真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#054 『終了ました』

 日向ひゅうがさんという女性が、中学生の頃の話。

 ある初夏の日の朝、いつものように友達とお喋りしながら登校路を歩いていた彼女は、電柱に妙な貼り紙がしてあるのを見つけた。

【本日は終了しました終了ました】

 ゴシック体で印刷された黒い文字が、A4サイズくらいの大きさの白い紙に印刷して貼られていたという。

「やぁ!何これ、おっかし!」
「超ウケる-!〝終了ました〟だって」
「ちょっと待って。あそこにもあるみたいなんだけど?」

 友達の一人が指摘した通り、同じ貼り紙が少し離れた自販機の横にもペッタリ。
 それどころか、もう少し離れたポストの横にもペッタリ。
 もしかして、向こうの電柱にも貼ってあるんじゃない?などと盛り上がってきた日向さん達だったが、果たして道路の真向かいにある電柱にも同じ貼り紙がペッタリ。

 いたずらだろうか、誰の仕業なんだろう、文章おかしいの気づかなかったのかな?そもそも、何が「本日終了」したんだっつーの。

 さんざん貼り紙を笑い飛ばしながら学校へ向かった。いつもより遙かに楽しい朝だった。

  ※   ※   ※   ※

 その日の昼休みのことである。

 相変わらず友達とのお喋りに余念の無かった日向さんだが、突如〝ピンポンパーン〟と鳴り響いた校内放送で、高々と自分の名前を読み上げられた。

 え、なに、私?! 
 びっくりしていると、【担任の先生がお呼びです、至急 職員室に来てください】と放送は続ける。
 えー、だっるーい。用があるならそっちが来いって感じ! 友達と一緒にしばらく苦言で盛り上がりながらも、「ま、行ってみますか」とゆるゆる、彼女は職員室へ向かった。

「おお、日向!遅いじゃないか!」

 顔をしかめた担任のデスクの脇には、何故か学年主任の姿もあった。
 おいおいおい。どうしたの。私、何もやってないよ? ・・・実際は心当たりがないこともないので、思わずおろおろとなってしまう日向さん。
 すると担任は態度を改め、「・・・いいか、落ち着いて聞きなさい」と彼女の目を覗き込むようにして穏やかに言い、

「先ほど、ご両親から連絡があった。お祖母さんの容態が急変したらしい」
「!! えっ、お祖母ちゃんがっ!?」

 ショックで、頬が熱を宿したようになったという。
 当時 日向さんのお祖母様は重度の糖尿病を患っており、ほぼ毎日のように透析を行わなければならなかった為、介護施設に入っておられた。いつ病状が悪化して昏睡状態に陥ってもおかしくないと医師からも言われていたので、お祖母ちゃん子だった日向さんも 〝もしもの時〟の覚悟は決めていたつもりだった。
 そしていま、その〝もしもの時〟が来てしまったというのだ。

「とりあえず、家に帰って来なさいとの事だ。早く支度をするといい」

 学年主任の先生は、学校の外に出る用事があった為、ついでに日向さんを車で家に送り届けてあげようと、待っていて下さったのだった。
 聞いてないよ・・・こんなんだったら、超ソッコーで来るんだった! 激しく後悔しながらも慌てて帰り支度を整えた日向さんは、そのまま学年主任の車に乗り込み、急ぎ帰宅の人となった。

 やがて自宅に到着。何度もお礼を言って、学年主任を見送る。

 おそらくこれから、家族と一緒にお祖母ちゃんの所へ向かう運びになるんだろう―― そう考えながら、玄関のドアを開けようとして、

「? あれ、鍵が・・・」

 閉まっている。
 どうしたことだろう?
 家には、いつも母親が居る筈だ。日中に施錠されていることなど、滅多に無い。あまつさえ、今は祖母の一大事なのだ。学校に電話までしておきながら、ただ今 外出中というオチもなかろう。

 まさか。自分があまりにも遅いので、痺れを切らした家族らは 一足先にお祖母ちゃんの所へ行ってしまったのでは。

 ――不安を打ち消すように、鞄の中を探った。
 もしもの時の為、合い鍵を持たされている。
 ・・・あった!
 直ぐさま解錠し、家の中に入る。

 やはり誰も居ない。

 イヤな予感は高まる。お母さんの携帯電話に連絡を入れるか?いや、まずはちゃんと家の中を確認してからの方がいいか。
 「ねぇー!」「お母さーん?!」呼びかけながら部屋を回るが、やはり誰も居ないようだ。それどころか電気もすべて消えている。
 やはり、自分は一人だけ残されて・・・?
 ――やっぱりお母さんに電話しよう。そう決心し、日向さんは備え付け電話の置かれているダイニングへ向かった。自分用の携帯は、まだ買ってもらっていなかったのだ。

