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#069 『テントの中』
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篠崎さんが ある朝 目を覚ますと、そこは愛車の運転席だった。
「・・・・・・?? え、うそ。 何で・・・」
昨夜は確かに、自室のベッドで眠りについた筈なのに。
アルコール類も、一滴たりとて口に入れてはいない。泥酔して正体をなくし、よくわからない行動をとった末 記憶喪失、というわけでもない。
(どういうことなんだ・・・)
時間を確かめてみれば、早朝の5時過ぎ。
いくら考えても埒があかないので、取り敢えず家の中に入って寝直そうと思った。
何故か、家の鍵はパジャマのポケットに入っていたのだ。
家族に見つかれば「何で外で寝てたの!」とビックリされると思い、慎重に 音を立てぬよう 玄関を解錠して中に入った。
ゆっくりゆっくり、足音すら心配しながら廊下を歩く。何でこんな努力をしなきゃいけねぇんだと ぶちぶち心にボヤきながら自室の前に立つ。
ここまで来れば もう不審でも何でもないな、と思ったのでスッとドアを開けた。
自分のベッドで寝ている人と目が合った。
自分だった。
「え」
「え」
自分とまったく同じ パジャマ姿の自分。
篠崎さんは心臓が飛び出そうなほどビックリしたそうである。
ただし、一方の向こうも、かなり驚いている様子だったらしく、目玉がポロンと落っこちそうなほどに両眼をカッ開いていたという。そして、
「あぁっ、やっぱり、テントの中は・・・」
そう口にして、消えた。
すぅーっと、空気に溶けるような消え方だった。
・・・え、何。
なになになになになになになになに??
篠崎さんは、驚きすぎて逆にこれ以上 何に驚いていいかわからなくなってしまったので、とにかく部屋の中に入り、あたかも人が寝ていた形跡の膨らみを残したベッドの中に、何気なく手を差し入れてみた。
確かな体温のぬくもりがあった。
そこではじめて、「ふわぁぁぁっ!?」と中途半端な叫び声が出たという。
※ ※ ※ ※
幸い、その叫び声で家族が起きてくるということはなかった。
眠気が吹き飛んでしまったので、キッチンに行ってコーヒーを淹れ、何故このような目に遭ってしまったのか、本気で考えた。
おかしな脳の病気とかじゃなかろうか。
白昼夢を伴う、夢遊病とか。
人に話したら、ヘンなクスリをやってた くらいにしか思ってくれないぞ。
――もしかして、昔何かの本で読んだ〝ドッペルゲンガー〟とかいうのじゃないだろうか。もう一人の自分に出会う、とかいう現象だったっけ。
あれ?自分のドッペルゲンガーに出会ったら、死ぬんじゃなかったっけ・・・?
(落ち着け、落ち着け・・・ テントがどうとかと言ってたな・・・)
その言葉が、どうにも気にかかった。
実は3日後、学生時代に仲の良かった友人達5人ばかりと、隣県のキャンプ場へ遊びに行く約束をしていたのである。
むろん、夜はテントの中で寝ることになる。
(・・・行くな、ってことか・・・?)
コーヒーを少し啜り、頭を抱えた。
※ ※ ※ ※
結局、キャンプの約束は辞退した。
とても楽しみにしていたイベントだったのだが、あんなものを見てしまった今となっては 不安以外の感情が浮かんでこない。
どうしたんだ、急な用事でも入ったのか? 友人らは尋ねてきた。よほど本当のことを言ってしまおうと思ったが、何ヶ月も前から休暇を調整して心待ちにしていた者も居たことから、彼らに水を差すような怪奇体験など語れるわけがなかった。
仕事の都合で・・・と 適当に理由をつけて平謝りした。
そんな中 迎えた キャンプ当日の夜。
あいつら、きっと楽しくやってるんだろうな・・・と思ったが、「仕事の都合」などと言ってしまった手前、電話もメールもしなかったという。
――その翌日。
仕事の昼休み、篠崎さんはキャンプに行った友人の一人に電話を入れてみた。
ドタキャンしてしまったことを謝り、「さぞかし面白かっただろう。次は絶対に俺も行くから、誘ってくれよな!」と念を押すように言ったのだが、
『え、あ、ううん・・・』
何だか、様子がおかしい。
どうしたんだ、何かあったのか?と問うと、しばらく言いよどんだ後に『・・・ちょっとな』との答え。
口を出る言葉のひとつひとつが、沈んでいた。
「キャンプでか?」
「・・・ああ」
「喧嘩でもしたのか」
「・・・そんなんじゃねぇんだけどさ」
しつこいくらいに聞き質してみても、友人はキャンプで何があったのかを、はぐらかすように口を噤む。
ただ、最後に、
『・・・お前、来なくて正解だったよ。俺ら、全員 後悔してる』
それじゃあな。
それだけ言って、通話を切られた。
