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#058 『猫とⅥとーー』
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江藤さんは、高校時代、猫の餌付けにハマッていた。
学校の帰り道、まさに昭和の漫画に出てきそうな空き地があって、そこに小さな茶トラが一匹、住み着いていたのだ。
野良にしては、顔立ちが整っていて可愛かった。
飼いたいなぁと思ったが、親を説得出来る自信がない。
お昼の弁当をわざと残してやってみたら、美味しそうに食べた。
近くの商店から魚肉ソーセージを買ってきて与えると、それもモシャモシャ食べる。
毎日そんなことを繰り返しているうちに、二週間くらいで完全に馴れた。
江藤さんの姿を見るだけで、「みゃぁぁ」と鳴いて寄って来るようになったのだ。
背や頭を撫で、喉をごろごろさせてやる。
満ち足りた気分になれたという。
※ ※ ※ ※
ある日、いつものように魚肉ソーセージをやろうとしたところ、猫がじっと自分を見つめているのに気付いた。
おや、どうしたのかニャ?と思わず語尾を猫言葉にして話しかけると、いつもと違う 奇妙な鳴き声を発してきた。
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
うぉぅっ!
猫が出すものとは到底 思えない ――不気味に嘲るようなその声に、思わず江藤さんはビクッと身体を震わせた。
猫は猫で、そんな江藤さんのリアクションに驚いてしまったらしく、こちらもビクッと身震いひとつ。
(今の声・・・ 空耳? 気持ち悪っ・・・!!)
その後 平素と変わらぬ猫の様子にちょっと安心しながらも、江藤さんは何か、心にひどく引っ掛かるものを感じていた。
今の声、確かに聞き覚えがある。ええと、確か・・・
(あ。わかった。あのゲームだ!)
8ビット時代からシリーズが続く超人気RPGの『Ⅵ』。
それに登場する、ある悪役の嗤い声にそっくりだったのだ。
江藤さんも小学生時代にプレイし、かなりやり込んでいたお気に入りの一作である。世間は後に発売された『Ⅶ』の方に高評価を下しているらしいが、誰が何と言おうと、江藤さんの中のマイ・フェイバリットは『Ⅵ』であった。
もっとも。もう何年も、起動すらしていないが。
「ははっ、おっかしいの。そうだ、コイツにはまだ名前がなかったな」
その悪役キャラの名前を猫につけたという。
※ ※ ※ ※
そんなことがあった日の夜。
江藤さんは、長く物置の中に仕舞いっぱなしだった16ビットゲーム機を引っ張り出していた。
あの変な幻聴(?)のせいで、久しぶりに例の『Ⅵ』をやりたくなったのだ。
当時は既に『次世代機』と呼ばれる32ビット機群が主流となっていた為、本当にしばらくぶりに 昔のゲームで遊ぶことになる。
「きちんと動くかな・・・っと」
端子を繋いでアダプタを差し込み、『Ⅵ』のゲームソフトを本体にぶち込んで電源をONにした。
――オープニングデモが始まる。
懐かしいイントロも流れ始める。
おおっ、埃被ってたから心配してたけど、ちゃんと動くじゃないか!
江藤さんの表情が緩む。
次の瞬間、
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
「・・・・・・?! はぁっ??」
いきなり、あの悪役の嗤い声のエフェクトが流れた。
デモも、何故かストップしてしまう。
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
・・・たっぷり、10回くらいは連続再生されただろう、という。
流石に江藤さんが「これはおかしいぞ」と思い始めた矢先、
〝きづかなければ よかったのに〟
若い女の声が聞こえた。
テレビからではなく。直ぐ耳もとで。
「??!!」
慌てて周囲を見回すが、自分の部屋の中には他に誰もいない。
と。不意に、カチッと固い音が鳴った。
テレビに視線を戻せば、何とゲームが終了している。
「・・・・・・うそだろ」
思わず見下ろした、ゲーム機の本体。
手動でなければ決して切り替わらない筈のON/OFF式の電源スイッチが、勝手に動いてOFFになっていた。
※ ※ ※ ※
それから、何度電源を入れても『Ⅵ』は起動しなかった。
他のゲームは問題なくプレイ出来る。つまり『Ⅵ』のソフト自体が完全に壊れてしまったということだ。
3回に1回くらいの確率で、電源を入れた直後にあの嗤い声が流れた。
捨てよう、と思った。
その翌日から、何故か猫が懐かなくなった。
それどころか江藤さんを見ると怯えるようになり、3日と経たぬうちに 住処としていた空き地からも姿を消してしまった。
耳もとで聞こえた女の声は、何処かで聞き覚えがあるような気がするものの、いまだに誰のものか 思い出せないでいるという。
学校の帰り道、まさに昭和の漫画に出てきそうな空き地があって、そこに小さな茶トラが一匹、住み着いていたのだ。
野良にしては、顔立ちが整っていて可愛かった。
飼いたいなぁと思ったが、親を説得出来る自信がない。
お昼の弁当をわざと残してやってみたら、美味しそうに食べた。
近くの商店から魚肉ソーセージを買ってきて与えると、それもモシャモシャ食べる。
毎日そんなことを繰り返しているうちに、二週間くらいで完全に馴れた。
江藤さんの姿を見るだけで、「みゃぁぁ」と鳴いて寄って来るようになったのだ。
背や頭を撫で、喉をごろごろさせてやる。
満ち足りた気分になれたという。
※ ※ ※ ※
ある日、いつものように魚肉ソーセージをやろうとしたところ、猫がじっと自分を見つめているのに気付いた。
おや、どうしたのかニャ?と思わず語尾を猫言葉にして話しかけると、いつもと違う 奇妙な鳴き声を発してきた。
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
うぉぅっ!
