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#029 『ちがうくなる』
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80年代の初頭の話。
当時中学生だった柏木さんは、
〝気がつくと自分は掛け布団の行商人になっていて日本中をその商売をしながら旅している。行った先々で小鳥と喋ったり悪者をやっつけたりして、行商以外のことでたくさんの人から褒められながら、やがて老人となり、若い頃の冒険談を若い人たちに話しつつも、同時に今自分が使っている掛け布団の自慢をやっている〟
という支離滅裂な夢を見て、目が覚めると同時に「これは10年に一度、見るか見ないかの面白さだぞ」と感じて 急いでノートに筆記した。
その日の夜、改めて読んでみると「何だ俺、こんなこと書いたっけぇ?!」と意外に寝起きの頃の記憶を忘れていることにビックリし、またその内容のバカバカしさに、ひとり腹を抱えて大笑いした。
それ以来、ちょっとでも夢を見ると 翌朝それを書き留める癖がついてしまった。
このおかしな癖のおかげで、わりと早起きの遅刻知らずだったという。
ある冬の日の朝、目覚めた彼は〝夢ノート〟を開いた。
その日見た夢を書き記す為だ。
ええと。まず、舞台は何処何処で、自分は何々の行動をしていて・・・と頭の中で反芻をしながら、ページをぺらぺらと捲る。
――おや?と首を傾げる。
今日の日付で、既に何やら文字が綴られているのだ。
〝すべてがちがうくなる〟
寝起きの、いつもの自分の字。みみずがのたくったような筆跡。
「えっ・・・何だこれ」
むろん、柏木さんには覚えがない。
〝ちがうくなる〟とはどういう意味だろうか。それもわからない。
「・・・まぁいいや。前に書いた時、無意識にヘンな文章でも綴ったんだろ」
あまり気にもせず、その日見た夢を書き留めてノートを閉じた。
※ ※ ※ ※
その数日後の朝。
また夢を見た柏木さんは、再び夢ノートを開いた。
ええと。まず、舞台は何処何処で、自分は何々の行動をしていて・・・ いつものように、ページを捲っていく。
――あれ?
――今日のこれ、何か、おかしくないか?
――あ。
「きゅっ」と変な声が出た。
(何だ。俺の字じゃないぞ・・・!!)
一瞬にして、ぼんやりしていた意識が覚醒したという。
――愛用していたノートの中の文字が、何と最初から最後まで全部、 今までの自分の筆跡とは似ても似つかぬ整然としたものに変わっている。
誰の字だ。
上手すぎる。柏木さんの書ける文字では、絶対にない。
家族の誰かのものでもない。
字の上手な誰かが、そっくりそのまま自分の夢ノートを筆写し、密かにすり替えたのだろうか?いや、そんなことをする意味がわからないし、そもそも表紙のちょっとした染みや鉛筆の擦れた跡などからして、間違いなくこれは自分が今まで使っていたノートなのである。
頬をつねったら、痛かった。
まだ夢を見ているのかも・・・という儚い期待も潰えた。
これは不気味だ、不思議だ、父ちゃんと母ちゃんにも見せてやろうと思った。
ノートを引っ摑み、いそいそと居間の方へ向かう。
と、
ひとりでに、がらり、 居間の戸が開いた。
父親が、ランニングシャツにステテコパンツといった格好で出てきた。
目が据わっている。
「・・・どけ。寝直す。仕事は、休む!!」
そう言って、どたどたと慌ただしい足音を残して寝室の方へと歩いていった。
早朝にも関わらず、呼気からは濃厚な焼酎の臭いが感じられた。
居間の中を覗くと、しくしく部屋の隅で泣いている母親の姿が見えた。
あ、今日もこの展開か、と思った。
※ ※ ※ ※
それから一月後、父と母は離婚した。
いつか来ると予想していた日が、とうとう来たという感じだった。
柏木さんはお母さんに付いていくことに決めた。
現在名乗っている柏木という名字も、お母さん方のものである。
転居に伴い、それまで住んでいた鹿児島から宮崎の方へと転校した。
住処や方言、同級生のノリの違い、はたまた自分自身のキャラクターなど、まったく彼の生活は一変することとなった。
まさに、〝全てが違うく〟なってしまったのである。
