側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ

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側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

「あなたは……どうしたい?」切ない問いかけ

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 夢から目覚めたイリアが、静かにまぶたを開けると、すぐ目の前にフェイランの顔があった。

 夜明け前の淡い光が、こちらをのぞき込む彼の顔を浮かび上がらせる。

「……陛下?」

 かすれた声に、フェイランがわずかに身を引く。気まずそうに息をついたその姿に、イリアの胸が不思議とざわめいた。

「どうされたのですか?」
「眠れなかった」

 短い答えのあと、フェイランはベッドの端に腰を下ろした。その背中はいつものように拒絶するものではない。

 何か話したいことがあるのかもしれない。イリアが身体を起こし、見守っていると、彼はぽつりとつぶやく。

「……結婚請願書を書こうと思う」

 思いもよらない言葉に、イリアはまばたきをした。

「請願書……ですか?」
「そうだ。王の署名をもって、正式な婚姻として記録する文書だ。本来ならば、すでに提出されるべきものだったが……」

 振り返ったフェイランは、わずかに視線をそらす。

「いずれ離縁するつもりだった。だから、必要ないと思っていた」

 イリアは何も言えずに黙っていた。

 側妃として扱うことなく、王都のはずれにある屋敷に住まわせようとしていたのだ。

 今なら、わかる。その決断はもっとも侮辱的であるにも関わらず、彼はそれを優しさだと思っていたのだと。

「……責められても仕方がない。だが今は、あなたにみじめな思いをさせたくない」

 思わず、イリアはフェイランの背中にすがるように、ひたいを押し付けていた。

「私は、何も……何も気にしてはおりません。私は……」

 言われるがままに嫁いできただけ……。

 そう言いかけて、イリアは唇をかんだ。それを言葉にしたら、ひどく彼も自分も傷つける気がした。

「あなたは……王になど興味はないのだろう?」

 何を誤解したのか、フェイランはあざけるように小さく笑った。

 違う。……今は違う。彼は誤解している。だけど、きっぱりと否定できない。少なくとも、父から結婚するよう言われたときは、伯爵家の対面ばかり考えていたのではないか。

 そんな自分が何を言っても、傷ついた彼に信用などしてもらえないだろう。

「あなたは……どうしたい?」

 フェイランは戸惑いを浮かべた顔で、イリアの肩に触れた。

 もしかしたら、務めを果たしたいと告げたら、彼はそのようにしてくれるかもしれない。結婚請願書を書く気になったのは、そのつもりがあるからだろう。そして、イリアを離縁という形で解放する気なのだ。

「こうして毎晩訪ねるのは、重荷でしたか……?」

 フェイランは黙っていた。肯定を恐れているのだろう。

 イリアは思い切って口を開いた。

「……リゼット様とお子をもうけられた方が、よいのではありませんか」

 その言葉は自身を傷つけた。胸がぎゅっと苦しくなり、嫌だ嫌だと叫び出しそうだった。

「イリア……」

 フェイランは初めてイリアの名を呼んだ。

 戸惑うイリアの顔をのぞき込み、片腕で彼女の背中を抱き寄せる。

 思いのほか、たくましい腕に驚いた。

 剣よりも筆を好む王。

 そう聞かされていたが、フェイランはひそかに鍛えているのではないか。そう感じられるほどに、胸板も硬くて厚みがあった。

「それは……できない」
「どうして……」

 次第に昇る朝日が、彼の顔をくっきりと照らし出す。なぜか、彼は絶望に似た表情をしていた。

「リゼットは、兄の婚約者だった」
「ウルリック殿下の……?」

 イリアは衝撃を受け、まばたきを忘れた。

「そうだ。兄が亡くなったあと、アクトン公爵は王家との結びつきを得るために、私に彼女を娶らせた。……だが、彼女の心は、ずっと兄のもとにある」
「だから……」

 リゼットはフェイランとは別の塔に暮らしているのか。もしかしたら、結婚後、一度もふたりは同じ夜を過ごしたことがないのかもしれない。

 フェイランはまぶたを伏せ、かすかな笑みを浮かべる。

「私は、兄の代わりに王となった。だが、リゼットにとって、私の存在は何のなぐさめにもならない」

 その表情は、まるで自分の存在そのものを責めているようだった。

 消えてしまいそうなほどに傷ついた彼のほおに伸ばしかけた手を、イリアは引っ込めた。

 彼を深く知らない自分では、どんな行動もなぐさめにはならない。ただ、その孤独を見ていられず、イリアは強く引き寄せてくる彼の腕の中で、静かに息をこらえるしかなかった。
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