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#015 『体罰少女』
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70年代の頭くらいの話だというから、ずいぶん昔の出来事である。
朋子さんはその時分、小学校四年生だった。
秋口。夕焼けが鮮やかに燃え落ちてゆく中、彼女は校舎の中から走り出た。
明日リコーダーの試験があるというのに笛を忘れてしまった、という事実に帰り道で気付き、どうしようと散々迷った末、やはり練習が出来ないのは困ると慌てて引っ返したのであった。
真っ赤に夕日で染まった誰もいない教室は、真っ暗なのと同じくらい怖かったという。
――さっちゃんも、やなちゃんも、ちょっとくらい付いてきてくれても良かったのに――
見当外れの怒りを友達に向けながら、それでも「お化けに逢わなくてよかった」とホッと一息。校門の方へタッタッタと走る。
そろそろ日も短くなっている。早く帰らないと暗くなる。怒られる。
そんなことを考えながら、脚を進めてゆく。
と。誰かが、運動場前の花壇近くに立っているのに気付く。
「え?!」
真っ裸の女の子だった。
五、六年生くらいだろうか。背が高い。
一糸まとわぬ姿で直立し、涙をぼろぼろ流しながら、ヒックヒックと泣き咽んでいる。
〝先生は バカだ!先生は バカなんだ!!〟
びっくりするようなことを、その女の子は叫んでいた。
当時。学校教師というのは完全に聖職者であり、ルールそのものであった。もし学校で先生に大目玉を貰い、家に帰って「先生に殴られた」などと親に言おうものなら、「お前が悪いから先生も殴るんだ!」と逆にゲンコツを落とされた。そういう時代だったのだ。
なのに、声高に教師を貶め、糾弾するようなことを、この人は喚いている。
そうか、何か悪いことをして、こういう体罰を受けているのだな。朋子さんはピンと来た。しかし、女の子を裸にするなんて、あまりにもひどい。なに先生なのだろう。体育の○○先生か、国語の××先生か・・・・・・
〝先生は バカだ!ほんとうに バカなんだ!!〟
夕焼けに照らされ、その子は全身が真っ赤に見えた。何故か特に、太ももから下あたりがすこぶる赤く見えた、と朋子さんは語る。
何処から湧いてくるのだろうと心配になるほど、滂沱の涙をこぼし続けている。
かわいそう――
――ん?
その時、女の子の髪型が、かなり時代遅れなおかっぱ頭なのに彼女は気付いた。
かなり綺麗な顔立ちの子なのに。いまどき、こんな古い髪型の子、何処にもいない。
しばらく眺めていたが、「あっ、これって失礼だ」と思い当たった為、そそくさと校門を出た。誰でも、傍から見られて面白い姿ではなかろう。それに もし目が合うと気まずいし、どうしたの・・・と話しかけている時に彼女を叱っている先生がやって来たら、もの凄く怒られるかも知れないと怖くなったのもある。
とにかく、帰った。
※ ※ ※ ※
翌日 登校すると、校内が騒然としていた。
校長先生が亡くなった、という。
いつも笑顔で優しく、児童に紳士的な校長先生だったのに。
だが男子も女子も、わいわいがやがやと、その死を悼んでいるような雰囲気ではない。いったいどうしたんだと、朋子さんは クラスの情報屋である みっちゃんに尋ねてみた。
「どうもこうも!校長先生の死に方、すっごく ヘンだったらしいのよ!!」
何でも校長先生は、いきなり深夜、「キェェー!!」と鶏のような声を発し、布団の中から飛び起きた。
そして何かにとり憑かれたように慌ただしく家中を走り回り、「何で今頃、何で今頃、」と喚き続け、書斎の中へ飛び込んだ。
そして本棚や机の角などにガンガン頭を叩き付けながら、「俺が悪かった、ちず子、赦してくれ、赦してくれ――」と、知らない女の人の名前を叫びつつ、自ら舌を噛み切ってそれを飲み込んだのだ、と。
「死んだ原因は、飲み込んだ舌が喉を詰まらせたから、なんだって! ・・・ちず子って誰かしらね。校長先生のウワキの相手かしら。ねぇ、朋子ちゃん!」
『あの子』がやったのかも知れない、と朋子さんは思っている。
しかし不思議と、『あの子』を責める気持ちにはならない。怖くもない。
ただし、とてもかわいそうな子だったのだな とは感じる、と。
校長先生からは、「君は絵が上手いね」と褒められたことがあるという。
