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第16話:定時で退勤する
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さて、一乗寺君の母親の件も、だいたいおさまって、本人も少し元気を取り戻したようだ。
コンビニでの仕事も再開。
そして、俺としても非常に嬉しい日がやって来た。
待ちに待ったパワハラ上司の異動の日。
なぜか、挨拶している時に涙を流すパワハラ上司。
アホらしくて、送別会も隙を見て遁走した。
そして、翌日、新しい上司がやって来た。
俺はいきなり上司の部屋に呼ばれる。
なんだよ、いきなりパワハラかと思いきや、部屋に入ると穏やかな顔をした人が座っている。
「山本君、なかなかいい結果を残したじゃないか。前任者もえらく褒めてたぞ」
「ありがとうございます」
あのパワハラ上司、さんざん俺をなじってたけどなあ。
裏では満足してたのか。
そして、俺がチームリーダーのプロジェクトが作成した資料を見て満足そうな新上司。
でも、突然、俺に向かって、やや心配そうな表情で言った。
「君、少し休んだ方がいいんじゃないのか」
「え、何でそう思うんですか」
「君は精神科クリニックに通っているんだろ」
「ええ、そうですが」
「実は昔、私も精神科クリニックに通っていたことがあるんだよ」
へー、そんな人でも出世できるのか。
俺はもうキャリアは終わりで窓際一直線と思ってたんだがなあ。
「当分、定時で帰ったらどうかね」
「え、いいんですか」
「かまわんよ。一か月くらい定時退勤で様子をみたらどうかね」
「ありがとうございます」
そんなわけで、定時退勤。
定時で帰るなんて久しぶりだなあ。
いや、初めてじゃないか、就職して以来。
俺はさっさと同僚に断って、定時で帰る。
新上司が認めているだから、堂々と帰れるぞ。
いつもより五時間くらい早いな。
途中で缶チューハイ飲んでいい気分になって家路に着く。
アパートの扉を開いた。
すると、目の前に色っぽい銀色のレオタードを着たすごい美人がいるぞ。
って、一乗寺君じゃないか。
おまけに、なぜか、首に首輪を付けて、それに鎖が付いていて、壁に括りつけられている。
足枷も付けてるぞ。大きな声を出して喘いでいる。
「ああ、い、いく、いっちゃう、ああん、マー様、出して、僕の中に出してえ、ああん、いっちゃう、ああ、好きなの、愛してるの、ああ、いく、いっちゃう、いくう!」
玄関横の鏡の前で座って、目を瞑って耳にはイヤホンを付けてる。
あそこからちょうど白濁液を飛ばしたところだ。
その白濁液が鏡にかかる。
そこで目を開けて、俺がボーっと立っているのを見て、びっくりする一乗寺君。
あわてて、イヤホンを耳からはずす。
このレオタード、股間の部分が開いている、夜の営み用かなあ。
顔が真っ赤になる一乗寺君。
「あ、あの、申し訳ありません……」
「え……えーと、あはは、いいよ、別に」
……………………………………………………
その後、いつものTシャツ、ジーンズ姿になって、再び頭を下げる一乗寺君。
依然として顔が真っ赤。
イヤホン付けてたのは、どうやらエロボイスを聞いてたみたい。
その内容は聞かなかった。
「あの、本当に申し訳ありません。恥ずかしいところをお見せして……鏡もちゃんときれいにしましたから」
「いや、いいよ、気にするな。だれでもやってるだろ。俺も見られたことあるなあ、しかも、両親、姉、兄の全員だぜ」
あれは中学三年の頃か。
高校受験のため、俺は年末、実家で一人で過ごすことになった。
他の家族は田舎に帰省。
しかし、そこはやりたい盛りの中学生だ。
秘かに友人に借りたエロDVDを居間で見ながら、近所迷惑にならないようにヘッドホンを付けて、いたしていたのだ。
そこに家族全員が帰ってきた。
飛行機が悪天候で飛ばなかったのが原因だ。
ヘッドホンをしていた俺は全然気付かない。
ちょうど出したところに家族が居間に入ってきたのだった。
両親は呆れて、姉は憮然、兄は大爆笑してたなあ。
情けない思い出だ。
「でも、マー様って誰なの。昔の彼氏のことか?」
「あの……山本さんのことです」
「は? 何でマー様なの」
「山本正夫さんですよね……だから、マー様……すみません、気持ち悪いですよね……」
うつむき加減で顔を赤くしている一乗寺君。
「えーと、俺のことなのかなあ、つまり」
「はい……ご迷惑ですよね」
「ED男が好きなの」
「好きです……」
「え、何で俺なんかが好きなんだ」
「……山本さんって、やさしいからです」
いきなり告白されてしまった。
でも、そんなにやさしいかね。
