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第4話:男の娘が物置から出てくる
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物置から大きなカバンと一緒にヒョイと床に飛び降りる男の娘の一乗寺あゆむ君。
「ああ、苦しかったあ」
「おいおい、よく入れたなあ。って、君は友達のとこに行ったんじゃなかったのかよ」
「そのつもりだったんですけど、ちょっとコンビニで買い物して戻ってきたら、佐島の子分がいるのを見つけたんです。あっ、これは佐島が来ると思って、家に鍵をかけてどうしようと思ってたら、そうだ、あの物置の中に隠れようと思ったの。それで、一応、ベランダの窓は少し開けてそこから逃げたってことを思わせようって」
佐島というのは、あのろくでなしどものリーダーかなと俺は思った。
「でも、あのメモは何なんだよ」
「多分、山本さんが帰ってきたら、一緒に入ってくるんじゃないかと思ったんです。さすがにドアをぶち破るとかはしないと思ったから」
「じゃあ、あのメモはウソなのか」
「いえ、本当です」
「えーと、じゃあ、あのろくでなしどもは君の友達のとこへ行くんじゃないのか。迷惑にならないのかよ」
「大丈夫。もうスマホで連絡してあるし、元カレなんだけど、空手黒帯です。武闘派ですね。空手道場の息子さんですから。佐島なんて叩きのめしてくれると思う」
元カノじゃなくて、元カレかあ。
えーと、男の娘だからいいのか。
そして、一乗寺君が俺の顔を見る。
「大変、血が出てる。手当しないと」
「いや、別に大したことないよ」
「でも、申し訳ないので……本当にすみません」
俺のキャビネットに薬と一緒に入っていた救急箱から絆創膏やら消毒薬を取り出して、一乗寺君が傷口を手当してくれる。
「全く関係のない山本さんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」
「あいつら、なんなの」
「暴力団関係者ですね。末端のチンピラですけど。最初はやさしかったんですけど、すぐに暴力を振るうようになって、その後は佐島の家で売春させられるようになったんです。僕は嫌で嫌で仕方が無かったんですけど我慢してたんです。でも、僕を外国に売り飛ばすとか話しているのを聞いて、逃げ出したんです」
暴力団関係者か。
やれやれ。
そんな連中とは初めて出会ったなあ。
それも、いきなり暴力を振るわれるとは。
俺は一乗寺君に手当されながら聞いた。
「なあ、君のご両親はどうしてるの」
「……父はいません。もう亡くなりました。母は精神病院に入院中です。兄も亡くなりました。他に兄弟姉妹はいません」
「家はどこなの」
「足立区です。佐島と一緒に住んでたんです。逃げちゃったけど」
「そうかあ。でも、親戚とかはいないの」
「かなりの遠方で……それで、あのもう少しこの家に居させてもらえないでしょうか」
「え、でもなあ……」
「あの、ご迷惑はおかけしませんから」
もう迷惑はかけられたんだけどなあ。
「また、あの連中が来るんじゃないの」
「そうですよね……でも、ちょっと他に知り合いがいないんです」
「仕事仲間とかは」
「あんまり親しくなかったし、それに佐島とつながっているので……」
「じゃあ、例の元カレの空手黒帯の人以外は頼るところが無いってことかなあ」
「そうですね……」
まあ、その男があの連中を叩きのめして、この男の娘はその元カレのとこへ避難するってことなのかな。ああ、そう言えば俺の夕食のコンビニ弁当がぐしゃぐしゃになっている。俺はそれを拾ってゴミ箱に捨てた。もう夕食はいいやと思っていると一乗寺君が言い出した。
「あの、すみません。今捨てたのお弁当ですよね」
「ああ、佐島って言うのかね。あのろくでなしが踏みつけたんで捨てたよ」
「……申し訳ないので、今から深夜営業のスーパーに行って食材を買ってきます。僕が夕食作りますから。何かお好みのメニューとかありますか」
「いや、いいよ、そんな事しなくて。あと、連中に見つかるんじゃないの」
「いえ、佐島はもう元カレのところへ行ってると思います。ここから少し遠いですよね。東京ですけど」
うむ、高島平とはけっこう離れてるなあ。まあ、とりあえず連中がすぐにこっちへ戻ってくることはないか。
じゃあ、頼むかな。
俺はサイフからお札を取り出す。
「適当でいいよ」
「あの、それで、実は僕も朝食をとった後は隠れていたので、そのお腹がすいていて……」
「ああ、いいよ。君の分も。おごってやるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、すぐに買ってきますので」
