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第六章〈王太子の受難〉編
6.13 パリ虐殺(2)デュノワ伯の悲劇(挿絵つき)
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ブルゴーニュ公に代わってブルゴーニュ派の軍勢を率いた指揮官はヴィリエ・ド・リラダンといった。
予定どおりに王を保護すると、王の名の下に「横暴な王太子」を糾弾し、王太子に同調して王をかどわかした重臣や役人を「罪人」として連行した。
私が住む城館にも、ブルゴーニュ派の軍勢が押し寄せた。
こじ開けられた門扉、踏み荒らされた庭園。
それほど遠くないところで剣戟の音が聞こえる。
どこかで火の手が上がっているのか、きな臭い匂いまで漂ってきた。
この一年、分厚い護衛に守られて、私の目には見えなかった光景と耳に聞こえなかった音があった。もう隠しようがない。
***
私は王太子の寝室でジャンと対峙していた。
体の震えが止まらないのは恐怖のせいだけではなく、服を脱がされて裸になっているせいでもない。
一方のジャンは、こんな時でも落ち着いているように見えた。
「どうして、どうして……」
私は身ぐるみ剥がされながら精いっぱい抗議していた。
だが、誰も聞いていない。
「俺はここに残ります」
「どうして? ジャンも一緒に行こう」
城館の外は軍勢に取り囲まれて逃げられない。
五年ほど前、カボシュの乱と呼ばれるパリ暴動が起きた時も、王太子の城館が襲撃された。
王太子だった兄は窓越しに襲撃者たちと対話したと聞く。だが、その真相は——
「逃げ道が塞がれて、立てこもるしかなかったのです」
「そんな……」
王太子の護衛隊長を務めるシャステルは、抗戦を指示しながら同時に逃亡する準備を進めていた。
「むざむざ負けるつもりはありませんが、それは敵も同じ。何より、私の使命は勝つことではなく、王太子殿下を守ることにあります」
シャステルは、「兄君の経験を教訓とするならば、安全が確保できるうちに脱出を」と勧めた。
宰相、重臣、護衛、騎士。彼らの代わりはいくらでもいる。
だが、王と王太子がともにブルゴーニュ公の手に落ちたら代わりはいないのだと。
「ご決断を」
城館は孤立し、宰相アルマニャック伯に指示を仰ぐ手段は絶たれていた。
私には、この緊急事態を自力で乗り越える知恵も腕力もなかった。
「わかった」
私はシャステルの助言を受け入れ、すべてを任せた。
脱出する準備が急ピッチで進み、王太子の寝室で私とジャンは服を交換させられた。
ジャンは私の身代わりとなって城館に残るのだと打ち明けた。
「どうして……」
「はじめから、そういう約束なんです」
「はじめって? いつから?!」
「王子が王太子になって、ここへ来たときから」
私とジャンは従兄弟だ。年の差は1歳。
ジャンは1402年11月23日生まれで、私は1403年2月22日生まれだったから、正確には3ヶ月しか違わない。
年齢が近くて血が繋がっているから、私たちは誰よりも背格好が似ていた。
(ああ、だからジャンはいつも私のそばにいたのか)
ジャンが15歳の若さで侍従長となり、護衛隊長シャステルとともに私の近くにいた理由が分かった。
身代わりを務めるのにジャンほどふさわしい人物はいない。
何も起きなければ、ともに学び、ともに成長して、ゆくゆくは私は王となり、ジャンは騎士になったのだろう。
残念ながらこの国は平和ではなかった。
ジャンは修道院にいた頃から王侯貴族が大嫌いだったのに、王家のいさかいに巻き込まれて、騎士になれないまま私の身代わりとなってここで——
(死んでしまうの?)