面倒くさがり男だけどな。
男の娘に惚れられたのかあ。
でも、この一乗寺君のこと、俺もかわいいとは思っていたんだけど。
あれ、でも、一乗寺君、もしかして、よくしてたのか。
鏡に自分を映して。
「あの、俺、いつも帰りが遅かったから、その、こういうことしてたの」
「……すみません、そうです」
もう、一乗寺君、顔がさらに真っ赤になる。
「ああ、そうか。あの、今日から約一か月、俺、定時で帰るんで、何て言うか、その、この時間はまずいよ」
「はい……」
「後、何で、首輪をしてたの。鎖まで付けて。足首にも枷も付けてるね。手錠まである。全部、おもちゃっぽいけど」
「そういうプレイをする時があって……僕は売春とかでひどい目に遭うのは嫌だったんですけど。でも、頭の中では女性になって乱暴されるのをいつも妄想してたんです……変態ですよね。首輪や足枷まで付けて、奴隷になった気分になって……」
「あはは、いやあ、なんて言うか、妄想だけならいいんじゃないの。誰も傷つかないし」
「すみません……では、あの、夕食作ります……」
一乗寺君、すごく恥ずかしそうにしているので、まあ、あまりこの話題にふれない方がいいか。でも、すごく色っぽかったなあって思ってしまう。
おっと、ますます俺はこっちの世界の住民になってしまうのか。
でも、EDだからなあ。
……………………………………………………
そして、夜。
「あの、山本さん」
「なに」
「一緒のベッドは嫌ですよね」
「いや、いいよ、別に」
「ありがとうございます……」
ベッドにおずおずとパジャマ姿で入って来る一乗寺君。
いつものように俺の腕に抱き着くが、今日は遠慮気味。
俺も、自分がおかずにされるとは全く思わなかったなあ。
まあ、いいか。
こんな俺のどこがいいんだろう。
そして、さっきの一乗寺君の銀色っぽいレオタード姿を思いだす。
すごく色っぽかったなあ。
あれ……え、どうした、気が付くとあそこがすごく硬くなっている。
これはまた久々ではないか。
この前はすぐに萎えたけど。
え、すごく硬いまんま。
この前、大仏様を拝観した御利益かって、それはないか。
あれは災厄を免れる御利益だったよなあ。
そして、俺の硬いアレに一乗寺君の足が偶然ふれた。
「え……」
「あはは、いや、何て言うか、何だろうね。酒飲んだからって、関係無いかな」
一乗寺君が俺の顔を見る。すごく真剣な顔だ。
「あ、あの、山本さん、僕を抱いてくれませんか、お願いします」
コンビニでの仕事も再開。
そして、俺としても非常に嬉しい日がやって来た。
待ちに待ったパワハラ上司の異動の日。
なぜか、挨拶している時に涙を流すパワハラ上司。
アホらしくて、送別会も隙を見て遁走した。
そして、翌日、新しい上司がやって来た。
俺はいきなり上司の部屋に呼ばれる。
なんだよ、いきなりパワハラかと思いきや、部屋に入ると穏やかな顔をした人が座っている。
「山本君、なかなかいい結果を残したじゃないか。前任者もえらく褒めてたぞ」
「ありがとうございます」
あのパワハラ上司、さんざん俺をなじってたけどなあ。
裏では満足してたのか。
そして、俺がチームリーダーのプロジェクトが作成した資料を見て満足そうな新上司。
でも、突然、俺に向かって、やや心配そうな表情で言った。
「君、少し休んだ方がいいんじゃないのか」
「え、何でそう思うんですか」
「君は精神科クリニックに通っているんだろ」
「ええ、そうですが」
「実は昔、私も精神科クリニックに通っていたことがあるんだよ」
へー、そんな人でも出世できるのか。
俺はもうキャリアは終わりで窓際一直線と思ってたんだがなあ。
「当分、定時で帰ったらどうかね」
「え、いいんですか」
「かまわんよ。一か月くらい定時退勤で様子をみたらどうかね」
「ありがとうございます」
そんなわけで、定時退勤。
定時で帰るなんて久しぶりだなあ。
いや、初めてじゃないか、就職して以来。
俺はさっさと同僚に断って、定時で帰る。
新上司が認めているだから、堂々と帰れるぞ。
いつもより五時間くらい早いな。
途中で缶チューハイ飲んでいい気分になって家路に着く。
アパートの扉を開いた。
すると、目の前に色っぽい銀色のレオタードを着たすごい美人がいるぞ。
って、一乗寺君じゃないか。
おまけに、なぜか、首に首輪を付けて、それに鎖が付いていて、壁に括りつけられている。
足枷も付けてるぞ。大きな声を出して喘いでいる。
「ああ、い、いく、いっちゃう、ああん、マー様、出して、僕の中に出してえ、ああん、いっちゃう、ああ、好きなの、愛してるの、ああ、いく、いっちゃう、いくう!」
玄関横の鏡の前で座って、目を瞑って耳にはイヤホンを付けてる。
