男の娘と暮らす

守 秀斗

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最終話:一乗寺君と暮らす決心をする

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 家族とドタバタしたけど、俺はますます一乗寺君の事が好きになったみたいだ。
 ずっと一緒に住んでもいいと思った。

 でも、一乗寺君の方が遠慮し始めた。

「あの、やっぱり山本さんにご迷惑かけると思います。だから、僕はもうこの家から出たほうが……」
「いや、居ていいよ。それに、俺は一乗寺君の料理が食べたいんだよ」
「そうですか……」

 でも、暗い顔をする一乗寺君。

「あれ、一乗寺君、俺のこと嫌いになったの」
「いえ、好きです。でも、ご迷惑をかけたくないんです……」

「もう迷惑はかけられたけど、俺は全然気にしないよ。一緒にいてくれるか」
「はい……」

……………………………………………………

 さて、職場で仕事していても、頭の中は一乗寺君のことばかりになった。
 本当に惚れてしまったみたいね。
 とにかく、一乗寺君を離したくない。

 そんな時に高島平の弁護士さんから連絡があった。
 例の佐島の件だ。

 もう少し証言してほしいとのこと。
 そんなわけで、定時で帰って弁護士事務所に行く。

 弁護士さんとは大した話はしなかった。
 ありのまま話しただけだ。

 ただ、話が終わって事務所の廊下に出ると、あの俺をぶん殴ったり蹴ったりした佐島に出くわしてしまった。
 違う弁護士と一緒にいるが、車椅子に乗っている。
 こちらの弁護士と話し合いに来たのだろうか。

「あれ、あんたは、確かEDのおっさんかあ」
「ED言うな、もう治ったよ」

「へえ、それはおめでとさん」
「それで、お前の方はそのケガはどうなんだよ」
「幸い、治るみたいだなあ。でも、片方の脚に多少マヒが残るみたいだ。まあ、俺も反省したよ。お医者さんや看護師さんが一生懸命に介護してくれてさあ。俺もこれからは真面目に生きようかなあってさ」

 ホントかよ。
 こういう連中、反省は一時だからなあ。
 いっそのこと、一生ベッドで寝たきりにでもなればいいとその時思ったのだが。

「なあ、あんたはいまだにあゆむと暮らしてんのか」
「ああ、そうだけど」
「俺の子分だった奴、覚えてるかなあ。あんたのアパートで吹っ飛ばしてやったチビだけどさあ」

 一乗寺君を見張ってた奴だな。
 ドジったってことで佐島に壁に叩きつけられてたなあ。

「そいつがどうかしたのか」
「盃をかわしたようだぞ」

「どういう意味だよ」
「あの、チビ、度胸もないくせに暴力団に入ってしまったようなんだ」

「え、本当かよ」
「それで、あゆむを狙ってんじゃないのかなあ。守ってやってくれないかな。でも、正式な暴力団員だからな。暴対法で防げるとは思うけど」

 佐島の情報にびっくりして、俺は急いで家に帰った。

……………………………………………………

 家に帰ると、部屋が真っ暗。
 一乗寺君がいない。
 持ち物を入れた棚も空っぽ。

 え、誘拐されたのかと思いきや、電気を点けると置手紙が。

『やっぱりご迷惑かけると思って、遠い親戚のところへ行きます。借りたお金は郵送で絶対返します。山本さんと別れるのが悲しいし、ご本人がいたら僕も離れたくなると思って、結局、この家に居続けてしまいそうなので、大変申し訳ありませんが、お手紙で失礼いたします。大変お世話になりました。感謝しています。さようなら。 あゆむ』

 俺はその手紙を読んで悄然となる。
 そうか、もういないのか、一乗寺君は。

 すると、アパートのドアを乱暴に叩かれた。

 開けると、佐島の言っていた、チビ野郎だ。
 後ろにも数人、柄の悪そうな男たちがいる。

 このチビ、妙に目つきが悪くなったな。
 この前はおどおどしてたくせに。

「おい、おっさん、あゆみを出せよ」
「もう、あの子は親類のとこへ行ったよ」
「本当かよ、この家に居るんだろ」

 そいつが凄む。
 しかし、こいつは暴力団員だよな。

「いいのかよ。一歩でもこのアパートに入ったら不法侵入、つーか暴対法で逮捕だろ。佐島から聞いたぞ。お前は暴力団員だろ。警察は喜んで逮捕するぞ」

 俺の返事を聞いて、舌打ちをするチビ。

「ちぇ、詳しいなあ。しょうがねえや、あきらめるか。他に女はいくらでもいるさ」

 手下を連れて、帰って行く暴力団員。
 俺はアパートのドアを閉める。

 ああ、凄く緊張した。
 怖かったぞ。

 でも、まあ、もう来ないだろうな。
 それに一乗寺君もいないし。

 ああ、もう、いないんだよな、一乗寺君は。
 悲しい。
 胸に穴が開いたような感じになった。

 この数か月の生活は夢みたいだったなあ。
 ほんの短い間だったけど。

 俺は一乗寺君のことが本当に好きになったみたいだな。
 でも、諦めるしかないのか。

 と思っていると、台所の上でガタガタと音がする。
 なんだ、ネズミだろうか。

 すると、例の欠陥工事じゃないかと思っている物置の扉が開いた。
 そこから一乗寺君が出てきた。

 物置から大きなカバンと一緒にヒョイと床に飛び降りる一乗寺君。

「ああ、苦しかったあ」
「おいおい、親類のとこに行ったんじゃなかったのかよ」

「それが出発しようとしたら、外に佐島の子分が居て、とっさにこの物置に隠れたんです」
「そうなんだ。でも、あの連中はもう来ないだろう」

 俺は佐島から聞いた話しを一乗寺君に言った。

「そうなんですか。じゃあ、もう大丈夫ってわけですね」
「まあ、多分、大丈夫と思うけど」

 でも、一乗寺君が悲しそうな顔をする。

「……山本さんにはご迷惑かけたくないので、その本当は離れたくないんですけど……これで失礼します」
「いや、ちょっと待ってくれないか。一緒に居てくれないか」
「でも、山本さんのお母さんが言ってように、僕は不潔ですよね。一緒にいたらご迷惑だと思います。それに山本さんとは他人ですよね……」

 俺は少し考えた。
 よし、言ってしまえ。

「じゃあ、結婚してくれないか。それで、他人じゃなくなるだろ」
「えっ、でも」

「いいよ、結婚してくれ。ずっと一緒に住もう」
「いいんですか」
「いいよ」

 思わず、二人で抱きしめ合う。
 
 でも、同性の結婚って、ハードル高そうだなあ。
 でも、いいんだよ、愛があれば。

 EDも治ったしな。

〔END〕
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感想 1

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みんなの感想(1件)

なよ。
2025.11.05 なよ。

初めまして、多忙で読み終えるのが遅くなってしまいましたが大変面白い作品でした。これからもたくさん書いてくださいね。

2025.11.06 守 秀斗

ご感想ありがとうございます。本当は一乗寺君の元カレとかも登場させてラブコメみたくしたかったんですけど、まあ、あっさりと終わらせてしまいました。

解除

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