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#059 『殺生』
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隅さんという40代の男性から聞いた話。
明日は仕事休みという日の夜、飲み事が大好きな彼は 友人4人ばかりを自宅に招き、大いに酒盛りを楽しんでいた。
場はかなり盛り上がっていたが、春日さんというあまりお酒に強くない人だけは先に酔い潰れてしまい、座布団を枕代わりにして眠り込んでしまっていたという。
と、いきなりその春日さんがムクリ、と起き上がった。
「はい、了解しました。今すぐ救助いたしますっ」
寝ぼけ眼で、やけにハキハキとそんなことを言い出す。
うわぁ、こいつ寝惚けてやがる。仕方ねぇな! 全員、彼を冷やかして大笑いとなったが、春日さんはゴシゴシ両目を擦って直ぐに真面目な顔を整え、「みんな、聞いてくれ」と一同を見回し、
「信じられないかも知れんが、いま俺の夢の中にお釈迦様が出てきて、『そなたの近くの鸚鵡貝の中で、殺生が行われようとしておる。助けてあげなさい』と仰られた。反射的に承諾してしまったんだが、鸚鵡貝とは何だ。心当たりはないか?」
真剣に、そう訴える。
あまりに大まじめなので 皆 一気に毒気を抜かれたようになったが、友人の一人が「もしかして・・・」と思い出したように呟き、
「俺ん家、爺さんが若い頃に拾ってきたっていう鸚鵡貝の殻があるよ・・・玄関先に飾ってあるんだ。そのことじゃないかな」
その友人の家は、隅さんの自宅から徒歩で2分とかからない距離だ。
面白い、行ってみよう、ということになった。
酒臭い集団は、雪崩を打つように某氏の玄関先に殺到した。
そこには、なるほど。折り鶴細工やこけしに並んで、古くて色の褪せたようになった鸚鵡貝の殻も 確かにある。
「これの中で殺生が行われてる、ってどういうことだ」
「・・・とにかく、ひっくり返してみるべ」
お釈迦様の夢を見た春日さんが、やおら鸚鵡貝を掴み上げ、逆さにしてブンブンと上下に振った。
ぽろん、と何かが転び出た。
15センチはあろうかという でっかいゲジゲジムシが、ワモンゴキブリという これまた大型のゴキブリにガブリと齧り付いている。
「う、おぉぁっっっ?!!」
「わ、わ、わ、わ!!」
酔っ払い達は、パニックに陥った。
※ ※ ※ ※
結局、
「弾みで殺しちまいました」
隅さんは苦笑しながら言われる。
同行の一人が、パニック状態のまま 何故かゴソゴソと靴棚を漁って冠婚葬祭用の革靴を取り出し、それでもってビシャッと2匹の蟲をつぶしてしまったというのだ。
「それがね。春日なんですよ。蟲を殺ったの」
何たることか。
お釈迦様から殺生を停めるように啓示を受けた春日さん自身が、混乱に任せてゲジゲジとゴキブリを殺生してしまったのである。
「そ、それは大変でしたね・・・」
「はい、大変でした。いろいろと」
「その後、何か変わったこととかはなかったですか?」
「いや、祟りとか呪いとか、そういうのはありませんね。幸いなことに」
――春日が出家したくらいですかね、と隅さんは続けた。
明日は仕事休みという日の夜、飲み事が大好きな彼は 友人4人ばかりを自宅に招き、大いに酒盛りを楽しんでいた。
場はかなり盛り上がっていたが、春日さんというあまりお酒に強くない人だけは先に酔い潰れてしまい、座布団を枕代わりにして眠り込んでしまっていたという。
と、いきなりその春日さんがムクリ、と起き上がった。
「はい、了解しました。今すぐ救助いたしますっ」
寝ぼけ眼で、やけにハキハキとそんなことを言い出す。
うわぁ、こいつ寝惚けてやがる。仕方ねぇな! 全員、彼を冷やかして大笑いとなったが、春日さんはゴシゴシ両目を擦って直ぐに真面目な顔を整え、「みんな、聞いてくれ」と一同を見回し、
「信じられないかも知れんが、いま俺の夢の中にお釈迦様が出てきて、『そなたの近くの鸚鵡貝の中で、殺生が行われようとしておる。助けてあげなさい』と仰られた。反射的に承諾してしまったんだが、鸚鵡貝とは何だ。心当たりはないか?」
真剣に、そう訴える。
あまりに大まじめなので 皆 一気に毒気を抜かれたようになったが、友人の一人が「もしかして・・・」と思い出したように呟き、
「俺ん家、爺さんが若い頃に拾ってきたっていう鸚鵡貝の殻があるよ・・・玄関先に飾ってあるんだ。そのことじゃないかな」
その友人の家は、隅さんの自宅から徒歩で2分とかからない距離だ。
面白い、行ってみよう、ということになった。
酒臭い集団は、雪崩を打つように某氏の玄関先に殺到した。
そこには、なるほど。折り鶴細工やこけしに並んで、古くて色の褪せたようになった鸚鵡貝の殻も 確かにある。
「これの中で殺生が行われてる、ってどういうことだ」
「・・・とにかく、ひっくり返してみるべ」
お釈迦様の夢を見た春日さんが、やおら鸚鵡貝を掴み上げ、逆さにしてブンブンと上下に振った。
ぽろん、と何かが転び出た。
15センチはあろうかという でっかいゲジゲジムシが、ワモンゴキブリという これまた大型のゴキブリにガブリと齧り付いている。
「う、おぉぁっっっ?!!」
「わ、わ、わ、わ!!」
酔っ払い達は、パニックに陥った。
※ ※ ※ ※
結局、
「弾みで殺しちまいました」
隅さんは苦笑しながら言われる。
同行の一人が、パニック状態のまま 何故かゴソゴソと靴棚を漁って冠婚葬祭用の革靴を取り出し、それでもってビシャッと2匹の蟲をつぶしてしまったというのだ。
「それがね。春日なんですよ。蟲を殺ったの」
何たることか。
お釈迦様から殺生を停めるように啓示を受けた春日さん自身が、混乱に任せてゲジゲジとゴキブリを殺生してしまったのである。
「そ、それは大変でしたね・・・」
「はい、大変でした。いろいろと」
「その後、何か変わったこととかはなかったですか?」
「いや、祟りとか呪いとか、そういうのはありませんね。幸いなことに」
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