〝夢ノート〟は処分した記憶がないので家の中を探せば見つかるかも知れないが、個人的に二度と読み返したくない、と柏木さんは語った。
当時中学生だった柏木さんは、
〝気がつくと自分は掛け布団の行商人になっていて日本中をその商売をしながら旅している。行った先々で小鳥と喋ったり悪者をやっつけたりして、行商以外のことでたくさんの人から褒められながら、やがて老人となり、若い頃の冒険談を若い人たちに話しつつも、同時に今自分が使っている掛け布団の自慢をやっている〟
という支離滅裂な夢を見て、目が覚めると同時に「これは10年に一度、見るか見ないかの面白さだぞ」と感じて 急いでノートに筆記した。
その日の夜、改めて読んでみると「何だ俺、こんなこと書いたっけぇ?!」と意外に寝起きの頃の記憶を忘れていることにビックリし、またその内容のバカバカしさに、ひとり腹を抱えて大笑いした。
それ以来、ちょっとでも夢を見ると 翌朝それを書き留める癖がついてしまった。
このおかしな癖のおかげで、わりと早起きの遅刻知らずだったという。
ある冬の日の朝、目覚めた彼は〝夢ノート〟を開いた。
その日見た夢を書き記す為だ。
ええと。まず、舞台は何処何処で、自分は何々の行動をしていて・・・と頭の中で反芻をしながら、ページをぺらぺらと捲る。
――おや?と首を傾げる。
今日の日付で、既に何やら文字が綴られているのだ。
〝すべてがちがうくなる〟
寝起きの、いつもの自分の字。みみずがのたくったような筆跡。
「えっ・・・何だこれ」
むろん、柏木さんには覚えがない。
〝ちがうくなる〟とはどういう意味だろうか。それもわからない。
「・・・まぁいいや。前に書いた時、無意識にヘンな文章でも綴ったんだろ」
あまり気にもせず、その日見た夢を書き留めてノートを閉じた。
※ ※ ※ ※
その数日後の朝。
また夢を見た柏木さんは、再び夢ノートを開いた。
ええと。まず、舞台は何処何処で、自分は何々の行動をしていて・・・ いつものように、ページを捲っていく。
――あれ?
――今日のこれ、何か、おかしくないか?
――あ。
「きゅっ」と変な声が出た。
(何だ。俺の字じゃないぞ・・・!!)
一瞬にして、ぼんやりしていた意識が覚醒したという。
――愛用していたノートの中の文字が、何と最初から最後まで全部、 今までの自分の筆跡とは似ても似つかぬ整然としたものに変わっている。
誰の字だ。
上手すぎる。柏木さんの書ける文字では、絶対にない。
家族の誰かのものでもない。
字の上手な誰かが、そっくりそのまま自分の夢ノートを筆写し、密かにすり替えたのだろうか?いや、そんなことをする意味がわからないし、そもそも表紙のちょっとした染みや鉛筆の擦れた跡などからして、間違いなくこれは自分が今まで使っていたノートなのである。
頬をつねったら、痛かった。
まだ夢を見ているのかも・・・という儚い期待も潰えた。
これは不気味だ、不思議だ、父ちゃんと母ちゃんにも見せてやろうと思った。
ノートを引っ摑み、いそいそと居間の方へ向かう。
と、
ひとりでに、がらり、 居間の戸が開いた。
父親が、ランニングシャツにステテコパンツといった格好で出てきた。
目が据わっている。
「・・・どけ。寝直す。仕事は、休む!!」
そう言って、どたどたと慌ただしい足音を残して寝室の方へと歩いていった。
早朝にも関わらず、呼気からは濃厚な焼酎の臭いが感じられた。
居間の中を覗くと、しくしく部屋の隅で泣いている母親の姿が見えた。
あ、今日もこの展開か、と思った。
※ ※ ※ ※
それから一月後、父と母は離婚した。
いつか来ると予想していた日が、とうとう来たという感じだった。
柏木さんはお母さんに付いていくことに決めた。
現在名乗っている柏木という名字も、お母さん方のものである。
転居に伴い、それまで住んでいた鹿児島から宮崎の方へと転校した。
住処や方言、同級生のノリの違い、はたまた自分自身のキャラクターなど、まったく彼の生活は一変することとなった。
まさに、〝全てが違うく〟なってしまったのである。
〝夢ノート〟は処分した記憶がないので家の中を探せば見つかるかも知れないが、個人的に二度と読み返したくない、と柏木さんは語った。
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