真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#032 『元旦商店街』

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 80年代も後半に差し掛かった頃の話だという。

 元旦。のんびりしみじみ、時間だけがいたずらに過ぎていく目出度い一日。

 当時高校生だった森本さんは、テレビにもゲームにも飽き果てて暇を持てあました挙げ句、何も考えずに外へ出てみることにした。
 正月に出歩くのはあまり良くないぞ、お金は遣うな、一年の金遣いが粗くなるから―― そんな両親の温かい小言を背中に受け、とりあえず 家を出て近所をブラブラしていた。

 「金を使うな」とは言うが、田舎ではコンビニすら珍しかった当時、正月に開いている店などあるわけがない。神社に向かって初詣、などというガラでもない。

 どうしたもんかと ぼんやり考え、「そうだ、商店街に行ってみよう」と思い立った。

 正月は、一斉休業になっている筈である。

 今と違って、商店街という場所に活気があった時代だ。「白日の下、全ての店が閉まってガラーンとなった様」がどのようなものか見てみようじゃないか、という魂胆である。

 そんなわけで、行ってみた。
 おおっ、と思ったという。

 本当に全ての店がシャッターを下ろしている。森本さんの近所の商店街はお正月以外に一斉休業の日が無く、これは彼も初めて見る光景であった。
 車通りも無いので、堂々と道の真ん中を風を切って歩く。
 ゴーストタウンに俺ひとり、という風情だ。
 何とも いい気分。

 ――いま考えればバカみたいだが、当時はただそれだけで、むしょうに楽しかったのだという。
 これで乾燥したチョウセンアザミでもコロコロ転がって来れば、丸っきり西部劇だなぁと妄想しつつニヤニヤしていた。

 音が聞こえてきた。


 ヴゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・・


「ん?」

 前方から何かがやって来る。
 通りのド真ん中を通る自分の、ちょうど真ん前だ。
 ずぅっと道の向こう側から、高いモーター音を轟かせながら、それは目視出来る距離まで近寄ってきた。
 ラジコンカーだった。

(ラジコン?!!)

 白をメインとしながら赤いラインがカラーリングされたジープタイプのラジコンカーが、音も高く、通りの向こうから走ってきたのだ。
 周囲を見回す。誰もいない。
 おかしいじゃないか。なんて――

 ラジコンカーは、大口を開けたままの森本さんの回りをギュルンと回り、また彼の前方へと方向を転換し、商店街の向こう側まで走って行った。
 モーター音だけが、やけに長く聞こえ続けていた。
 追ってはいけない気がしたので、追わなかった。

  ※   ※   ※   ※

 家に帰って、いま体験したことを家族に話すと、「元旦早々、外へ出たりするからヘンなものを見るんですよ!」とお母さんから叱られた。お父さんも、「縁起が悪い。お祓いに行かなくていいのだろうか・・・」と渋い顔をしている。
 だが、お祖父ちゃんだけが森本さんを庇った。
 その上で、おい今からじいちゃんと一緒に神社にでも行かないか?と誘われた。
 やっぱりお祓いをさせられるのかなぁとガックリきた。

 神社に着くと、お祖父ちゃんは森本さんに「おみくじを引いてみろ」と言った。
「5回な」
「5回?!」
 何だそれはと思ったが、お金を貰ったので 言われた通りに5回、おみくじを引いた。

 すべてが大吉だった。

 えぇっ・・・

 あまりの出来事に言葉を無くしている中、お祖父ちゃんは「やっぱりな。はっはっは」と笑った後、「はぁ・・・」溜め息をつき、

「あれは縁起の悪いもんじゃないよ。むしろ その逆だ。 ・・・年末ジャンボでも買ってりゃ良かったんだがなぁ」


 儂も逢った、あれも元旦だった、とお祖父ちゃんは語った。

「――儂の時には、かっかん(お母さん)の労咳が治ったさ」

 お祖父ちゃんが見たものは、むろんラジコンカーなどではなく、子犬ほどの大きさの黄牛あめうしだったという。


 森本さんが引いた大吉のおみくじには全て、「健康運よろし、風邪ひとつひかぬ」と書いてあったが、果たして一年間、無病息災だったとのことである。
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