異世界に奏でる狂騒曲(ロックンロール)~ランク0だけどロックの力で最強パーティに~

伊太利 千重治

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1章

9サビ-モッシュ

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 よし、敵の攻撃は収まったな……。

 奏太が両手でこめかみを押さえながら状況を確認して安堵した。
 先程響子に念話魔法で伝えられたドラムを思い出しながら、奏太は必死に森に向かって念を飛ばしていた。
 ドラムを叩いたことはなかったが、イメージすることくらいは奏太にもできた。

 奏太は戦闘が激化してエルフ達とはぐれたときのために、念話魔法の効果範囲や対象の指定の仕方について昨晩確認を取っていた。
 セイビアの話によると、念話魔法は特定の人物だけに送ることも可能だが、範囲を指定して無差別に送ることも可能らしい。
 もちろんエルフの村からヴィシュガルド王国に向かって送るといったことはできないが、エルフの村がある森一体程度なら十分収まるとの事だった。
 
 あとはエルフ達が反撃するだけ……って、なにやってんだよ!?

 みると奏太達の目の前には既にエルフ達が集合し、演奏に合わせて盛り上がっている。
 セイビアも完全に浮かれた状態でエルフ達に混ざってモッシュ(ライブで観客同士が激しく体を押し付け合うこと)しており、あのパウルとパイスですらノリノリで拳を突き上げている。

 いやいやいやいや今はノってる場合じゃないだろ! 早くダークエルフ達に反撃しないと……ってああっ! もう奴らが村にたどり着いてる!

 村の入り口の方を見ると、ダークエルフ達がものすごい勢いで駆け寄ってくる。

 ああっ! このままじゃやられる! 

 奏太が慌てて演奏を止めようとするがーー

 あれ? なんだか様子がおかしいぞ?

 ダークエルフ達は武器を構えることなく、身に付けていた武器や防具を投げ捨てそのままエルフ達の集団に混ざっていく。
 戦闘を走っていたラドウィグは、なぜか大粒の涙を流しながら「オオオオッ!」と雄叫びを上げている。

 まさかーーこれは響子さんの狙い通り、作戦成功なのか!?

 奏太が驚いた顔で響子の方に顔を向けると、響子は「私の言った通りでしょう!」と言わんばかりに奏太へドヤ顔を送った。
 そして曲は終盤に差し掛かり、響子が「イエエエエエイ!」と掛け声を上げると、エルフとダークエルフが歓声で応え、その場で暴れ始めた。

 うわーっ! やっぱり暴動が起きたー! ダークエルフ達にパンクなんて聴かせたらやっぱり……ん? 待てよ……これはまさか!

 暴れ出したと思ったエルフとダークエルフ達は、皆同じ方向に向かってグルグルと回り始めていた。

 これは……『サークルモッシュ』! サークルモッシュだ!


≪ロックバンドのライブでの盛り上がり方には、何パターンかのお決まりが存在する。
 ひとつはバンドメンバーの掛け声やドラムのスネア(裏拍)に合わせて指や拳、またはメロイックサイン/ロックサイン(キツネのように人差し指と小指を立てる)を突き上げる『振り上げ』。
 ふたつは誰かに体を持ち上げてもらい、そのまま観客達の頭の上に突っ込む『ダイブ』。
 みっつは観客達がその場でジャンプしたり前後左右に体を動かして、周りの人間と体をぶつけ合う『モッシュ』。

 他にも『スカダンス』や、バラードで両腕を左右に揺らす『ウェーヴ』等、様々な楽しみ方があるが、ここでエルフとダークエルフ達が取った行動は、観客達がグルグルと同じ回転方向に回る、『サークルモッシュ』と呼ばれる『モッシュ』のひとつ。
 ちなみに『モッシュ』や『ダイブ』は怪我や事故に繋がる恐れがあるため、禁止しているライブハウスやフェスもあり、行うには事前確認、および周囲への配慮が必要である。≫


 先程まで争っていた両者が、まるでひとつになったかのように、大きな渦を作り出していた。
 皆実に楽しそうに笑顔を浮かべながら、汗を交えている。その光景はまさに壁の崩壊したベルリンだった。

 すげえ……本当に音楽でひとつになった……。

 奏太が驚きと感動でその光景を眺めていると、エルフとダークエルフ達に何やら変化が現れはじめた。

 ーーん? なんだかダークエルフの体が段々白くなっていってるような……。

 エルフとダークエルフが混ざっているので目が錯覚を起こしたかと、奏太は目を凝らす。だが、同時にエルフ達も何やら日焼けしたように体が黒くなっていく。

 おいおいおい……! 一体何が起きているんだ!?

 徐々に両者の色が近付いていく様子に、奏太が呆気に取られる。

「奇跡です……。セッ◯ス・ピストルズの力が、エルフさんとダークエルフさんを一つにしたんです。」

 隣で響子がうるうると目を滲ませながら呟いた。

 まさか……こんなことが起こりうるなんて……。

 そこには少し日焼けしたようなエルフ達の姿だけがあり、もはや誰がエルフで誰がダークエルフなのか分からない。
 両者が音楽の力で心を一つにし、互いの中間となる色に変化したのだ。

「凄いです……初めてセッ◯ス・ピストルズをバンドで演奏できて、こんな光景が見られるなんて、ロックンロールは最高です……!

 うおおおーっ!」

 響子が感動に胸を昂らせると、突然雄叫びを上げた。
 まるで今まで耳にしたこともない響子の叫び声に、奏太と金重が驚いて顔を向ける。
 するとそこには、メラメラと体を燃やす響子の姿があった。

 「え!? 響子さん!? ちょっと燃えてますけど!?」

 そういえば響子の魔法は火だったかと奏太が思い出し、慌てて止めに入る。
 だが響子は奏太の制止も聞こえず、どんどん火の勢いを強めていった。

「はああああーっ!」

 そして一層大きく叫ぶと、響子はそのまま持っているベースを振り上げ、燃え盛る炎でベースを燃やした。

「あああああーっ! 小生のベースがーーー!!」

 自分のベースが燃やされてしまったことに金重がたまらず悲鳴を上げるが、響子の最高にロックなパフォーマンスに観客達の盛り上がりは最高潮に達し、大きな歓声の中演奏が締めくくられたーー
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