あそこからちょうど白濁液を飛ばしたところだ。
その白濁液が鏡にかかる。
そこで目を開けて、俺がボーっと立っているのを見て、びっくりする一乗寺君。
あわてて、イヤホンを耳からはずす。
このレオタード、股間の部分が開いている、夜の営み用かなあ。
顔が真っ赤になる一乗寺君。
「あ、あの、申し訳ありません……」
「え……えーと、あはは、いいよ、別に」
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その後、いつものTシャツ、ジーンズ姿になって、再び頭を下げる一乗寺君。
依然として顔が真っ赤。
イヤホン付けてたのは、どうやらエロボイスを聞いてたみたい。
その内容は聞かなかった。
「あの、本当に申し訳ありません。恥ずかしいところをお見せして……鏡もちゃんときれいにしましたから」
「いや、いいよ、気にするな。だれでもやってるだろ。俺も見られたことあるなあ、しかも、両親、姉、兄の全員だぜ」
あれは中学三年の頃か。
高校受験のため、俺は年末、実家で一人で過ごすことになった。
他の家族は田舎に帰省。
しかし、そこはやりたい盛りの中学生だ。
秘かに友人に借りたエロDVDを居間で見ながら、近所迷惑にならないようにヘッドホンを付けて、いたしていたのだ。
そこに家族全員が帰ってきた。
飛行機が悪天候で飛ばなかったのが原因だ。
ヘッドホンをしていた俺は全然気付かない。
ちょうど出したところに家族が居間に入ってきたのだった。
両親は呆れて、姉は憮然、兄は大爆笑してたなあ。
情けない思い出だ。
「でも、マー様って誰なの。昔の彼氏のことか?」
「あの……山本さんのことです」
「は? 何でマー様なの」
「山本正夫さんですよね……だから、マー様……すみません、気持ち悪いですよね……」
うつむき加減で顔を赤くしている一乗寺君。
「えーと、俺のことなのかなあ、つまり」
「はい……ご迷惑ですよね」
「ED男が好きなの」
「好きです……」
「え、何で俺なんかが好きなんだ」
「……山本さんって、やさしいからです」
いきなり告白されてしまった。
でも、そんなにやさしいかね。
面倒くさがり男だけどな。
男の娘に惚れられたのかあ。
でも、この一乗寺君のこと、俺もかわいいとは思っていたんだけど。
あれ、でも、一乗寺君、もしかして、よくしてたのか。
鏡に自分を映して。
「あの、俺、いつも帰りが遅かったから、その、こういうことしてたの」
「……すみません、そうです」
もう、一乗寺君、顔がさらに真っ赤になる。
「ああ、そうか。あの、今日から約一か月、俺、定時で帰るんで、何て言うか、その、この時間はまずいよ」
「はい……」
「後、何で、首輪をしてたの。鎖まで付けて。足首にも枷も付けてるね。手錠まである。全部、おもちゃっぽいけど」
「そういうプレイをする時があって……僕は売春とかでひどい目に遭うのは嫌だったんですけど。でも、頭の中では女性になって乱暴されるのをいつも妄想してたんです……変態ですよね。首輪や足枷まで付けて、奴隷になった気分になって……」
「あはは、いやあ、なんて言うか、妄想だけならいいんじゃないの。誰も傷つかないし」
「すみません……では、あの、夕食作ります……」
一乗寺君、すごく恥ずかしそうにしているので、まあ、あまりこの話題にふれない方がいいか。でも、すごく色っぽかったなあって思ってしまう。
おっと、ますます俺はこっちの世界の住民になってしまうのか。
でも、EDだからなあ。
……………………………………………………
そして、夜。
「あの、山本さん」
「なに」
「一緒のベッドは嫌ですよね」
「いや、いいよ、別に」
「ありがとうございます……」
ベッドにおずおずとパジャマ姿で入って来る一乗寺君。
いつものように俺の腕に抱き着くが、今日は遠慮気味。
俺も、自分がおかずにされるとは全く思わなかったなあ。
まあ、いいか。
こんな俺のどこがいいんだろう。
そして、さっきの一乗寺君の銀色っぽいレオタード姿を思いだす。
すごく色っぽかったなあ。
あれ……え、どうした、気が付くとあそこがすごく硬くなっている。
これはまた久々ではないか。
この前はすぐに萎えたけど。
え、すごく硬いまんま。
この前、大仏様を拝観した御利益かって、それはないか。
あれは災厄を免れる御利益だったよなあ。
そして、俺の硬いアレに一乗寺君の足が偶然ふれた。
「え……」
「あはは、いや、何て言うか、何だろうね。酒飲んだからって、関係無いかな」
一乗寺君が俺の顔を見る。すごく真剣な顔だ。
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