一乗寺君がさっさと家から出て行く。その間、俺はごちゃ混ぜになった精神薬を整理する。それにしても、何でこんな精神薬を飲む体になってしまったのか。おまけにわけのわからない奴らにボコられるし、俺は不幸だなあ。
つくづく、ついてない人生だなあと思っていると、一乗寺君が帰ってきた。
「すぐに夕食作りますので、ちょっと待っててください」
「ああ、よろしくね」
何だかえらいことに巻き込まれたって感じだなあ。しかし、今の俺は頭が仕事のことでいっぱいだ。それに精神病。頭の中にはあのパワハラ上司の顔が浮かんで来る。
イテテ、頭が痛くなってきたぞ。
そして、いつの間にか、テーブルの上に夕食が並べられる。
カキフライ丼にほうれん草などの野菜、それに味噌汁。
「おお、なかなか美味しそうだな」
「あの……実は僕、カキフライが好きで、すみません、自分の好みで作ってしまって」
「いや、いいよ。コンビニ弁当より美味しそうだ」
で、実際食べてみると、コンビニで買ったいつもの海苔弁当より全然美味しい。
うーん、やはりコンビニ弁当ってのは美味しくないね。
あの過労死になりそうなコンビニ店長には悪いけど。
温めるだけで楽なんだけどなあ。
この数年間はずっとコンビニ弁当だった。
やはり、俺も自炊しようかなあと思いつつ、そんな体力も時間もないなあとも思った。
そんな事を考えていたら、一乗寺君が聞いてくる。
「どうでしょうか、お味の方は」
「すごく美味しいよ」
「ありがとうございます」
お礼を言った後、朝食の時のようにちょっと嬉しそうな顔をして自分も食べ始める一乗寺君。
なかなか、礼儀正しい子だなあと俺は思った。
どうやら、ひどい環境で育ったようだが、何だかすれてない感じもするなあ。
不思議だ。もともと、そういう気質なのかね。
さて、夕食も終わって、さっとシャワーを浴びる。
そして、睡眠薬を飲んでベッドへ直行。
すると、また一乗寺君がなんだか恥ずかしそうに俺に頼んでくる。
「……あの、昨夜と同様に一緒に……だめでしょうか」
「うーん。まあ、いいよ。でも、俺は何にも出来ないけどね」
「ありがとうございます」
そして、美形の男の娘と一緒にベッドで寝る俺。
一乗寺君が俺の腕を掴んで目を瞑っている。
チラッと一乗寺君の顔を見る。
すっぴん顔なのにすごい美人だね。
これが本当の女性だったらなあと思うも、俺はEDなんだっけとまた落胆してしまった。
「ああ、苦しかったあ」
「おいおい、よく入れたなあ。って、君は友達のとこに行ったんじゃなかったのかよ」
「そのつもりだったんですけど、ちょっとコンビニで買い物して戻ってきたら、佐島の子分がいるのを見つけたんです。あっ、これは佐島が来ると思って、家に鍵をかけてどうしようと思ってたら、そうだ、あの物置の中に隠れようと思ったの。それで、一応、ベランダの窓は少し開けてそこから逃げたってことを思わせようって」
佐島というのは、あのろくでなしどものリーダーかなと俺は思った。
「でも、あのメモは何なんだよ」
「多分、山本さんが帰ってきたら、一緒に入ってくるんじゃないかと思ったんです。さすがにドアをぶち破るとかはしないと思ったから」
「じゃあ、あのメモはウソなのか」
「いえ、本当です」
「えーと、じゃあ、あのろくでなしどもは君の友達のとこへ行くんじゃないのか。迷惑にならないのかよ」
「大丈夫。もうスマホで連絡してあるし、元カレなんだけど、空手黒帯です。武闘派ですね。空手道場の息子さんですから。佐島なんて叩きのめしてくれると思う」
元カノじゃなくて、元カレかあ。
えーと、男の娘だからいいのか。
そして、一乗寺君が俺の顔を見る。
「大変、血が出てる。手当しないと」
「いや、別に大したことないよ」
「でも、申し訳ないので……本当にすみません」
俺のキャビネットに薬と一緒に入っていた救急箱から絆創膏やら消毒薬を取り出して、一乗寺君が傷口を手当してくれる。
「全く関係のない山本さんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」
「あいつら、なんなの」
「暴力団関係者ですね。末端のチンピラですけど。最初はやさしかったんですけど、すぐに暴力を振るうようになって、その後は佐島の家で売春させられるようになったんです。僕は嫌で嫌で仕方が無かったんですけど我慢してたんです。でも、僕を外国に売り飛ばすとか話しているのを聞いて、逃げ出したんです」
暴力団関係者か。
やれやれ。
そんな連中とは初めて出会ったなあ。
それも、いきなり暴力を振るわれるとは。
俺は一乗寺君に手当されながら聞いた。
