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第20話:家族で罵り合いをする
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小机の向こうに母、姉、兄が座っている。
そして、俺の隣で黒いTシャツに灰色のズボンに着替えた一乗寺君が床に正座してうつむいている。
どうやら、俺の家に変な子が出入りしているって聞いて母親が心配して訪れたみたいだ。
元カノの礼子の奴がチクったみたいだな。
ストーカーみたいなことしやがって。
嫌がらせかよ。
そして、ちょうど実家に偶然訪れていた、姉貴と兄貴も一緒に来てしまった。
俺のスマホに何度か連絡したようだが、一乗寺君に夢中で全部無視しちゃったもんなあ。
それで、俺が病気で倒れているんじゃないかって、急遽、兄貴の自動車を飛ばして、親父以外は俺のアパートに乗り込んで来たってわけだ。
そんなわけで、今までの事を、全部話したよ。
俺の母はうるさいから、後から言うより最初から正直に話した方がいいと思ってなあ。
「ちょっと、あんた、何を考えてんの。男相手に売春してたなんて不潔な子、さっさと追い出しなさいよ。あたしの洋服も汚されちゃうし」
一乗寺君はさらに顔をふせて顔を赤くしながら、小さい声で言った。
「……申し訳ありません……」
母親が怒ってる。
まあ、白い液体かけられちゃったもんなあ。
兄貴はニヤニヤ笑ってる。
これは完全に面白がってるなあ。
昔からふざけてばかりだよ、俺の兄貴は。
姉貴の方は憮然としている。
「いや、一乗寺君は今は真面目に働いているんだよ。とにかく、もう事実上、独りぼっちなんだよ。すごくかわいそうな子なんだから」
「でも、あんたが世話する必要はないじゃない。この子に親類とかいるんでしょ。そっちへまかせればいいじゃないの」
どうやら、一乗寺君、かなり遠くに親類がいるようなんだがなあ。
「こんな子と一緒に住んでたら、あんた、普通の女性と結婚とか出来ないじゃないの。だいたいなんで男と男が、えーと、するなんて変態じゃないの」
すると、兄貴がヘラヘラ笑いながら言った。
「いや、今や、LGBTQの時代だ。都内のいろんな行政区で同性婚は認められてるぞ。いいんじゃないのか、正夫とその子が愛し合ってるならさあ。派手に結婚式でもしたらどうだ。俺は反対しないぞ。姉貴も賛成だろ」
「な、なんで、あたしが賛成すんの」
姉がうろたえている。
「姉貴はBL本ばっか読んでんじゃないかよ」
「違うわよ。あたしは男の娘ものじゃなくて、サラリーマンものが好きなの」
母が変な顔をする。
「何よ、サラリーマンものって」
それを聞いて、兄貴がまたクスクス笑いで説明する。
「まあ、内容はオフィスラブの小説だな。但し、男同士だけどさあ」
もはや、理解できないって顔の母。
まあ、この世代だとわからないよなあ。
「とにかく早く追い出しなさいよ、男の娘なんて変な子。気持ち悪い」
母の言葉を聞いて俺はムッとする。
こんないい子はいないと思うぞ。
俺は意地になる。
「いや、俺は一乗寺君と一緒に住むぞ」
「何を考えてんのよ。こんな変な子を囲ってたなんてバレたら、親戚の笑いものじゃないの」
「変な子じゃないよ。真面目な子だよ」
「真面目な子が、何で首輪に手錠してたりするのよ。それとも、あんたの趣味なの」
「ああ、いやあ……」
うーん、確かに、ちょっとMっ気があるなあ、一乗寺君。
すると、面白い演劇でも見ているような兄貴がまた言い出した。
「それくらい、いいじゃないか。別に悪い事してないだろ、お互い了承してるならさあ。それに、お母さんも昔、発情してたしな」