だから、よけいに、いろいろなことが、ショックなのだそうだ。
40年少し経った、現在でも。
朋子さんはその時分、小学校四年生だった。
秋口。夕焼けが鮮やかに燃え落ちてゆく中、彼女は校舎の中から走り出た。
明日リコーダーの試験があるというのに笛を忘れてしまった、という事実に帰り道で気付き、どうしようと散々迷った末、やはり練習が出来ないのは困ると慌てて引っ返したのであった。
真っ赤に夕日で染まった誰もいない教室は、真っ暗なのと同じくらい怖かったという。
――さっちゃんも、やなちゃんも、ちょっとくらい付いてきてくれても良かったのに――
見当外れの怒りを友達に向けながら、それでも「お化けに逢わなくてよかった」とホッと一息。校門の方へタッタッタと走る。
そろそろ日も短くなっている。早く帰らないと暗くなる。怒られる。
そんなことを考えながら、脚を進めてゆく。
と。誰かが、運動場前の花壇近くに立っているのに気付く。
「え?!」
真っ裸の女の子だった。
五、六年生くらいだろうか。背が高い。
一糸まとわぬ姿で直立し、涙をぼろぼろ流しながら、ヒックヒックと泣き咽んでいる。
〝先生は バカだ!先生は バカなんだ!!〟
びっくりするようなことを、その女の子は叫んでいた。
当時。学校教師というのは完全に聖職者であり、ルールそのものであった。もし学校で先生に大目玉を貰い、家に帰って「先生に殴られた」などと親に言おうものなら、「お前が悪いから先生も殴るんだ!」と逆にゲンコツを落とされた。そういう時代だったのだ。
なのに、声高に教師を貶め、糾弾するようなことを、この人は喚いている。
そうか、何か悪いことをして、こういう体罰を受けているのだな。朋子さんはピンと来た。しかし、女の子を裸にするなんて、あまりにもひどい。なに先生なのだろう。体育の○○先生か、国語の××先生か・・・・・・
〝先生は バカだ!ほんとうに バカなんだ!!〟
夕焼けに照らされ、その子は全身が真っ赤に見えた。何故か特に、太ももから下あたりがすこぶる赤く見えた、と朋子さんは語る。
何処から湧いてくるのだろうと心配になるほど、滂沱の涙をこぼし続けている。
かわいそう――
――ん?
その時、女の子の髪型が、かなり時代遅れなおかっぱ頭なのに彼女は気付いた。
かなり綺麗な顔立ちの子なのに。いまどき、こんな古い髪型の子、何処にもいない。
しばらく眺めていたが、「あっ、これって失礼だ」と思い当たった為、そそくさと校門を出た。誰でも、傍から見られて面白い姿ではなかろう。それに もし目が合うと気まずいし、どうしたの・・・と話しかけている時に彼女を叱っている先生がやって来たら、もの凄く怒られるかも知れないと怖くなったのもある。
とにかく、帰った。
※ ※ ※ ※
翌日 登校すると、校内が騒然としていた。
校長先生が亡くなった、という。
いつも笑顔で優しく、児童に紳士的な校長先生だったのに。
だが男子も女子も、わいわいがやがやと、その死を悼んでいるような雰囲気ではない。いったいどうしたんだと、朋子さんは クラスの情報屋である みっちゃんに尋ねてみた。
「どうもこうも!校長先生の死に方、すっごく ヘンだったらしいのよ!!」
何でも校長先生は、いきなり深夜、「キェェー!!」と鶏のような声を発し、布団の中から飛び起きた。
そして何かにとり憑かれたように慌ただしく家中を走り回り、「何で今頃、何で今頃、」と喚き続け、書斎の中へ飛び込んだ。
そして本棚や机の角などにガンガン頭を叩き付けながら、「俺が悪かった、ちず子、赦してくれ、赦してくれ――」と、知らない女の人の名前を叫びつつ、自ら舌を噛み切ってそれを飲み込んだのだ、と。
「死んだ原因は、飲み込んだ舌が喉を詰まらせたから、なんだって! ・・・ちず子って誰かしらね。校長先生のウワキの相手かしら。ねぇ、朋子ちゃん!」
『あの子』がやったのかも知れない、と朋子さんは思っている。
しかし不思議と、『あの子』を責める気持ちにはならない。怖くもない。
ただし、とてもかわいそうな子だったのだな とは感じる、と。
校長先生からは、「君は絵が上手いね」と褒められたことがあるという。
だから、よけいに、いろいろなことが、ショックなのだそうだ。
40年少し経った、現在でも。
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