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最終章 人質でなくなった女王と忘れない王太子
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私を抱え上げたライリー殿下は、私のドレスを見て少し考えていた。
「うーん。ねえ、ロッテの服を持ってくることってできない?」
そう言われてライリー殿下の服を見ると、ライの時に来ていた服だった。
ゆっくりと地面に降ろされた私は、首を横に振る。
「やっとの思いでジュディに嘘を言ってきたのです。これ以上は無理ですー……」
もう一度部屋に戻って、ジュディに言い訳をするなんて考えたら、涙が出そう。
「ごめんごめん。じゃ、そのままでいいや。城の裏に馬車を待たせてあるから、それに乗ろう」
ライリー殿下は私よりもボナール城を熟知しているらしく、人目を避けてずんずん歩き、城の裏手門まできてしまった。
ライリー殿下が言ったように、門の前には馬車が待っていたけれど、最近私が乗る王家の紋章が入った馬車ではなかった。
私はそれに、こっそりと乗り込んだ。
「ライリー殿下、どこに行かれるのでしょうか?」
「うん? ああ、まず服屋かな。ロッテはどこか行きたいところ、ある?」
「いえ、どこという所は」
「じゃ、おいおい考えよう。それと、今日はオレはライ、ね」
ライ、ロッテと呼び合っていたのはつい最近なのに、殿下と呼ばないのは少し抵抗がある。
それでも私は小さく頷いた。
王家の馬車より小さいそれは、向かい合わせで座るライリー殿下との距離が近くて、挙動不審になってしまう。
何か話そうと思って顔を上げると、上機嫌で窓の外を見ている殿下が目に入った。
頬杖をついている頬の下。唇に自然と目がいく。
やだ。
変に意識したらしゃべれなくなっちゃった。
そのまま、私たちは無言で馬車が止まるのを待っていた。
「ロッテ、着いたみたいだ」
ライリー殿下が馬車を降りて、手を差し出し、私を降ろしてくれた。
「ここは?」
「城下町。ランバラルドとは違う風景なのがよくわかるだろう?」
かつて見たランバラルドの町並みは、とても賑やかで華やいでいた。
トランケもいつだってお客さんが中にいたし、パルフェだって、お客さんが途切れることなんて、あまりなかった。
ボナールの町は、シャッターが降りていて、歩く人も少ない。
わかっていたことだけど、ライリー殿下は何を見せたいのだろう。
私には、この光景を見るのは少し辛い。
「まあ、まずその服をなんとかしよう。このお店に入って」
素早く手を取られて、小さなお店のドアをくぐった。
お店の中は、何人かの女性が慌ただしく動いていた。
大きな布地を持った女性が、こちらを振り返る。
「いらっしゃいませ~、って、ライかあ。また冷やかしなら帰ってくんない?」
30代くらいのその人は、ライのことを知っているようで、にこやかに嫌味を言っていた。
「ブレンダさん、ひどいなあ。今日はちゃんとお客だよ。この子にこの前の服を着せてくれない?」
「あら、散々値切って買わなかったあの服ね?」
「ブレンダさんっ!」
「あはは。いいわ、お嬢さん、こっちに来てくれる? それにしてもすごいドレスねぇ。どこかの商家のお嬢様?」
ブレンダさんと呼ばれたその人は、布地を台に置いて私を店の中へと連れて行こうとした。
「オレが連れて来たその人は、なんとこの国の女王様だよ」
「ライ、何ばかなこと言ってんだい? この町に女王様はおろか、貴族の姫様だって来やしないよ。いいとこ大きな商会の娘さんだろ?」
「ブレンダさんは騙せないな~。そうだよ。今度この町に進出する商会の娘さん。様子を見に来たんだから、あんまり酷いところ見せないでよ」
「あいよ!」
私は2人のやり取りをハラハラしながら聞いていた。
女王だと言ってしまって、ドキドキしたけれど、これは私は商会の娘を演じた方がいいのだろうな。
「じゃ、この部屋に入って」
ブレンダさんに言われて、大人しく小さな部屋に入る。
ブレンダさんは、奥から濃いブルーのワンピースを持ってきて、私に渡した。
「ライはランバラルドの商人なんだって? あなたの所の使用人かしら? ライはシャーロット様が即位する少し前から頻繁に町に現れてね。あちこちに顔を出しているのよ。きっと、報告は聞いていると思うけど、この町は死にそうなくらい息も絶え絶えだわ。でも、ライがこれからは政府の手も入ってどんどん良くなるって言ってくれて、町を出て行こうとした人達も思い留まって、商売を再開しようとしてるの。だから、あなたの所の商会も、この町に進出してくれると嬉しいわ」