猫が出すものとは到底 思えない ――不気味に嘲るようなその声に、思わず江藤さんはビクッと身体を震わせた。
猫は猫で、そんな江藤さんのリアクションに驚いてしまったらしく、こちらもビクッと身震いひとつ。
(今の声・・・ 空耳? 気持ち悪っ・・・!!)
その後 平素と変わらぬ猫の様子にちょっと安心しながらも、江藤さんは何か、心にひどく引っ掛かるものを感じていた。
今の声、確かに聞き覚えがある。ええと、確か・・・
(あ。わかった。あのゲームだ!)
8ビット時代からシリーズが続く超人気RPGの『Ⅵ』。
それに登場する、ある悪役の嗤い声にそっくりだったのだ。
江藤さんも小学生時代にプレイし、かなりやり込んでいたお気に入りの一作である。世間は後に発売された『Ⅶ』の方に高評価を下しているらしいが、誰が何と言おうと、江藤さんの中のマイ・フェイバリットは『Ⅵ』であった。
もっとも。もう何年も、起動すらしていないが。
「ははっ、おっかしいの。そうだ、コイツにはまだ名前がなかったな」
その悪役キャラの名前を猫につけたという。
※ ※ ※ ※
そんなことがあった日の夜。
江藤さんは、長く物置の中に仕舞いっぱなしだった16ビットゲーム機を引っ張り出していた。
あの変な幻聴(?)のせいで、久しぶりに例の『Ⅵ』をやりたくなったのだ。
当時は既に『次世代機』と呼ばれる32ビット機群が主流となっていた為、本当にしばらくぶりに 昔のゲームで遊ぶことになる。
「きちんと動くかな・・・っと」
端子を繋いでアダプタを差し込み、『Ⅵ』のゲームソフトを本体にぶち込んで電源をONにした。
――オープニングデモが始まる。
懐かしいイントロも流れ始める。
おおっ、埃被ってたから心配してたけど、ちゃんと動くじゃないか!
江藤さんの表情が緩む。
次の瞬間、
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
「・・・・・・?! はぁっ??」
いきなり、あの悪役の嗤い声のエフェクトが流れた。
デモも、何故かストップしてしまう。
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
・・・たっぷり、10回くらいは連続再生されただろう、という。
流石に江藤さんが「これはおかしいぞ」と思い始めた矢先、
〝きづかなければ よかったのに〟
若い女の声が聞こえた。
テレビからではなく。直ぐ耳もとで。
「??!!」
慌てて周囲を見回すが、自分の部屋の中には他に誰もいない。
と。不意に、カチッと固い音が鳴った。
テレビに視線を戻せば、何とゲームが終了している。
「・・・・・・うそだろ」
思わず見下ろした、ゲーム機の本体。
手動でなければ決して切り替わらない筈のON/OFF式の電源スイッチが、勝手に動いてOFFになっていた。
※ ※ ※ ※
それから、何度電源を入れても『Ⅵ』は起動しなかった。
他のゲームは問題なくプレイ出来る。つまり『Ⅵ』のソフト自体が完全に壊れてしまったということだ。
3回に1回くらいの確率で、電源を入れた直後にあの嗤い声が流れた。
捨てよう、と思った。
その翌日から、何故か猫が懐かなくなった。
それどころか江藤さんを見ると怯えるようになり、3日と経たぬうちに 住処としていた空き地からも姿を消してしまった。
耳もとで聞こえた女の声は、何処かで聞き覚えがあるような気がするものの、いまだに誰のものか 思い出せないでいるという。
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