真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

文字の大きさ
59 / 102

#058 『猫とⅥとーー』

しおりを挟む
 江藤さんは、高校時代、猫の餌付けにハマッていた。
 学校の帰り道、まさに昭和の漫画に出てきそうな空き地があって、そこに小さな茶トラが一匹、住み着いていたのだ。

 野良にしては、顔立ちが整っていて可愛かった。
 飼いたいなぁと思ったが、親を説得出来る自信がない。

 お昼の弁当をわざと残してやってみたら、美味しそうに食べた。
 近くの商店から魚肉ソーセージを買ってきて与えると、それもモシャモシャ食べる。
 毎日そんなことを繰り返しているうちに、二週間くらいで完全に馴れた。
 江藤さんの姿を見るだけで、「みゃぁぁ」と鳴いて寄って来るようになったのだ。
 背や頭を撫で、喉をごろごろさせてやる。
 満ち足りた気分になれたという。

  ※   ※   ※   ※

 ある日、いつものように魚肉ソーセージをやろうとしたところ、猫がじっと自分を見つめているのに気付いた。
 おや、どうしたのかニャ?と思わず語尾を猫言葉にして話しかけると、いつもと違う 奇妙な鳴き声を発してきた。

〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟

 うぉぅっ!
 猫が出すものとは到底 思えない ――不気味に嘲るようなその声に、思わず江藤さんはビクッと身体を震わせた。
 猫は猫で、そんな江藤さんのリアクションに驚いてしまったらしく、こちらもビクッと身震いひとつ。

(今の声・・・ 空耳? 気持ち悪っ・・・!!)

 その後 平素と変わらぬ猫の様子にちょっと安心しながらも、江藤さんは何か、心にひどく引っ掛かるものを感じていた。
 今の声、確かに聞き覚えがある。ええと、確か・・・

(あ。わかった。あのゲームだ!)

 8ビット時代からシリーズが続く超人気RPGの『シックス』。
 それに登場する、ある悪役の嗤い声にそっくりだったのだ。
 江藤さんも小学生時代にプレイし、かなりやり込んでいたお気に入りの一作である。世間は後に発売された『セブン』の方に高評価を下しているらしいが、誰が何と言おうと、江藤さんの中のマイ・フェイバリットは『Ⅵ』であった。
 もっとも。もう何年も、起動すらしていないが。

「ははっ、おっかしいの。そうだ、コイツにはまだ名前がなかったな」

 その悪役キャラの名前を猫につけたという。


  ※   ※   ※   ※

 そんなことがあった日の夜。
 江藤さんは、長く物置の中に仕舞いっぱなしだった16ビットゲーム機を引っ張り出していた。
 あの変な幻聴(?)のせいで、久しぶりに例の『Ⅵ』をやりたくなったのだ。
 当時は既に『次世代機』と呼ばれる32ビット機群が主流となっていた為、本当にしばらくぶりに 昔のゲームで遊ぶことになる。

「きちんと動くかな・・・っと」

 端子を繋いでアダプタを差し込み、『Ⅵ』のゲームソフトを本体にぶち込んで電源をONにした。

 ――オープニングデモが始まる。
 懐かしいイントロも流れ始める。
 おおっ、埃被ってたから心配してたけど、ちゃんと動くじゃないか!

 江藤さんの表情が緩む。
 次の瞬間、


〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟


「・・・・・・?! はぁっ??」

 いきなり、あの悪役の嗤い声のエフェクトが流れた。
 デモも、何故かストップしてしまう。

〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟
〝ヒャッヒャッヒャッヒャ・・・〟

 ・・・たっぷり、10回くらいは連続再生されただろう、という。
 流石に江藤さんが「これはおかしいぞ」と思い始めた矢先、


〝きづかなければ よかったのに〟


 若い女の声が聞こえた。
 テレビからではなく。直ぐ耳もとで。

「??!!」

 慌てて周囲を見回すが、自分の部屋の中には他に誰もいない。
 と。不意に、カチッと固い音が鳴った。
 テレビに視線を戻せば、何とゲームが終了している。

「・・・・・・うそだろ」

 思わず見下ろした、ゲーム機の本体。
 手動でなければ決して切り替わらない筈のON/OFF式の電源スイッチが、勝手に動いてOFFになっていた。


  ※   ※   ※   ※

 それから、何度電源を入れても『Ⅵ』は起動しなかった。
 他のゲームは問題なくプレイ出来る。つまり『Ⅵ』のソフト自体が完全に壊れてしまったということだ。
 3回に1回くらいの確率で、電源を入れた直後にあの嗤い声が流れた。
 捨てよう、と思った。


 その翌日から、何故か猫が懐かなくなった。
 それどころか江藤さんを見ると怯えるようになり、3日と経たぬうちに 住処としていた空き地からも姿を消してしまった。


 耳もとで聞こえた女の声は、何処かで聞き覚えがあるような気がするものの、いまだに誰のものか 思い出せないでいるという。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...