「な、何よ、発情って」
我が母もうろたえている。
「四十代くらいの頃、変な格好してたじゃないか。妙に裾の短いワンピース姿になったり。あれは親父を誘ってたんだろ」
「そ、そんなことしてないわよ」
「してただろ。俺、高校生の時はそんな母親が気持ち悪かったぞ、いい年してと思ったけど。でも、今は別にいいかって思ってるよ。それぞれ性的嗜好ってもんがあるからな。いいじゃないか、正夫の好きにさせろよ。俺は子供三人もうけて、孫を見せてやったじゃないか。充分だろ。正夫はこの子と結婚して幸せに暮らせばいいんじゃないの。むしろ、姉貴の方が問題だろ。もう、アラフォーだってのにお一人様だぞ」
兄貴の言葉に姉貴も怒り出す。
「うるさいわねえ、お一人様の何が悪いのよ」
「じゃあ、どうすんだよ、このまま孤独死かよ。まだ、正夫の方がこの一乗寺君が世話してくれそうじゃないか」
「施設に入って終わりよ。それに、先の事なんて誰にもわからないわよ。運命よ、運命。だいたい、あんたも奥さんと仲が悪いんでしょ」
「ちょ、ちょっと誰から聞いたんだよ」
「お嫁さんから愚痴聞いたのよ。あんたみたいないい加減な男と結婚してくれた女性をもっと大事にしなさいよ。わけのわからないアニメのオタク趣味ばっかにお金をつぎ込んで」
「姉貴だって、自宅の壁一面、BL本だらけじゃないかよ!」
「BLの何が悪いのよ!」
ああ、なんか家族で罵り合いになってしまった。
……………………………………………………
結局、兄貴が母を取りなす感じで、わが一家は引き上げていった。
一乗寺君が俺の方を心配そうに見る。
「山本さん、僕はご迷惑をかけてますよね……この家を出た方がいいんでしょうか」
「いや、出なくていいよ。君のことは俺が守る」
何だか、かっこいいこと言ってしまったな。
EDなのに。
いや、EDは治ったんだっけ。
そして、俺の隣で黒いTシャツに灰色のズボンに着替えた一乗寺君が床に正座してうつむいている。
どうやら、俺の家に変な子が出入りしているって聞いて母親が心配して訪れたみたいだ。
元カノの礼子の奴がチクったみたいだな。
ストーカーみたいなことしやがって。
嫌がらせかよ。
そして、ちょうど実家に偶然訪れていた、姉貴と兄貴も一緒に来てしまった。
俺のスマホに何度か連絡したようだが、一乗寺君に夢中で全部無視しちゃったもんなあ。
それで、俺が病気で倒れているんじゃないかって、急遽、兄貴の自動車を飛ばして、親父以外は俺のアパートに乗り込んで来たってわけだ。
そんなわけで、今までの事を、全部話したよ。
俺の母はうるさいから、後から言うより最初から正直に話した方がいいと思ってなあ。
「ちょっと、あんた、何を考えてんの。男相手に売春してたなんて不潔な子、さっさと追い出しなさいよ。あたしの洋服も汚されちゃうし」
一乗寺君はさらに顔をふせて顔を赤くしながら、小さい声で言った。
「……申し訳ありません……」
母親が怒ってる。
まあ、白い液体かけられちゃったもんなあ。
兄貴はニヤニヤ笑ってる。
これは完全に面白がってるなあ。
昔からふざけてばかりだよ、俺の兄貴は。
姉貴の方は憮然としている。
「いや、一乗寺君は今は真面目に働いているんだよ。とにかく、もう事実上、独りぼっちなんだよ。すごくかわいそうな子なんだから」
「でも、あんたが世話する必要はないじゃない。この子に親類とかいるんでしょ。そっちへまかせればいいじゃないの」
どうやら、一乗寺君、かなり遠くに親類がいるようなんだがなあ。