私はジャンの袖を掴んだ。
さっきまで私が着ていた王太子の服だ。
「やっぱりだめだ。一緒に行こう」
私は絶対にこの手を離すつもりはなかった。
修道院で別れたときと今回では事情が違い過ぎる。
「シャステル隊長、ひとつお願いがあります」
ジャンは私の呼びかけには答えず、私の肩越しにシャステルに声をかけた。
「すべてが終わって、次にお会いしたときは俺を従騎士にしてください」
「わかった、約束しよう」
「絶対ですよ」
「神の名に誓って」
ジャンは笑っていた。
ふたりの間に、私には入り込めない絆が出来上がっていた。
「次なんてない。一緒に行くんだ!」
私はこみ上げてくる絶望を振り払おうと叫んだ。
「頼む。私の心からのお願いだよ、ジャン……」
「王太子、泣かないでくださいよ……」
嗚咽がこみ上げてきて声が震えたが、私は必死だった。
王太子らしさなどどうでも良かった。
ジャンはそんな私を見下ろすと、困ったように苦笑して私の手を振り払おうとした。
私は布地に指を絡めて強く握りしめた。
「王太子の気持ちはありがたいですが、難しいです」
ジャンは相変わらず素っ気ない返事だったが、今回ばかりは私は諦めなかった。
だが、私のささやかな祈りが、神に聞き届けられたことは一度もなかった。
きっと今回も叶わないのだろう。
凡人が奇跡を起こすことはとても難しいのだ。
ジャンは私の手を取ると、いきなり強い力で突き飛ばした。
よろけた私をシャステルが受け止め、そのまま担ぎ上げた。
「シャステル、何をするんだ! 離せ!」
「後のことはお願いします。もういいから行ってください。後から、追いかけるから……」
ジャンの語尾が震えた。
私はジャンが嘘をついていると思った。
追いかけてくるつもりはないのだと気づいてしまった。
「だめだ、一緒に行くんだ。これは王太子命令だ! 離せシャステル!!」
私は大声で叫び、めちゃくちゃに暴れた。
しかし、もともと運動の苦手な私が力を振るっても、ちっとも効果がなかった。
「早く行ってください。行くから、ちゃんと後から追いかけるから……」
「うそだ!!」
「いい加減にしてください。早く行けっての!」
ジャンは敬語をかなぐり捨ててぶち切れた。
「昔から駆けっこで俺が王子に負けたことありました? 一度もないでしょ! 早く行ってくれないと俺が逃げられなくなるから、だから早く行けって言ってんだよ!! わかったかバカ王子!!」
私はシャステルに担ぎ上げられて、シャステルが厳選した護衛に守られながら、城館から逃げ出した。
いとこで、幼なじみで、侍従長で、たったひとりの親友を身代わりにして。
「離せ、離せ! これは王命だ! 王太子の命令だ!! 誰かッ!!」
ずっとそんなことを叫んでいた。
誰かに指示されたのではなく私の本心からの願いであり命令なのに、誰も聞いてはくれなかった。
シャステルは、「宰相、重臣、護衛、騎士。彼らの代わりはいくらでもいるが、王と王太子の代わりはいない」と言った。
確かにそうだ。統治する王がいなければ、王国の統治システムが成り立たない。
けれど、私にとって心を許せる唯一無二の人がジャンだった。
王国に王が不可欠なように、何物にも代え難い。
王子らしく、王太子らしく生きようと努力してきた。
王国のために私心を捨てることが、どれほどの痛みをともなうのか、初めて思い知った気がする。
「王太子を探せ!」
どこかで侵入者の声が聞こえた。
(ここにいる! そっちには、寝室には行かないで! 彼は違うんだ!!)
