清水さんと佐島が僕を争って喧嘩になったってことになって、佐島をケガさせたんで逮捕されちゃったんですよ。つまり、一般人同士の争いってことになったんです。僕も事情を警察に聴かれました」
「でも、何で俺の家に帰ってきたの」

「あの、僕は清水さんの親に嫌われていて。そりゃ、空手道場の跡取りの息子さんが男と付き合うなんて嫌ですよね。それで、家に入れてくれなくて追い返されちゃったんです。もう、行き場がなくて、お金も無いし。あの、本当に申し訳ありませんが、もう少し泊めてくれませんか。裁判とかになりそうなんです。もう、何でもしますから、だめでしょうか……」
「はあ……」

 困ったね。
 必死な顔で頼み込んでくる一乗寺君だけど。

 でも、ああ、俺はクタクタであまり他の事を考えられないんだな。
 まあ、あの佐島ってのは大ケガしたんだから、この家に来て、また暴力行為を加えられることはないだろう。

 とにかく、今、俺はベッドで純粋に寝たいんだよなあ。

「まあ、とりあえず、いいよ。入りな」

 俺の返事を聞いて、嬉しそうな顔をする一乗寺君。

「ありがとうございます」

 一緒にアパートの部屋に入る。
 俺はベッドに倒れ込む。

 もう、疲れてんだ。

「あの、本当にすみません」
「……いや、いいよ」

「あの、それで、僕、交通費でもうお金を全部使ってしまったんです。それで、お腹が空いてて、必ず働いてお返ししますので、少し貸してくれませんでしょうか」
「……かまわないよ。いや、返さないでいいよ。おごってやるよ」

 俺は適当に万札を何枚か一乗寺君に渡した。
 ブラック傾向の企業だが、給料だけは高いんだよな。

「すみません……山本さんはもう夕食は済んでますよね」
「いや、食ってない。面倒だよ、疲れてんだ」

「え、それはまずいと思いますけど」
「食欲ないんだよ。クソパワハラ上司に言葉の暴力で佐島以上にボコボコにされてさあ」
「えーと、お茶漬けくらい食べたほうがいいと思いますけど……」

 確かに全く食事を取らないってのもまずいかな。

「うーん、それくらいならいいや」
「じゃあ、すぐに買ってきます」

 やれやれ。
 また面倒事に巻き込まれそうな感じがするが、単に泊めているだけだから、大丈夫かな。

 もう、仕事のことしか考えられない俺。
 しばらくベッドでへばっていると一乗寺君が帰って来た。

 そして、テーブルの上にお茶漬け。
 てっきり、インスタントのお茶漬けでお湯を入れて完成ってなものかと思っていたんだが。

 ご飯はコンビニで買ってきたものだろうけど、鮭、梅干し、それに佃煮、高野豆腐に野菜などいろいろ入っているぞ。

「一乗寺君って料理が好きなの」
「そうですね。実家に住んでいた時は母が入院してたので僕が作ってました。佐島と一緒に住むようになっても、料理担当でしたので」

 食べてみるとなかなか美味しい。
 この前の夕食も朝食も美味しかったなあ。

「美味しいね。君、料理人になったら」
「うーん、今のところ、全然考えてないです」

「将来、どうするつもりなの」
「そうですね、どうすればいいのかなあ……全然、考えが浮かばないです」

 悩んでいる一乗寺君。
 まあ、あんまり他人の事情に深入りするのは本人にも失礼だし、それに、他人の将来の事を考えてあげる精神状態でもないんだよなあ、俺は。

 イテテ、またパワハラ上司の顔が浮かんで頭痛がする。
 疲れてるし。
 満腹になってすぐに寝た。

 一乗寺君がベッドに入ってくるが、もう慣れてしまった。
 別に何かするわけでもないしな。

 何度も言うがEDだしね。
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