 するとそこで、彼女はあることに気付く。
 何か音楽のようなものが居間の方から漏れ聞こえているのだ。
 ? 居間は、一度 確認した筈だけど・・・?怪訝に思いながら、戸を開けてみた。
 テレビがついていた。

「??!」

 テレビ画面の中には、お皿の上に長ナスのような野菜を乗せた映像が映っていた。
 静止画のようである。画面脇に表示されるロゴ名により、ケーブルテレビの地元情報を紹介するチャンネルであることがわかった。
 題名も知らないジャズ音楽が、かなりの音量で流れていた。この音に、日向さんは誘われて来たのだ。

(え、確かにさっきは、テレビ消えて・・・)

 唖然としていると、長ナスの画像に重なるようなかたちで、スゥゥ、と文字が浮かび上がってきた。
 ゴシック体で、でかでかと。

【本日は終了しました終了ました】

(はっ?! あの貼り紙と同じ文句――)

 と、刹那。 
 プツリ、 ジャズ音楽が終わった。
 ツ――――――――ッ。いきなり甲高い電子音のようなものがテレビから発せられる。
 そのデタラメな音量に、一瞬、日向さんがビクッ!と驚いた瞬間、


「あんた!こんなところで、何やってるのッ!!」


 聞き覚えのある声に後ろから呼ばれ、反射的に振り向いた。
 果たしてそこには、怒りもあらわな表情の母親と、呆然とした様子の姉(日向さんのたった一人の姉妹で、既に社会人である)の姿があった。

「今まで何処に行ってたのっ!お祖母ちゃん、もう亡くなっちゃったのよ?!」

 えぇっ・・・!?!?

「こんな遅くまで、何処で何やってたの!本当にあんたって子は、あんたって子は!!」

 遅く?何を言ってるの。外はまだ昼じゃん・・・と窓の方を見る日向さん。
 ――薄暗い。
 陽が、暮れかけている。
 そ、そんな・・・なのに?! 

 愕然としながらも、同時にパニックに陥ってしまった日向さんは、思わずテレビの方へ視線を戻した。

 いつもの地元チャンネルが、【行方不明のワンちゃんを探しています】と情報を募る旨を放送していた。
 時刻の表示は、6時過ぎだった。

  ※   ※   ※   ※

 母や姉が語るところによると、二人は学校に電話を入れてからずっと、家の中で日向さんの到着を待っていたらしい。彼女が帰って来次第、車でお祖母ちゃんが搬送された病院へ向かうつもりだったのだ。
 しかし、待てど暮らせど日向さんは帰って来ない。あまりに心配になったので学校へもう一度連絡を入れてみたら、「学年主任が無事にお家へ送り届けたようですが・・・」と担任の先生が言われる。
 中学に入って ちょっと素行が悪くなってきたことは否めない。もしやあの子、早退出来たのをいいことに何処かへ遊びに行ってしまったんじゃ・・・ 二人がそう話し合っていると、今度は病院に居残っていたお父さんから電話がかかった。
 お祖母ちゃんが、危ない状態だという。
 やむを得ず、置き手紙を残して 二人は車で病院へ向かった。

 間に合わなかった。
 お祖母ちゃんの死に目に会えたのは、息子であるお父さんただ一人だけだったという。

「〝一足先に病院へ向かいます。あなたはタクシーで来て下さい〟・・・って玄関に置いといたでしょ!読みもしなかったの?あんたは!!」

 読まなかったも何も、そんな置き手紙は無かった。
 少なくとも、自分にはまったく 見えなかった・・・

「・・・お祖母ちゃん、最後の最後に意識を取り戻して、あんたの名前を呼んだってさ。可愛がってもらってたものね。お祖母ちゃんも心配してたんだね、あんたのこと」

 そんなお祖母ちゃんに、不孝なことしたよ、あんたは。
 ぼろぼろ涙を零しながら、母は絞り出すように言った。
 

  ※   ※   ※   ※

 まったく解せないし、理解不能だし、トラウマであると日向さんは言う。
 あの日、例のおかしな貼り紙を笑ったのは自分だけではなかった筈だが、不思議と他の友達には 何の異変も起こらなかったという。

「それから、だいぶ大人しい子になりましたけどね」

 性格も卑屈になっちゃった。今でも引きずってる感じです―― 日向さんは、冷めた瞳でそう言い捨てた。




(※補足)
 この体験談の舞台は、前話 ♯053『隠しメッセージ』と同じ町内であり、時期的にも同じ90年代末の出来事である。
 両話の体験者に直接の面識は無いが、『誤植』『ケーブルテレビ』『人の死』というキーワードの微妙な一致にもひどく不気味なものを感じたので、ここで特に言及しておく。

 ――本当に、隠された真実があるのかも知れない。
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