「こんな子と一緒に住んでたら、あんた、普通の女性と結婚とか出来ないじゃないの。だいたいなんで男と男が、えーと、するなんて変態じゃないの」
すると、兄貴がヘラヘラ笑いながら言った。
「いや、今や、LGBTQの時代だ。都内のいろんな行政区で同性婚は認められてるぞ。いいんじゃないのか、正夫とその子が愛し合ってるならさあ。派手に結婚式でもしたらどうだ。俺は反対しないぞ。姉貴も賛成だろ」
「な、なんで、あたしが賛成すんの」
姉がうろたえている。
「姉貴はBL本ばっか読んでんじゃないかよ」
「違うわよ。あたしは男の娘ものじゃなくて、サラリーマンものが好きなの」
母が変な顔をする。
「何よ、サラリーマンものって」
それを聞いて、兄貴がまたクスクス笑いで説明する。
「まあ、内容はオフィスラブの小説だな。但し、男同士だけどさあ」
もはや、理解できないって顔の母。
まあ、この世代だとわからないよなあ。
「とにかく早く追い出しなさいよ、男の娘なんて変な子。気持ち悪い」
母の言葉を聞いて俺はムッとする。
こんないい子はいないと思うぞ。
俺は意地になる。
「いや、俺は一乗寺君と一緒に住むぞ」
「何を考えてんのよ。こんな変な子を囲ってたなんてバレたら、親戚の笑いものじゃないの」
「変な子じゃないよ。真面目な子だよ」
「真面目な子が、何で首輪に手錠してたりするのよ。それとも、あんたの趣味なの」
「ああ、いやあ……」
うーん、確かに、ちょっとMっ気があるなあ、一乗寺君。
すると、面白い演劇でも見ているような兄貴がまた言い出した。
「それくらい、いいじゃないか。別に悪い事してないだろ、お互い了承してるならさあ。それに、お母さんも昔、発情してたしな」
「な、何よ、発情って」
我が母もうろたえている。
「四十代くらいの頃、変な格好してたじゃないか。妙に裾の短いワンピース姿になったり。あれは親父を誘ってたんだろ」
「そ、そんなことしてないわよ」
「してただろ。俺、高校生の時はそんな母親が気持ち悪かったぞ、いい年してと思ったけど。でも、今は別にいいかって思ってるよ。それぞれ性的嗜好ってもんがあるからな。いいじゃないか、正夫の好きにさせろよ。俺は子供三人もうけて、孫を見せてやったじゃないか。充分だろ。正夫はこの子と結婚して幸せに暮らせばいいんじゃないの。むしろ、姉貴の方が問題だろ。もう、アラフォーだってのにお一人様だぞ」
兄貴の言葉に姉貴も怒り出す。
「うるさいわねえ、お一人様の何が悪いのよ」
「じゃあ、どうすんだよ、このまま孤独死かよ。まだ、正夫の方がこの一乗寺君が世話してくれそうじゃないか」
「施設に入って終わりよ。それに、先の事なんて誰にもわからないわよ。運命よ、運命。だいたい、あんたも奥さんと仲が悪いんでしょ」
「ちょ、ちょっと誰から聞いたんだよ」
「お嫁さんから愚痴聞いたのよ。あんたみたいないい加減な男と結婚してくれた女性をもっと大事にしなさいよ。わけのわからないアニメのオタク趣味ばっかにお金をつぎ込んで」
「姉貴だって、自宅の壁一面、BL本だらけじゃないかよ!」
「BLの何が悪いのよ!」
ああ、なんか家族で罵り合いになってしまった。
……………………………………………………
結局、兄貴が母を取りなす感じで、わが一家は引き上げていった。
一乗寺君が俺の方を心配そうに見る。
「山本さん、僕はご迷惑をかけてますよね……この家を出た方がいいんでしょうか」
「いや、出なくていいよ。君のことは俺が守る」
何だか、かっこいいこと言ってしまったな。
EDなのに。
いや、EDは治ったんだっけ。
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