以来、6年ほどが経つが 友人達からのキャンプの誘いは無い。
それどころか自然に全員と疎遠になって、今では誰とも連絡がつかないという。
「・・・・・・?? え、うそ。 何で・・・」
昨夜は確かに、自室のベッドで眠りについた筈なのに。
アルコール類も、一滴たりとて口に入れてはいない。泥酔して正体をなくし、よくわからない行動をとった末 記憶喪失、というわけでもない。
(どういうことなんだ・・・)
時間を確かめてみれば、早朝の5時過ぎ。
いくら考えても埒があかないので、取り敢えず家の中に入って寝直そうと思った。
何故か、家の鍵はパジャマのポケットに入っていたのだ。
家族に見つかれば「何で外で寝てたの!」とビックリされると思い、慎重に 音を立てぬよう 玄関を解錠して中に入った。
ゆっくりゆっくり、足音すら心配しながら廊下を歩く。何でこんな努力をしなきゃいけねぇんだと ぶちぶち心にボヤきながら自室の前に立つ。
ここまで来れば もう不審でも何でもないな、と思ったのでスッとドアを開けた。
自分のベッドで寝ている人と目が合った。
自分だった。
「え」
「え」
自分とまったく同じ パジャマ姿の自分。
篠崎さんは心臓が飛び出そうなほどビックリしたそうである。
ただし、一方の向こうも、かなり驚いている様子だったらしく、目玉がポロンと落っこちそうなほどに両眼をカッ開いていたという。そして、
「あぁっ、やっぱり、テントの中は・・・」
そう口にして、消えた。
すぅーっと、空気に溶けるような消え方だった。
・・・え、何。
なになになになになになになになに??
篠崎さんは、驚きすぎて逆にこれ以上 何に驚いていいかわからなくなってしまったので、とにかく部屋の中に入り、あたかも人が寝ていた形跡の膨らみを残したベッドの中に、何気なく手を差し入れてみた。
確かな体温のぬくもりがあった。
そこではじめて、「ふわぁぁぁっ!?」と中途半端な叫び声が出たという。
※ ※ ※ ※
幸い、その叫び声で家族が起きてくるということはなかった。
眠気が吹き飛んでしまったので、キッチンに行ってコーヒーを淹れ、何故このような目に遭ってしまったのか、本気で考えた。
おかしな脳の病気とかじゃなかろうか。
白昼夢を伴う、夢遊病とか。
人に話したら、ヘンなクスリをやってた くらいにしか思ってくれないぞ。
――もしかして、昔何かの本で読んだ〝ドッペルゲンガー〟とかいうのじゃないだろうか。もう一人の自分に出会う、とかいう現象だったっけ。
あれ?自分のドッペルゲンガーに出会ったら、死ぬんじゃなかったっけ・・・?
(落ち着け、落ち着け・・・ テントがどうとかと言ってたな・・・)
その言葉が、どうにも気にかかった。
実は3日後、学生時代に仲の良かった友人達5人ばかりと、隣県のキャンプ場へ遊びに行く約束をしていたのである。
むろん、夜はテントの中で寝ることになる。
(・・・行くな、ってことか・・・?)
コーヒーを少し啜り、頭を抱えた。
※ ※ ※ ※
結局、キャンプの約束は辞退した。
とても楽しみにしていたイベントだったのだが、あんなものを見てしまった今となっては 不安以外の感情が浮かんでこない。
どうしたんだ、急な用事でも入ったのか? 友人らは尋ねてきた。よほど本当のことを言ってしまおうと思ったが、何ヶ月も前から休暇を調整して心待ちにしていた者も居たことから、彼らに水を差すような怪奇体験など語れるわけがなかった。
仕事の都合で・・・と 適当に理由をつけて平謝りした。
そんな中 迎えた キャンプ当日の夜。
あいつら、きっと楽しくやってるんだろうな・・・と思ったが、「仕事の都合」などと言ってしまった手前、電話もメールもしなかったという。
――その翌日。
仕事の昼休み、篠崎さんはキャンプに行った友人の一人に電話を入れてみた。
ドタキャンしてしまったことを謝り、「さぞかし面白かっただろう。次は絶対に俺も行くから、誘ってくれよな!」と念を押すように言ったのだが、
『え、あ、ううん・・・』
何だか、様子がおかしい。
どうしたんだ、何かあったのか?と問うと、しばらく言いよどんだ後に『・・・ちょっとな』との答え。
口を出る言葉のひとつひとつが、沈んでいた。
「キャンプでか?」
「・・・ああ」
「喧嘩でもしたのか」
「・・・そんなんじゃねぇんだけどさ」
しつこいくらいに聞き質してみても、友人はキャンプで何があったのかを、はぐらかすように口を噤む。
ただ、最後に、
『・・・お前、来なくて正解だったよ。俺ら、全員 後悔してる』
それじゃあな。
それだけ言って、通話を切られた。
以来、6年ほどが経つが 友人達からのキャンプの誘いは無い。
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