人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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19章 戴冠

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夢を見た。

本当のお父様とお母様が笑っていらして、マリーとジュディとアーサーが私の手を引いて外の世界へ連れ出してくれるの。

光る扉を開けると、そこにはギルバート様がいてフレッド様がいて、ランバラルドのみなさんがいて、そしてその中心にライがいた。

私に手を伸ばして、微笑み掛けてくれて。

でも、私がその手をつかもうとすると、あっさりと消えてしまった。

泣きたくなって後ろを振り返ると、マリー達も居なくなっていて、私はボナールで暮らしていた塔の部屋の中に居た。

悲しくて悲しくて、涙がポロポロと出てきたことで目が覚めた。

「……ゆめ…」
起き上がると本当に泣いていたようで、頬が濡れていた。

ぼぅっと涙を拭った指先を見ていると、マリーが部屋にやってきた。
「姫様、おはようございます。今日は早めにお支度を……。姫様、どうかなさいましたか?」
私の様子がおかしかったのを見て、マリーが心配そうにベッドに近付く。
「なんでもないの。怖い夢を見ただけ」

マリーはハンカチを取り出して、私の頬を拭った。
「今日はライリー殿下が帰国されると聞いています。不安だったのでございましょう。まだどうなるかはわかりませんが、どんな時でもこのマリーがついております。お一人で泣いたりしないでください」
「マリー……。ありがとう」


着替えをして、朝食の席につくと同時に、ライリー殿下の帰国の知らせが入った。
予定では、今日の夕方にお戻りになられるはずだったのに、そんなに交渉がスムーズにいったのかしら。

私と一緒に朝食を取っていたギルバート様は、眉をしかめる。
「予定より早いか。何かあったな」
「ギルバート様、何故ですの? 交渉がうまくいったから早いのではないのですか?」
「ライリーだけならそうかもしれんが、ディリオンが一緒だったはずだ。ディリオンはそうそう予定を変えたりしない。交渉がうまくいき、早くボナール城を出れたとしても、帰国の行程は予定通りとするだろう。ヤツの性格ならな」

夢見が悪かったことといい、言い知れぬ不安に襲われる。


早くライリー殿下にお会いして、この不安を消し去りたかったのに、ライリー殿下とお会いできたのは午後もお茶の時間を過ぎた頃だった。

ライリー殿下が私の部屋を訪れる。
ギルバート様はそれまで私の部屋にいたのだけれど、気を利かせて部屋を出て行ってしまった。

今、部屋にはライリー殿下と私が向かい合ってソファに座っている。
ジュディはお茶を出したら、マリーとふたり、部屋の隅で控えている。顔を向けないと私の視界に入らないので、ライリー殿下と2人っきりの気分だ。

ライリー殿下は、普段あまり見ない険しいお顔をしている。

紅茶を一度飲んでから、ライリー殿下は重い口を開いた。
「ボナール国王は、王位返還に同意したよ」

一瞬、ライリー殿下の言葉が理解できなかった。
国王が、王位返還に同意するなんて……。
もっとしがみつくと思っていたのに。

「では、私はボナールへ帰るのですね?」
「そうだな。前に話したように、シャーロットに王位を継いでもらう。ボナールの行政執行部を作り、ランバラルドでの研修をするようにする。人員が育ったらきちんと共和制にして、シャーロットを解放する。だから、それまでの間、がんばってほしい」

少しの期間とはいえ、私に国王が務まるのかわからない。
それでも、私がやらなければならない。
「かしこまりました。お役目を果たせるように、精一杯、やらせていただきます」

私はライリー殿下にゆっくりと頭を下げた。

「シャーロット……」
「いつから、私はボナールへ?」
一瞬、ライリー殿下は戸惑った表情を見せたが、すぐに口元を引き締めた。
「ある程度は国王としての勉強をしてもらう。明日からオレの執務室に少し通ってもらうがいいか?」
「……どうぞよしなに」


私はボナールへと戻ることになった。

大丈夫。怖がらなくても大丈夫。
もう、戻るのは暗い塔の上の部屋ではないのだから……。
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