真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#053 『隠しメッセージ』

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 木田さんの家にケーブルテレビが引かれたのは、彼が高校1年生の頃。90年代末の時分であった。
 一日中アニメが観られるとあって、中学生だった妹と一緒に狂喜乱舞したことを覚えているというが、彼と妹さんの『ケーブルテレビの嗜み方』には、普通とちょっと違う、特殊なものがあったという。
 テレビ番組を楽しむのは勿論のこと。
 『番組表』を見るだけでも、じゅうぶん暇が潰せたというのだ。
 ――どういうことかというと。

「ぎゃははは!『機動戦士ガンダー』って何だっつーの!」
「兄ちゃん、これ。『美少女セーラー』だって!略し方おかしいし?もう番組違うし、みたいな!」

 そう。近所のケーブル局が印刷し、月初めに送ってくる番組表ときたら、史上希に見る 誤植の宝庫だったのである。
 その勢いたるや、「もうわざと間違ってません?」と言いたくなるほど。脱力&シュールのきわみで、爆笑必至のオンパレードであったという。

「一番ウケたのはですね・・・ 子供達を集めてお遊戯みたいなのをさせる『ワイワイランド』って番組があったんですけど、これが誤植で『ワイオワイオンドー』ってなってた時があって、」

 ――ここで私がツボにハマッてしまい、取材が5分あまり中断してしまった。

 ・・・ともあれ、ここまでくるともはや一つのエンターティメントだな、とまで木田兄妹は思い始めていた。
 一度ならず何度読んでも相変わらず笑えるので、先月・先々月までの番組表も、後生大事に保管していたのだという。

「あることに気付くまでは、 ね」

  ※   ※   ※   ※

 冬の寒さが本格化してきた時期のこと。
 学校から 身を縮こませて帰宅した木田さんは、冷えた身体を温めるべく、自室ではなく居間の方へ直行した。居間には、我が家ただ一つの こたつがあるのである。

「うぅ~、さっむぅ~・・・ っと。あれ、どうした?」

 こたつには先客が居た。ドテラ姿の妹さんである。
 何だか思い詰めたような、放心したような表情で、部屋の中に視線を泳がせている。

「おいっ、た・だ・い・ま!大丈夫かよ、おい」

 強めに声をかけると、「兄ちゃん、これ」と 妹さんはコタツの上に置かれた紙を指差す。 一つは今月のケーブルテレビ番組表、もう一つは、広告紙を裏返して何やらメモをとったものだ。

「お、来たんだ、番組表!そうか、もう月初めだもんな!」
 今月は何か 超笑えるのあったか?と尋ねてみる。
 妹さんは、答えない。
 それどころか、更に思い詰めたように俯いてしまう。

 ――学校で何かあったのか? 少しトーンを低くして問うと、妹さんは ふるふるとかぶりを振って、「実はね・・・」ぽつり、ぽつり。語り始めた。

「私、兄ちゃんより先に帰るじゃん。だから、番組表、先に見れるじゃん・・・そんで、今回はどんな誤植があるんだろうな・・・って。そうだ、どこがどう間違っているか一覧表にしてみたら面白いんじゃない?みたいな感じに思ってさ、」

 その一覧表が、例の広告紙なのだという。
 妹さんは、大らかな木田さんと違って かなり几帳面なタイプなのだ。

「まずね、ひらがなの間違いからまとめていこうと思ったんだ。アニメ欄だけで、全部で6文字あった。 で、それをこうやって、表にするでしょ。間違っていた文字は何で、正しい文字は何かって。 そしたら――」

 (違) (正)
  ま → み
  ん → な
  し → た
  う → き
  ひ → よ
  ぞ → か

「・・・って なるでしょ」
「―― お前、ホントに細かいな・・・」
「でね、私ね、こういうの見ると、何かパズルみたいに解きたくなるの。だから、我ながらバカみたいって思うんだけど、いろいろ並び替えちゃうんだよね。意味のある文章になるように」
「フーン。で、『意味のある文章』になるの?コレ」
「・・・なるよ。ほら」

 そう言って、妹さんは(違)と(正)の組み合わせはそのままに、文字の順番だけを入れ替えた表を、紙面に書き加えた。
 へぇ、どれどれ。 覗き込む木田さん。


「え  マジ・・・」


 (違) (正)
  し → た
  ん → な
  ぞ → か
  う → き
  ま → み
  ひ → よ

 ゾクッ、と厭な悪寒が身体を走った。

 しんぞうまひ。たなかきみよ。

 ・・・単なる偶然だよ!と木田さんは主張した。あまり神経質に考える事はない。たまたま女の人の名前と、その死因みたいな組み合わせになったんだよ、と。
 しかし。妹さんは、また首を横に振る。

「兄ちゃん・・・私の学校の近く、葬儀社の催事場 あるじゃん。そこに書いてあったの。この名前」
「え――」

 田中キミヨ  享年82歳

「今日、お葬式なんだよ、この人。たぶん、心臓マヒなんだよ・・・!」

 全身が痺れたように感じられたという。
 意味不明の恐怖が沸き立ち、「マジ、そんな・・・」と思わず口をついて出たものの、二の句がどうしても続けられない。

「い、いや。偶然だ!ものすごい偶然だよ、それしかねーし!」
「・・・あのね、兄ちゃん。私、カタカナの間違いも探したんだ」
「!!!」
「こうなった」

 (違) (正)
  ジ → タ
  サ → ケ
  ツ → シ

「・・・・・・!!」
「きっと近所で、タケシって名前の人が自殺するよ。たぶん、今月中に」

 するもんか!と思わず吠えてしまったという。
 いいか、もう番組表なんか見るな。お前はちょっとノイローゼなんだ。志望校のレベルが高いものな。今日から、もう少し勉強時間を削って睡眠時間に当てなきゃダメだぞ。そうすりゃ落ち着くから。いいか、わかったか――

 思えば、よくわからない言葉を妹に浴びせかけてしまいました、と木田さんは懺悔するように語られた。
 妹さんは、長い沈黙の後、嗚咽まじりに泣きだしたという。
 偶然だよね、兄ちゃん、偶然だよね―― 呪文のように、繰り返していた。



 10日後、木田さんのクラスメイトが亡くなった。
 三浦猛  享年15歳。
 いじめを苦にした 首つり自殺だった。

  ※   ※   ※   ※

 それから、木田兄妹は ぱったりと番組表を見なくなった。
 というか、番組表が無造作にお膳の上などに置かれている様を目にすること自体、恐ろしく感じるようになった。
 妹さんに至っては、それから一年ほどの間、テレビ番組を観るだけで心が激しい拒否反応を示したという。

「無理もないと思います・・・ 自分らがネタにしてゲラゲラ笑っていた誤植の中に、将来 死んでしまう人間に関する情報が〝隠しメッセージ〟として組み込まれていたかも知れなかったんですからね・・・」

 ――きっと、あの番組表を様々なやり方で解読すれば 毎月何人もの人間の〝死〟の予言が浮かび上がってきたと思いますよ――

 だから今でも漫画や小説を読んでいて誤植を見つけると背筋が凍りますね。
 木田さんは そう言い終えた後、強く唇を噛みしめた。
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