ブレンダさんは私がドレスを脱ぐのを手伝ってくれながら、そんな話をした。
私がそのシャーロットだとバレないのは安心だけれども、パレードまでしたのに顔が知られていないなんて、ちょっと複雑。
きっと、この町には貴族も来ないから女王ではないとの思い込みで正体がバレないのだと思いたい。
「このワンピースね、ライがすごく時間をかけて選んだのよ。あなたに着せたかったのね。愛だわ!」
「えっ、」
「お嬢様と使用人の恋なんて、すごくロマンチック。身分差なんて乗り越えて、がんばってね! さあ、綺麗に着付けられたわ。ライに見せに行きましょう」
「は? え、ちょっと、身分差って」
私が何か言っても聞いてくれず、ブレンダさんは私の手を引いて、店先で他の服を見ているライのところに連れて行った。
ブレンダさん、身分違いの恋は、ライではなくて私の方が釣り合わない身分なの。
そうは言えなくて……。
おずおずとライの前に出て行くと、ライは私に気が付いて、にっこりと笑った。
「やっぱりロッテには青がよく似合う」
「はいはい。ライ、お嬢さん、ご馳走様。まだあんまりやっているお店は少ないけど、向こう通りのカフェは今日から再開したって言ってたわよ。デートにはうってつけだから、行ってみたら?」
「ほんとか? ブレンダさん、情報ありがとう!」
ライリー殿下はそう言うと、店を出て行こうとした。
「ライ、ちょっと待って、お金!」
ライリー殿下に背中を押されながらも、泥棒はいけないと、ライリー殿下に言うと、ブレンダさんが答えた。
「お嬢さん、お代はライからもらってるから安心して、この後のカフェもライにたかりなさいね~」
ブレンダさんは、ヒラヒラと手を振って私達を見送った。
「ライ、私、お金を持ってきてないわ」
隣を歩くライリー殿下に言うと、笑って私の手を取った。
「だって、ロッテ、前に服をプレゼントしたいって言ったら、断ったじゃないか。だから、その分。オレがプレゼントしたいんだ。もらって?」
手を繋いで、恋人同士のように道を歩く私達。
「ありがとう。大事にするわ」
私が嬉しくて微笑むと、ライリー殿下も少し赤くなって、微笑み返してくれた。
「うーん。ねえ、ロッテの服を持ってくることってできない?」
そう言われてライリー殿下の服を見ると、ライの時に来ていた服だった。
ゆっくりと地面に降ろされた私は、首を横に振る。
「やっとの思いでジュディに嘘を言ってきたのです。これ以上は無理ですー……」
もう一度部屋に戻って、ジュディに言い訳をするなんて考えたら、涙が出そう。
「ごめんごめん。じゃ、そのままでいいや。城の裏に馬車を待たせてあるから、それに乗ろう」
ライリー殿下は私よりもボナール城を熟知しているらしく、人目を避けてずんずん歩き、城の裏手門まできてしまった。
ライリー殿下が言ったように、門の前には馬車が待っていたけれど、最近私が乗る王家の紋章が入った馬車ではなかった。
私はそれに、こっそりと乗り込んだ。
「ライリー殿下、どこに行かれるのでしょうか?」
「うん? ああ、まず服屋かな。ロッテはどこか行きたいところ、ある?」
「いえ、どこという所は」
「じゃ、おいおい考えよう。それと、今日はオレはライ、ね」
ライ、ロッテと呼び合っていたのはつい最近なのに、殿下と呼ばないのは少し抵抗がある。
それでも私は小さく頷いた。
王家の馬車より小さいそれは、向かい合わせで座るライリー殿下との距離が近くて、挙動不審になってしまう。
何か話そうと思って顔を上げると、上機嫌で窓の外を見ている殿下が目に入った。
頬杖をついている頬の下。唇に自然と目がいく。
やだ。
変に意識したらしゃべれなくなっちゃった。
そのまま、私たちは無言で馬車が止まるのを待っていた。
「ロッテ、着いたみたいだ」
ライリー殿下が馬車を降りて、手を差し出し、私を降ろしてくれた。
「ここは?」
「城下町。ランバラルドとは違う風景なのがよくわかるだろう?」
かつて見たランバラルドの町並みは、とても賑やかで華やいでいた。
トランケもいつだってお客さんが中にいたし、パルフェだって、お客さんが途切れることなんて、あまりなかった。
ボナールの町は、シャッターが降りていて、歩く人も少ない。
