男の娘と暮らす

守 秀斗

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第14話:元彼女が訪ねてくる

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 その後、一週間ほどは一乗寺君と何事もない生活をする。

 料理を作っている一乗寺君の後姿。
 かわいいね。

 あれ、またかわいいと思ってしまう。
 普通のTシャツ、ジーンズ姿なんだけどなあ。

 俺も本格的にこっちの世界へ行ってしまうのか。どうなんだろう。
 まあ、行ったところで、一乗寺君も相手にしてくれないだろうなあ、一億回言ったけど、EDだからな。

……………………………………………………

 ある日の休日。

「あの、山本さん。カバンの中を整理したくて、それで空の棚がありますよね。中身をここへ置いていいですか」

 一乗寺君が指差したボックスタイプの三段棚。
 日用品入れにでもするつもりだったのだが、忙しくてそのままにしていた棚だ。

「ああ、別にいいよ。つーか、君がこの部屋を整理してくれたから棚も空いたんだからねえ」
「ありがとうございます」
 
 小さい三段棚にきれいに整頓する一乗寺君。
 カバンの中からいろいろと取り出す。

 服が多いが、女性用のばっかりだな。
 ミニスカートとか。女性用の下着もある。

「その白いって言うか、銀色のはなんだい」
「……レオタードです。お客様の好みに合わせて着てたんです」

 少し恥ずかしがって説明する一乗寺君。
 よく見ると股間の部分に穴が開いている。

 普通のレオタードではないなあ。
 売春させられたときに着せられてたのかな。

 すると、紙が落ちてきた。
 健康診断書みたい。

「何、これ」
「あの……病気に罹っていないこと証明するためです。性病とか」

「佐島に命令されたの」
「……そうです。相手のお客様にも提出させてました」

 ふーん、売春させている女性、いや男性か、その健康に気をつけるのもヒモの義務なのかねえ。
 整理を終わると、一乗寺君は食材を買いにスーパーに行った。

 俺は部屋の中でゴロゴロする。
 でも、このゴロゴロ生活ばかりではいかんなあとも思ってきた。

 何か新しい趣味でも見つけようかなとか考えていると、ドアチャイムが鳴った。
 ドアを開けると、俺の元カノ、上条礼子が居た。思わず、びっくりしてしまう。

「どうしたんだよ、急に」
「うーん、まあ、久しぶりに会いたくなって」

 俺は別に会いたくないけどなあ。
 よりを戻したいのかねえ、こんなしょぼくれた男に。
 だいぶ期間が開いているんだけど。

 まだ、礼子も三十才なんだから、何とかタワーマンションとは言わずとも、普通のマンションに住んでいる男を捕まえられるんじゃないかなあ、容姿はまだ衰えてないしと思った。

「入れてくれる」
「ああ、いいよ」

 どうでもいい世間話をする。
 しかし、会話がぎこちないな。
 マジによりを戻したいのだろうか。

 俺はすっかり冷めているけどな。
 昔、言われたことをまた思い出してしまった。

『あんた、暗いよ!』

 いまだに、トラウマなんだけどな。

 すると、礼子が棚を見る。一乗寺君のミニスカートとか女物の服を見たようだ。

「……誰かと暮らしてるの」
「うん、まあね」

 一乗寺君の服だけどなあ、男の娘の。
 でも、一緒に暮らしているのは事実だからな。

「そう……じゃあ、元気でね」

 あっさりと帰る礼子。
 お金に困ってるのかね。

 まあ、よりを戻さない方が、お互い、いいんじゃないかと思ったぞ、俺はEDだからな。
 そんな男、それなりに金を持っていても嫌だろ。

 すると、すぐにドアが開く。
 一乗寺君が帰ってきた。
 そして、なぜか不安そうに俺に聞いてくる。

「あの、今、出て行った女性はスーパーで会った人ですよね。その、山本さんとどういう関係なんですか」
「前に言ったじゃん。昔、付き合ってた彼女さ」

「えーと、また付き合うんですか」
「俺には、全くその気も無いし、相手だって嫌だろ。EDだぞ、ED。気まぐれに会いに来たんじゃないの」

 すると、急に明るくなる一乗寺君。

「じゃあ、食事を作りますね」

 なんで嬉しそうなんだろう。
 俺のこと好きなのか。

 しょぼくれたED男なんだけどねえ。

……………………………………………………

 食後、また、だらだらとテレビを見たりする。
 一乗寺君はまたパソコンでアイドル動画を見ている。

 でも、こんな状況でいいのかなあ。

「一乗寺君、これからどうするの」
「えーと、実はよく考えてないんです。すみません……」

 まあ、とりあえず、コンビニで働いているから、中卒とは言えちゃんとした社会人ではあるし、それにうまくいけば正社員にもなれる可能性もあるなあ。

 けど、もうそろそろこのボロアパートから引っ越したいんだよなあ。
 お金だけはあるからな。

 でも、一乗寺君をどうするかだなあ。
 すると、一乗寺君がおどおどしながら聞いてきた。

「あ、あの、僕、邪魔なんでしょうか」
「いや、全然、美味しい料理作ってくれるし、掃除もしてくれるんでありがたいよ」

「……そうですか、ありがとうございます。実は、母が少し元気になってきたんで、もしかしたら退院して、一緒に住むことになるかもしれません。そしたら、どこかのアパートに引っ越して、山本さんにはご迷惑かけないと思います」

「ああ、良くなってきたのか。じゃあ、遺族年金で暮らせるねえ、お母さんは。それで、君はコンビニで働くと」
「そういうことになると思います」

 じゃあ、まあ、もう少し居候させてもいいかな。
 それに、俺にはちょっと気になっていることがある。

 一乗寺君のことではない。

 異動してくる新上司のことだ。
 いまだに情報がないんだよなあ。

 超パワハラ上司かもしれない。
 そしたら、今度こそ、ぶっ倒れて、休職。
 少しの間、一乗寺君の世話になろうかなんて、姑息な事を考えてしまった。

 料理とか掃除、洗濯とかちゃんとしてくれるかわいいお手伝いさんがいるようなものだ。
 あれ、またかわいいと思ってしまった。

 まあ、実際にかわいいからいいか。
 EDだから、関係無いしね。しつこすぎるかね、この話題。
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