真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#028 『T字』

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 私とは親子以上に年の離れた馬飼まかいさんという方のお母様が87歳の御高齢で亡くなったのは、もう4年も前の話であるそうだ。
 かなり重度の認知症を患っておいでだったので、「こんな言い方はとても不謹慎かも知れませんが・・・ 家族には正直、ホッとした雰囲気が漂っていました」と馬飼さんは仰られる。
 四十九日の供養も終わり――そのお母様の形見の品を検分していた時、妙なものが発見されたという。
 「あなた、ちょっと・・・」 奥様から「お義母さんの部屋の押し入れの中から出てきたんだけど」とそれを見せられた馬飼さんは、一瞬にして冷や汗が流れたという。


 大型の段ボール箱いっぱいの、錆び付いたT字カミソリ。


「こんなのが、おふくろの部屋に?」
「ええ。気味が悪いわ」
「気味が悪いなんてもんじゃないだろ・・・」

 旦那さんも、息子の馬飼さん自身も、電動カミソリを愛用していたというのに―― 何故これほどの(100を優に超える!)T字カミソリを蒐集出来たのか、まずそこがわからなかった。
 更に、その全てが十年以上も放置しておいた様に赤錆だらけだった、というのも不可解な事態に拍車をかけた。
 認知症の人間がとんでもない所にとんでもない物を直し込んでしまうという事例は聞いたことがあるが、これはちょっと特殊なんじゃないか、と馬飼さん自身も感じたという。

 85歳になるお父さんにも、念の為に見せてみた。
 予想通り、お父さんは「うわぁ!」と声を出してビックリした様子だったが、

「なるほどなぁ、最近、どうも頭が痛いと思っておったら、これが原因だったか」

 ――異なことを言う。

「・・・え、何だって。親父。それ、どういう意味だ?」
「は? ・・・あ、ああ。何でだろうな。何でだか、そう思ったんだ・・・」

 おいおい、と思う。
 親父まで認知症になっちまったら困るぜ? 馬飼さんが口を尖らせながら言うと、「おぅおぅ、悪かった悪かった」 お父さんは、苦笑いしながら頭を掻く。

「とにかく、これはしばらくウチに置いといてくれんか。何だか曰くありげなモノのような気がするんだよ。一応、ウチのやつの形見だしな・・・」
「うん、俺もそう思う。とっとくのも気味悪いが、捨てて何かに祟られちまったらそっちも怖いしなぁ」

 『祟り』という言葉を口に出した時、何とも重い雰囲気が場に漂ってしまったことをいまだに反省する、と馬飼さんは言う。

 虱潰しに故人の部屋を探したが、怪しい形見はそれだけだった。
 ずっと父親が「頭が痛い、痛い」と言っていたことが少なからず 気がかりだった。

  ※   ※   ※   ※

 それから、数日後。

「あなた、知ってる?細井のおばさん、亡くなったらしいわよ・・・」
「えっ!あのゴミ屋敷のオバタリアンが?」

 その方は、近所でも有名な奇人女性であった。
 親も無く、子も無くの天涯孤独。だがお金は有り余るほど持っているらしく、大きなお屋敷に一人暮らしをされていた――までは良かったのだが。
 これが見事な〝大ゴミ屋敷〟で、「最近の人間は物を大切にする心を忘れている!世の中に捨てていいものなど 何もない!」という細井さんの哲学のもと、どんどん屋敷を彩るゴミ袋は増殖し、異臭の凄まじさも近隣住民から苦情が出るまでになっていた。
 更にこの人、ゴミ捨て場から他人のゴミまで拾って来るらしく、細井邸に自分が捨てた覚えのあるゴミの存在を認めたある住民が、訴訟騒ぎまで起こしかけたこともあったという。
 女性離れしたガッシリした体つきで、眼光も鋭く、殺しても死なないような人であったと馬飼さんは記憶していたのだが・・・

「脳梗塞だったらしいわよ。一人暮らしだったから、症状が出た時に 誰も病院に連れてってくれる人がいなかったんでしょうね・・・」
「脳梗塞」

 妙に、引っかかった。
 何故、そう言ったかは自分でもわからないというが、「おい、おふくろの例のT字カミソリの箱、ちょっと持って来てくれないか」と奥様に頼んだそうだ。
 もう無いわよ、との答えだった。
 あんな気味悪いもの 一昨日の燃えないゴミの日に出しちゃいましたよ、と。


 細井邸の膨大なゴミの中を漁れば、母親の部屋の押し入れにあった あの大量のT字カミソリが絶対に見つかる筈だ、と馬飼さんは断言している。
 ちなみにお父さんの頭痛は、奥様がカミソリを捨てた日の午後、けろりと治ってしまったそうだ。
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