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#024 『電花』
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とある有名和食店で花板(板前の最上位)を務めたこともある光浦さんが、まだ若い頃の体験。
彼は高校を出ると直ぐに老舗割烹で働きはじめた。度胸もすわっており、辛抱強さも兼ね備えた光浦さんであったが、ただひとつだけ、どうにも 仕事関係で困ったことがあった。
彼は当時、板場で中位から下くらいのスタンスにあり、仕事が終わった後の戸締まりなどを確認する役割も任されていたのであるが、
仕事場の裏口近くにある、電気照明のスイッチを切る時に、必ずビリッと 痺れたような感覚が走るのだ。
「あつっ! ・・・板長、ここ、漏電してるんじゃないですか?」
はじめてビリッと来た日、彼は直ぐにそう報告した。本当に漏電していたら、火事の原因にもなりかねないからだ。
何、漏電? 板長は飛んできて、自分自らスイッチをON、OFFにしてみる。
「何ともないぞ」
念の為、数人の板前がスイッチを触ってみるが、彼らに限って何ともない。
だが、光浦さんが触れた時だけ、
「あつっ! ・・・やっぱ来ます。感電したみたい・・・」
それは思い込みだ!と板長から吐き捨てられた。
漏電しているかも、などと思い込むから、ありもしない電気を感じるのだ、と。
それ以来、最後の点検を苦に感じるようになった。
ある程度の痛みなら我慢出来るが、この奇妙な痺れだけは何度経験しても慣れなかった。
仕方なく、包丁の柄の部分を使ってスイッチを触っていたのだが、それを先輩の板前に見つかり、出刃包丁の峰の部分でガツーンと頭を殴られた。
「何をやってるんだバカ!包丁は、そうやって使うもんじゃねぇ!!」
頭を打つもんでもないだろう、と心中で毒づきながらも、上下関係の徹底した職場であるがゆえ、それからどうあっても素手でスイッチを扱わなくてはならなくなった。
毎日、最低一回は必ず感電する。それはとても憂鬱な日常だったという。
※ ※ ※ ※
そんなある日のこと。
「光浦さん、ちょっといいスか」
新入りの板前が、仕込み合間の小休憩の時間に そう話しかけてきた。
「店の裏手の電気スイッチのとこに咲いてる花、あれ、わざと飾ってるわけじゃなかったんですよね?引き抜いて捨てちまったんですが」
花?と聞くと、「ええ、光浦さんて いつも最後に消灯とか確認してるじゃないですか。あれ、そん時邪魔だと思って・・・」 若い板前は、そう続ける。
「花なんて知らんぞ」
「うそぉ。あんな目立って咲いてたじゃないですか。壁に咲いてる花なんて珍しいから、捨てた後に『あれはもしかしてわざと植えてるんじゃ・・・』って思い立って。心配になったから、今 聞いてみたんス」
「ふぅん。どんな花だ?」
「ええと、何てったらいいかな。スミレみたいな、チューリップみたいな・・・」
「スミレとチューリップは だいぶ違うだろ」
「すんません、俺、植物弱いんス・・・ とにかく、ピンク色の花でした。アレ、捨てちゃいましたから!」
ヘンなことを言う奴だ、と思った。
だが、次に新入りが言った言葉で、光浦さんは彼の報告を信じる気になる。
「何か引き抜く時、ビリッと痺れちゃいましたよ。アレって、電気を養分にでもしてたんでしょうかねぇ」
※ ※ ※ ※
それ以来、最後の点検で光浦さんが感電することは無くなった。
例の新入りには恩を感じた為、一人前になるまで 特に目をかけてやったという。
彼は高校を出ると直ぐに老舗割烹で働きはじめた。度胸もすわっており、辛抱強さも兼ね備えた光浦さんであったが、ただひとつだけ、どうにも 仕事関係で困ったことがあった。
彼は当時、板場で中位から下くらいのスタンスにあり、仕事が終わった後の戸締まりなどを確認する役割も任されていたのであるが、
仕事場の裏口近くにある、電気照明のスイッチを切る時に、必ずビリッと 痺れたような感覚が走るのだ。
「あつっ! ・・・板長、ここ、漏電してるんじゃないですか?」
はじめてビリッと来た日、彼は直ぐにそう報告した。本当に漏電していたら、火事の原因にもなりかねないからだ。
何、漏電? 板長は飛んできて、自分自らスイッチをON、OFFにしてみる。
「何ともないぞ」
念の為、数人の板前がスイッチを触ってみるが、彼らに限って何ともない。
だが、光浦さんが触れた時だけ、
「あつっ! ・・・やっぱ来ます。感電したみたい・・・」
それは思い込みだ!と板長から吐き捨てられた。
漏電しているかも、などと思い込むから、ありもしない電気を感じるのだ、と。
それ以来、最後の点検を苦に感じるようになった。
ある程度の痛みなら我慢出来るが、この奇妙な痺れだけは何度経験しても慣れなかった。
仕方なく、包丁の柄の部分を使ってスイッチを触っていたのだが、それを先輩の板前に見つかり、出刃包丁の峰の部分でガツーンと頭を殴られた。
「何をやってるんだバカ!包丁は、そうやって使うもんじゃねぇ!!」
頭を打つもんでもないだろう、と心中で毒づきながらも、上下関係の徹底した職場であるがゆえ、それからどうあっても素手でスイッチを扱わなくてはならなくなった。
毎日、最低一回は必ず感電する。それはとても憂鬱な日常だったという。
※ ※ ※ ※
そんなある日のこと。
「光浦さん、ちょっといいスか」
新入りの板前が、仕込み合間の小休憩の時間に そう話しかけてきた。
「店の裏手の電気スイッチのとこに咲いてる花、あれ、わざと飾ってるわけじゃなかったんですよね?引き抜いて捨てちまったんですが」
花?と聞くと、「ええ、光浦さんて いつも最後に消灯とか確認してるじゃないですか。あれ、そん時邪魔だと思って・・・」 若い板前は、そう続ける。
「花なんて知らんぞ」
「うそぉ。あんな目立って咲いてたじゃないですか。壁に咲いてる花なんて珍しいから、捨てた後に『あれはもしかしてわざと植えてるんじゃ・・・』って思い立って。心配になったから、今 聞いてみたんス」
「ふぅん。どんな花だ?」
「ええと、何てったらいいかな。スミレみたいな、チューリップみたいな・・・」
「スミレとチューリップは だいぶ違うだろ」
「すんません、俺、植物弱いんス・・・ とにかく、ピンク色の花でした。アレ、捨てちゃいましたから!」
ヘンなことを言う奴だ、と思った。
だが、次に新入りが言った言葉で、光浦さんは彼の報告を信じる気になる。
「何か引き抜く時、ビリッと痺れちゃいましたよ。アレって、電気を養分にでもしてたんでしょうかねぇ」
※ ※ ※ ※
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