わかっていたことだけど、ライリー殿下は何を見せたいのだろう。
私には、この光景を見るのは少し辛い。
「まあ、まずその服をなんとかしよう。このお店に入って」
素早く手を取られて、小さなお店のドアをくぐった。
お店の中は、何人かの女性が慌ただしく動いていた。
大きな布地を持った女性が、こちらを振り返る。
「いらっしゃいませ~、って、ライかあ。また冷やかしなら帰ってくんない?」
30代くらいのその人は、ライのことを知っているようで、にこやかに嫌味を言っていた。
「ブレンダさん、ひどいなあ。今日はちゃんとお客だよ。この子にこの前の服を着せてくれない?」
「あら、散々値切って買わなかったあの服ね?」
「ブレンダさんっ!」
「あはは。いいわ、お嬢さん、こっちに来てくれる? それにしてもすごいドレスねぇ。どこかの商家のお嬢様?」
ブレンダさんと呼ばれたその人は、布地を台に置いて私を店の中へと連れて行こうとした。
「オレが連れて来たその人は、なんとこの国の女王様だよ」
「ライ、何ばかなこと言ってんだい? この町に女王様はおろか、貴族の姫様だって来やしないよ。いいとこ大きな商会の娘さんだろ?」
「ブレンダさんは騙せないな~。そうだよ。今度この町に進出する商会の娘さん。様子を見に来たんだから、あんまり酷いところ見せないでよ」
「あいよ!」
私は2人のやり取りをハラハラしながら聞いていた。
女王だと言ってしまって、ドキドキしたけれど、これは私は商会の娘を演じた方がいいのだろうな。
「じゃ、この部屋に入って」
ブレンダさんに言われて、大人しく小さな部屋に入る。
ブレンダさんは、奥から濃いブルーのワンピースを持ってきて、私に渡した。
「ライはランバラルドの商人なんだって? あなたの所の使用人かしら? ライはシャーロット様が即位する少し前から頻繁に町に現れてね。あちこちに顔を出しているのよ。きっと、報告は聞いていると思うけど、この町は死にそうなくらい息も絶え絶えだわ。でも、ライがこれからは政府の手も入ってどんどん良くなるって言ってくれて、町を出て行こうとした人達も思い留まって、商売を再開しようとしてるの。だから、あなたの所の商会も、この町に進出してくれると嬉しいわ」
ブレンダさんは私がドレスを脱ぐのを手伝ってくれながら、そんな話をした。
私がそのシャーロットだとバレないのは安心だけれども、パレードまでしたのに顔が知られていないなんて、ちょっと複雑。
きっと、この町には貴族も来ないから女王ではないとの思い込みで正体がバレないのだと思いたい。
「このワンピースね、ライがすごく時間をかけて選んだのよ。あなたに着せたかったのね。愛だわ!」
「えっ、」
「お嬢様と使用人の恋なんて、すごくロマンチック。身分差なんて乗り越えて、がんばってね! さあ、綺麗に着付けられたわ。ライに見せに行きましょう」
「は? え、ちょっと、身分差って」
私が何か言っても聞いてくれず、ブレンダさんは私の手を引いて、店先で他の服を見ているライのところに連れて行った。
ブレンダさん、身分違いの恋は、ライではなくて私の方が釣り合わない身分なの。
そうは言えなくて……。
おずおずとライの前に出て行くと、ライは私に気が付いて、にっこりと笑った。
「やっぱりロッテには青がよく似合う」
「はいはい。ライ、お嬢さん、ご馳走様。まだあんまりやっているお店は少ないけど、向こう通りのカフェは今日から再開したって言ってたわよ。デートにはうってつけだから、行ってみたら?」
「ほんとか? ブレンダさん、情報ありがとう!」
ライリー殿下はそう言うと、店を出て行こうとした。
「ライ、ちょっと待って、お金!」
ライリー殿下に背中を押されながらも、泥棒はいけないと、ライリー殿下に言うと、ブレンダさんが答えた。
「お嬢さん、お代はライからもらってるから安心して、この後のカフェもライにたかりなさいね~」
ブレンダさんは、ヒラヒラと手を振って私達を見送った。
「ライ、私、お金を持ってきてないわ」
隣を歩くライリー殿下に言うと、笑って私の手を取った。
「だって、ロッテ、前に服をプレゼントしたいって言ったら、断ったじゃないか。だから、その分。オレがプレゼントしたいんだ。もらって?」
手を繋いで、恋人同士のように道を歩く私達。
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