人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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最終章 人質でなくなった王女と忘れない王太子

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「こ、こほん。今日は考え事をしたいから、執務室にこもります。お昼も給湯スペースで自分で作るから、夕方まで誰も来ないでほしいの」

朝、私の髪を梳いて支度を整えてくれたジュディにそう告げた。
「え?お昼も一人で召し上がるくらいの考え事ってなんですか?」

うっ。
な、なんでしょう……。何がいいかしら……。

「ゆ、指輪を、即位の時に神官から渡された指輪にお祈りを込めて、その、未来のボナールを考えるというか……」
指輪の話は、マリーが知っているので、ジュディとアーサーにも話した。
王家の秘密であることを理解し、二人は墓場まで秘密を持って行くと誓ってくれている。

「え、あれってそんなに時間をかけてお祈りが必要なんですか?」
「そ、そうなのよ。早いうちに一度くらいは祈りを込めないといけないのよ」
ジュディは少し考えて納得してようだった。
「そうですよね。早く伴侶が見つかるかも知れないし、その時までに指輪が完成していなかったら渡せないですもんね」

伴侶という言葉に、ライリー殿下から言われたことを思い出す。

『オレ、前にロッテに結婚を申し込んだよね? 側妃ではなく、正妃として再びランバラルドへ来て欲しい』

本気にしていいのかしら。
本当に、ライリー殿下は私を正妃にと、望んでくださっているのかしら。

「姫様、お顔が赤いですよ? お熱があるのなら、お祈りは別の日にしてはいかがですか?」
ジュディが私の顔を見て心配そうに言う。

「ち、違うの! ちょっと考え事をしていただけなの」

ジュディは、私のおデコを触って熱がないのを確認したら納得してくれたけれど、ジュディの向こうで私を見ているマリーの顔がとても真顔で。
おそらく、マリーには嘘だと気付かれている気がする……。


私室から執務室までの廊下も、護衛でアーサーがついてきてくれる。
アーサーにも、護衛を離れてもらわないといけないけれど、どうしよう。

「アーサー、ボナールの騎士団に戻ってからはどうですか?」
アーサーに離れてもらうきっかけが思い付かず、世間話を振ってみた。
「まあ、古巣ですからね。ただ、第二騎士団の副団長をクビになったと思ったら、急に国王の専属護衛に昇進ですからね。多少のやっかみはあります。でも、第二騎士団にいたときの部下、ルドルフ達はすごく喜んでくれました」
「そう。それはよかったわ」

心配していたけれど、やっぱり頼りになるアーサーは、復帰した騎士団でもうまくやっているのね。
「でも、専属が一人しかいないので、訓練に参加する余裕がないんですよね。もう一人二人くらいは、専属を増やしたいと思っているところなんです」

「それなら、今日は私は執務室にずっとこもっている予定なので、訓練に行ってきたらどうですか?」
私はここぞとばかりに、アーサーに護衛を離れるように言う。
「何言ってんですか。ダメに決まっているでしょう。オレがいない時に誰か来たらどうすんですか」
「それなら、今日は執務室に一人でいる予定だから、ジェイミー様にたまにこちらも見に来てもらうようにお願いするわ。執務室に鍵もかけて誰が来ても絶対に開けないから。それに、たまに剣をふるわないといざ賊が入った時に困るのではなくって?」

もっともらしい理由をくっつけてみる。
「そうですね。では、お言葉に甘えて。でも、ジェイミー殿には、オレから声をかけておきますよ。姫様が遠慮してジェイミー殿に言わないって事も考えられるので」

さすがアーサー。見透かされている……。
でも、ジェイミー様なら、ライリー殿下から聞いて話を合わせてくれるかもしれないし、それでいいとアーサーには伝え、執務室の前まで送ってもらって、部屋の中に入ると鍵を閉めた。

ふぅ~。
嘘をつくって大変ね。慣れないからバレるんじゃないかとヒヤヒヤしながら言うのが大変だわ。

さて。
これからだけど、ライリー殿下とはどうやって会おうかしら。

私が腕を組んで悩んでいると、コンコンと窓を叩く音がした。
窓を振り返ると、ライリー殿下がにこにことこちらを覗いていた。
私は慌てて窓に近寄り、それを開けた。

「やあ、シャーロット。ジュディはうまくまけた?」
「もおっ、ライリー殿下ってば、こんなところから。ジュディには今日一日指輪にお祈りをするので夕方まで来ないように言いました」
「指輪に? そりゃうまく言ったな!」
「ドキドキでしたのよ? 嘘をつくことなんて、ないから」
「ああ、シャーロットらしいや。もうちょっとこっちに来られる?」
「え? なんですの?」

私が窓から身を乗り出すと、ライリー殿下はひょいっと私を抱え上げ、窓から外へと連れ出した。

「さあ、ロッテ、デートに行こう」
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