悪役令嬢の居場所。

葉叶

文字の大きさ
60 / 73
番外編

オウガ国に行った後のミヤネ

しおりを挟む


「んっ…朝……?」

起き上がると狼達も顔を上げた

「ごめん。起こしちゃったかな?まだ寝てていいんだよ」

頭を撫でるとまたスヤスヤ眠り始める狼のシンとシンの部下達。
シンはここに来てすぐにチナが僕につけた狼だ。
最初はどう接していいのかもわからなくてギクシャクしていたけど
チナさんの協力やシンからの歩み寄りによって一緒に寝るくらいには仲良くなれたと思いたい

僕は顔を洗う為部屋にある洗面所へと向かった

この国にも大分慣れてきた。
ここに来たばかりの時は、こんなにぐっすり眠る事が出来なかった
寝れない僕に付き合う様にチナさんやシン達が僕が寝るまでずっと付き合ってくれたし
何かしてないと落ち着かない僕の為に書類仕事をくれた。

ちょっとずつだけど、変われているのかな?

「ミヤネー!今日は何するー!
あ、勿論仕事は終わらせてきたよー!」

「おはようございます、チナさん」

「おはよう、ミヤネ!」

挨拶をすれば笑顔で返してくれる
作った笑顔じゃなくて…本当の笑顔で。
それが嬉しくて堪らない。

「それで、何する?
バーベキュー?鬼ごっこ?それともかくれんぼ?」

「鬼ごっこしたらずっと僕が鬼じゃないですか
今日はピクニックに行きませんか?とてもいい天気なので」

「ピクニックいいね!
それじゃあ料理長にお弁当お願いしてくる!
ミヤネも早く着替えるんだよ!」

目にも止まらぬ早さで居なくなるチナさん。

ここに来てから初めての事ばかりだ。
誰かと寝るのがこんなに安心するなんて知らなかった
誰かと穏やかに過ごす時間がこんなに幸せだなんて知らなかった
気持ちが一方通行じゃないのが…こんなに嬉しいことだとは知らなかった
こんなに幸せだなんて知らなかった

クゥーン

腰に擦り寄るようにして僕を見上げるシン

「心配してくれてるの?」

いつの間にか泣いていたようで慌てて涙を拭く

「大丈夫だよ
僕は幸せだなって思ったら嬉しくて出てきちゃっただけだからっ
今日はピクニックに行くんだ。シン達も行く?」

「それじゃあ、行こっか
早く行かないとチナさんがつまみ食いで全部食べちゃう」

つまみ食いと称して料理長の目を盗みご飯をよくつまむチナさん
料理長のご飯は美味しいから手が止まらなくなり半分くらいなくなってるなんてザラにある。
勿論その後料理長にこってり絞られてるけどね。

「ゴラァっ!このガキッ!またつまみ食いしにきやがって!今度という今度は許さんぞ!!」

「ふぉひほうふぁまぁー!」

口パンパンに食べ物を詰め込みリスの様になったチナさんがキッチンから飛び出してきた

「あちゃあ…遅かったか…」

料理長から楽しそうに逃げるチナさんを横目にキッチンに入ると所々穴あきなお弁当が置いてあった

「どうしようかな、これ」

僕はこれでも全然ご馳走なんだけど
料理長は納得しないもんなぁ…
でもまだ帰ってきそうにないし…

どうしようかと悩んでいるとクイッと服が引っ張られる

ガウゥ

「僕が作るの?
簡単なものなら作れるけど…」

料理長の料理には到底叶わないし…

ガウゥ!

「…わかった。つくってみるよ」

お前なら出来ると力強く頷くシンの頭を撫でて僕は昔乳母が教えてくれた料理を作った
王族として必要はないかもしれないけど、いつか必要な時が来るかもしれないからと簡単な料理を教えてくれた。
優しくて強い人だった。
僕の頭を撫でてくれる唯一の人だった。

だけど、乳母は美しすぎて優し過ぎた。
父が乳母を狙っているのに気づいた母によって乳母は殺された。
乳母はただ、僕の為に僕とちゃんと接してほしいと願っただけだった。
その懇願をしに行った乳母は父に犯され母に殺された。
愛されたいと思っていた人達によって僕を愛してくれた人が殺された。

忘れたくても忘れられない。
血塗れになった乳母を僕の前で笑いながら踏みつける母の姿を。
あぁ、もうすぐ乳母の命日だ…
彼女のお墓は王城の裏庭にひっそりと作った
伴侶とは死別し天涯孤独だった彼女には誰もお墓を作ってくれなかった
証拠隠滅の為に燃やされた彼女の薬指を盗んで僕はそのお墓に埋めた。
出来れば伴侶と同じお墓に入れてあげたかったけど
彼女の故郷が何処なのか、伴侶のお墓が何処なのか僕にはわからなかった。
ただ、死んだ後彼女が愛する人と再会してますようにと祈りながら彼女が好いていた椿の花を添えた。

「ミーヤネッ?何してるの?」

「っ!?えっ、あ、り、料理してます」

突然話しかけられ慌て過ぎて持っていたボールを落とす所だった…

「何作ってるのー?これいいにおいするー!」

「えっと…僕を育ててくれた人が教えてくれたたまご焼きです
甘目なので好き嫌いは分かれると思うんですが
彼女が作るたまご焼き僕好きなんです」

「へぇー!僕甘いの好きだから楽しみっ!」

フフッと目を細めて笑うチナさんを見てると荒んでいた心が少し和らいだ


いつか、僕が死んだ時胸張って貴方に会える様に僕は一日一日を大事にして生きていきます。
貴方とティアナ嬢が救ってくれた命を大事に。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

処理中です...