「なあ、君のご両親はどうしてるの」
「……父はいません。もう亡くなりました。母は精神病院に入院中です。兄も亡くなりました。他に兄弟姉妹はいません」
「家はどこなの」
「足立区です。佐島と一緒に住んでたんです。逃げちゃったけど」
「そうかあ。でも、親戚とかはいないの」
「かなりの遠方で……それで、あのもう少しこの家に居させてもらえないでしょうか」
「え、でもなあ……」
「あの、ご迷惑はおかけしませんから」
もう迷惑はかけられたんだけどなあ。
「また、あの連中が来るんじゃないの」
「そうですよね……でも、ちょっと他に知り合いがいないんです」
「仕事仲間とかは」
「あんまり親しくなかったし、それに佐島とつながっているので……」
「じゃあ、例の元カレの空手黒帯の人以外は頼るところが無いってことかなあ」
「そうですね……」
まあ、その男があの連中を叩きのめして、この男の娘はその元カレのとこへ避難するってことなのかな。ああ、そう言えば俺の夕食のコンビニ弁当がぐしゃぐしゃになっている。俺はそれを拾ってゴミ箱に捨てた。もう夕食はいいやと思っていると一乗寺君が言い出した。
「あの、すみません。今捨てたのお弁当ですよね」
「ああ、佐島って言うのかね。あのろくでなしが踏みつけたんで捨てたよ」
「……申し訳ないので、今から深夜営業のスーパーに行って食材を買ってきます。僕が夕食作りますから。何かお好みのメニューとかありますか」
「いや、いいよ、そんな事しなくて。あと、連中に見つかるんじゃないの」
「いえ、佐島はもう元カレのところへ行ってると思います。ここから少し遠いですよね。東京ですけど」
うむ、高島平とはけっこう離れてるなあ。まあ、とりあえず連中がすぐにこっちへ戻ってくることはないか。
じゃあ、頼むかな。
俺はサイフからお札を取り出す。
「適当でいいよ」
「あの、それで、実は僕も朝食をとった後は隠れていたので、そのお腹がすいていて……」
「ああ、いいよ。君の分も。おごってやるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、すぐに買ってきますので」
一乗寺君がさっさと家から出て行く。その間、俺はごちゃ混ぜになった精神薬を整理する。それにしても、何でこんな精神薬を飲む体になってしまったのか。おまけにわけのわからない奴らにボコられるし、俺は不幸だなあ。
つくづく、ついてない人生だなあと思っていると、一乗寺君が帰ってきた。
「すぐに夕食作りますので、ちょっと待っててください」
「ああ、よろしくね」
何だかえらいことに巻き込まれたって感じだなあ。しかし、今の俺は頭が仕事のことでいっぱいだ。それに精神病。頭の中にはあのパワハラ上司の顔が浮かんで来る。
イテテ、頭が痛くなってきたぞ。
そして、いつの間にか、テーブルの上に夕食が並べられる。
カキフライ丼にほうれん草などの野菜、それに味噌汁。
「おお、なかなか美味しそうだな」
「あの……実は僕、カキフライが好きで、すみません、自分の好みで作ってしまって」
「いや、いいよ。コンビニ弁当より美味しそうだ」
で、実際食べてみると、コンビニで買ったいつもの海苔弁当より全然美味しい。
うーん、やはりコンビニ弁当ってのは美味しくないね。
あの過労死になりそうなコンビニ店長には悪いけど。
温めるだけで楽なんだけどなあ。
この数年間はずっとコンビニ弁当だった。
やはり、俺も自炊しようかなあと思いつつ、そんな体力も時間もないなあとも思った。
そんな事を考えていたら、一乗寺君が聞いてくる。
「どうでしょうか、お味の方は」
「すごく美味しいよ」
「ありがとうございます」
お礼を言った後、朝食の時のようにちょっと嬉しそうな顔をして自分も食べ始める一乗寺君。
なかなか、礼儀正しい子だなあと俺は思った。
どうやら、ひどい環境で育ったようだが、何だかすれてない感じもするなあ。
不思議だ。もともと、そういう気質なのかね。
さて、夕食も終わって、さっとシャワーを浴びる。
そして、睡眠薬を飲んでベッドへ直行。
すると、また一乗寺君がなんだか恥ずかしそうに俺に頼んでくる。
「……あの、昨夜と同様に一緒に……だめでしょうか」
「うーん。まあ、いいよ。でも、俺は何にも出来ないけどね」
「ありがとうございます」
そして、美形の男の娘と一緒にベッドで寝る俺。
一乗寺君が俺の腕を掴んで目を瞑っている。
チラッと一乗寺君の顔を見る。
すっぴん顔なのにすごい美人だね。
これが本当の女性だったらなあと思うも、俺はEDなんだっけとまた落胆してしまった。
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