シャステルに担がれて隠し通路を通るときに、小窓から外の光景が見えた。
涙で視界がにじんでよく見えない。
パリは燃えていた。
炎の照り返しで真っ赤に染まり、何もかもがにじんでいた。
私の体は護衛に守られて傷ひとつない。
それなのに、この痛みはどこからやってくるのだろう。
炎に照らされた赤い涙が止めどなく溢れていた。
(※)王太子を救出するタンギ・デュ・シャステル(Tanneguy du Châstel sauvant le dauphin (1828), Auguste Couder)
(※)第六章〈王太子の受難〉編、完結。
予定どおりに王を保護すると、王の名の下に「横暴な王太子」を糾弾し、王太子に同調して王をかどわかした重臣や役人を「罪人」として連行した。
私が住む城館にも、ブルゴーニュ派の軍勢が押し寄せた。
こじ開けられた門扉、踏み荒らされた庭園。
それほど遠くないところで剣戟の音が聞こえる。
どこかで火の手が上がっているのか、きな臭い匂いまで漂ってきた。
この一年、分厚い護衛に守られて、私の目には見えなかった光景と耳に聞こえなかった音があった。もう隠しようがない。
***
私は王太子の寝室でジャンと対峙していた。
体の震えが止まらないのは恐怖のせいだけではなく、服を脱がされて裸になっているせいでもない。
一方のジャンは、こんな時でも落ち着いているように見えた。
「どうして、どうして……」
私は身ぐるみ剥がされながら精いっぱい抗議していた。
だが、誰も聞いていない。
「俺はここに残ります」
「どうして? ジャンも一緒に行こう」
城館の外は軍勢に取り囲まれて逃げられない。
五年ほど前、カボシュの乱と呼ばれるパリ暴動が起きた時も、王太子の城館が襲撃された。
王太子だった兄は窓越しに襲撃者たちと対話したと聞く。だが、その真相は——
「逃げ道が塞がれて、立てこもるしかなかったのです」
「そんな……」
王太子の護衛隊長を務めるシャステルは、抗戦を指示しながら同時に逃亡する準備を進めていた。
「むざむざ負けるつもりはありませんが、それは敵も同じ。何より、私の使命は勝つことではなく、王太子殿下を守ることにあります」
シャステルは、「兄君の経験を教訓とするならば、安全が確保できるうちに脱出を」と勧めた。
宰相、重臣、護衛、騎士。彼らの代わりはいくらでもいる。
だが、王と王太子がともにブルゴーニュ公の手に落ちたら代わりはいないのだと。
「ご決断を」
城館は孤立し、宰相アルマニャック伯に指示を仰ぐ手段は絶たれていた。
私には、この緊急事態を自力で乗り越える知恵も腕力もなかった。
「わかった」
私はシャステルの助言を受け入れ、すべてを任せた。
脱出する準備が急ピッチで進み、王太子の寝室で私とジャンは服を交換させられた。
ジャンは私の身代わりとなって城館に残るのだと打ち明けた。
「どうして……」
「はじめから、そういう約束なんです」
「はじめって? いつから?!」
「王子が王太子になって、ここへ来たときから」
私とジャンは従兄弟だ。年の差は1歳。
ジャンは1402年11月23日生まれで、私は1403年2月22日生まれだったから、正確には3ヶ月しか違わない。
年齢が近くて血が繋がっているから、私たちは誰よりも背格好が似ていた。
(ああ、だからジャンはいつも私のそばにいたのか)
ジャンが15歳の若さで侍従長となり、護衛隊長シャステルとともに私の近くにいた理由が分かった。
身代わりを務めるのにジャンほどふさわしい人物はいない。
何も起きなければ、ともに学び、ともに成長して、ゆくゆくは私は王となり、ジャンは騎士になったのだろう。
残念ながらこの国は平和ではなかった。
ジャンは修道院にいた頃から王侯貴族が大嫌いだったのに、王家のいさかいに巻き込まれて、騎士になれないまま私の身代わりとなってここで——
(死んでしまうの?)
私はジャンの袖を掴んだ。
さっきまで私が着ていた王太子の服だ。
「やっぱりだめだ。一緒に行こう」
私は絶対にこの手を離すつもりはなかった。
修道院で別れたときと今回では事情が違い過ぎる。
「シャステル隊長、ひとつお願いがあります」
ジャンは私の呼びかけには答えず、私の肩越しにシャステルに声をかけた。
「すべてが終わって、次にお会いしたときは俺を従騎士にしてください」
「わかった、約束しよう」
「絶対ですよ」
「神の名に誓って」
ジャンは笑っていた。
ふたりの間に、私には入り込めない絆が出来上がっていた。
「次なんてない。一緒に行くんだ!」
私はこみ上げてくる絶望を振り払おうと叫んだ。
「頼む。私の心からのお願いだよ、ジャン……」
「王太子、泣かないでくださいよ……」
嗚咽がこみ上げてきて声が震えたが、私は必死だった。
王太子らしさなどどうでも良かった。
ジャンはそんな私を見下ろすと、困ったように苦笑して私の手を振り払おうとした。
私は布地に指を絡めて強く握りしめた。
「王太子の気持ちはありがたいですが、難しいです」
ジャンは相変わらず素っ気ない返事だったが、今回ばかりは私は諦めなかった。
だが、私のささやかな祈りが、神に聞き届けられたことは一度もなかった。
きっと今回も叶わないのだろう。
凡人が奇跡を起こすことはとても難しいのだ。
ジャンは私の手を取ると、いきなり強い力で突き飛ばした。
よろけた私をシャステルが受け止め、そのまま担ぎ上げた。
「シャステル、何をするんだ! 離せ!」
「後のことはお願いします。もういいから行ってください。後から、追いかけるから……」
ジャンの語尾が震えた。
私はジャンが嘘をついていると思った。
追いかけてくるつもりはないのだと気づいてしまった。
「だめだ、一緒に行くんだ。これは王太子命令だ! 離せシャステル!!」
私は大声で叫び、めちゃくちゃに暴れた。
しかし、もともと運動の苦手な私が力を振るっても、ちっとも効果がなかった。
「早く行ってください。行くから、ちゃんと後から追いかけるから……」
「うそだ!!」
「いい加減にしてください。早く行けっての!」
ジャンは敬語をかなぐり捨ててぶち切れた。
「昔から駆けっこで俺が王子に負けたことありました? 一度もないでしょ! 早く行ってくれないと俺が逃げられなくなるから、だから早く行けって言ってんだよ!! わかったかバカ王子!!」
私はシャステルに担ぎ上げられて、シャステルが厳選した護衛に守られながら、城館から逃げ出した。
いとこで、幼なじみで、侍従長で、たったひとりの親友を身代わりにして。
「離せ、離せ! これは王命だ! 王太子の命令だ!! 誰かッ!!」
ずっとそんなことを叫んでいた。
誰かに指示されたのではなく私の本心からの願いであり命令なのに、誰も聞いてはくれなかった。
シャステルは、「宰相、重臣、護衛、騎士。彼らの代わりはいくらでもいるが、王と王太子の代わりはいない」と言った。
確かにそうだ。統治する王がいなければ、王国の統治システムが成り立たない。
けれど、私にとって心を許せる唯一無二の人がジャンだった。
王国に王が不可欠なように、何物にも代え難い。
王子らしく、王太子らしく生きようと努力してきた。
王国のために私心を捨てることが、どれほどの痛みをともなうのか、初めて思い知った気がする。
「王太子を探せ!」
どこかで侵入者の声が聞こえた。
(ここにいる! そっちには、寝室には行かないで! 彼は違うんだ!!)
シャステルに担がれて隠し通路を通るときに、小窓から外の光景が見えた。
涙で視界がにじんでよく見えない。
パリは燃えていた。
炎の照り返しで真っ赤に染まり、何もかもがにじんでいた。
私の体は護衛に守られて傷ひとつない。
それなのに、この痛みはどこからやってくるのだろう。
炎に照らされた赤い涙が止めどなく溢れていた。
(※)王太子を救出するタンギ・デュ・シャステル(Tanneguy du Châstel sauvant le dauphin (1828), Auguste Couder)
(※)第六章〈王太子の受難〉編、完結。
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