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リヒト
熊のような大男
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『気がついたか?』
男の声。
目を開けると、間近に、もっさりしたヒゲが。
この、灰色のヒゲは。
どこかで見たような……。
しかし、細部がよく見えない。
手探りで、眼鏡を探していたら。
『ああ、これか?』
と、眼鏡を手渡された。
確か、転んだ時に落としたはずだ。この人が拾ってくれたのか。
「ありがとう」
お礼を言って、眼鏡をかけて。上体を起こし、辺りを見回す。
†‡†‡†
僕のいる場所は、山小屋のような、木を組んで作った簡素な家の中だった。
家の土台は、石を組んだもののようで。
同じく石造りの暖炉もある。
全体的に、手造りっぽい感じだ。
ベッドは木で出来ているようだ。申し訳程度の布が敷いてあったが、その下は硬い木の感触だった。
なるほど、身体のあちこちが痛むと思ったのは、固いベッドに寝かされていたからだったのか。腰が痛い……。
というか。
僕、助かったのか。
灰色熊に襲われたはずなのに。
もしかして、このヒゲモジャの大男があの恐ろしく大きな灰色熊から僕を助けてくれたのか? 凄いな。
この人、伝説のマタギだったのだろうか?
あれ?
でも、この人に噛まれたような記憶もあるんだけど……。
いや、あまりの恐怖で混乱して、おかしな夢でも見たのかも。
そうに違いない。
いきなり、見ず知らずの他人の首筋に噛みつくような人間がいてたまるか。
†‡†‡†
男はベッドの横に椅子を置いて腰を掛けているけど。
座っていても、やたら大きいのがわかる。
肩幅とかも、僕の倍くらいありそうに大きな男だ。
「あの、僕、灰色熊に襲われていたんじゃ……?」
ヒゲ男に訊いてみる。
『逆だ。お前はそこの山で倒れていた。野犬に喰われそうだったから、俺が助けた』
男は意外にいい声だった。
一見、野太い声でしゃべりそうな容姿なのに。意外と若いのかもしれない。
「ああ、野犬……」
あの辺に、野犬が出るなんて噂は聞かなかったけど。
でも、この人はこの山に住んでるみたいだし。最近の山情報に詳しいんだろう。
確かに灰色熊の姿を見たと思ったんだけど。
それこそが夢だったのかも。
こんな場所に、あんな化け物級サイズの灰色熊が存在するはずがないしな。
逃げ出したりしたら、ニュースになって、山も立ち入り禁止になっているに決まってる。
転んで頭を打ったのかもしれない。
眼鏡もしてなかったし。
きっと、野犬か何かがクマに見えたんだろう。マスチフとか、クマっぽいしな。
うん、気のせい気のせい。
「そうですか。助けてくださって、ありがとうございます」
頭を下げ、礼を言う。
『礼はいい。育ったら嫁にするつもりで拾った。助けるのは当たり前のことだ』
……はい?
今、嫁とか言ったような。気のせいかな?
……たぶん、これも気のせいだよね……?
†‡†‡†
よし、聞かなかったことにしよう。
「あの、お名前をお聞きしても……?」
とりあえず、名前を訊いてみた。
『俺の名はジャン=ジャック・フォスター。親しいものはJ・Jと呼ぶが、好きなように呼ぶといい。ここ、グラン・テール王国の森林管理人をしている』
え?
ジャン・ジャック何とかって言った?
まさかの外国人!?
王国、だって?
ここ、日本アルプスですよね!?
森林管理人って何?
見た目で言っちゃ悪いけど、マタギじゃないの!?
よく見ればこの人、灰色っぽい髪とヒゲで顔を覆われているけど。
手とか、肌には張りがあった。
声も若そうだし、かなり若いのかな?
なのに着ている服は、獣の皮を剥いで紐で結んで作ったような簡素なもので。
ちょっと、普通じゃない雰囲気がする。
原始的というか、獣っぽいというか。
伝説では、聞いたことがある。完全に現代文明から隔離された一族、サンカとか、山の民に拾われたのだろうか?
でも、言葉が普通に通じるのはどうしてだろう……。
「ジャン、さん……?」
『敬称はいらないが。まだ馴れないのだろう。今はそれでいい』
頭を撫でられた。
大きな手だなあ。
雰囲気も、クマみたいな人だ。
不思議と、子供みたいに頭を撫でられても。
嫌な感じはしなかった。
『お前の名は?』
続けて色々と質問したかったものの。
助けてくれた人に、礼を欠くわけにはいかない。
「あ、黒江 理人です。大学の薬学部で、生薬の研究をしてます。それで、日本アルプスに植物採集に来たんですが……」
†‡†‡†
『クロエか。かわいい名前だな。よく似合っている』
どうやらにっこりと笑ったようだ。
目が見えなくなった。
目の色は青灰色っぽかったな。灰色っぽい毛も、染めているんじゃないのは生え際を見ればわかる。
鼻も高いし、確かに日本人離れしてるような。
『なるほど、薬草を採りに森に入ったのか。ダイガクとは何だ? ニホン・アルプスとは? どこの国だ?』
不思議そうに、首を傾げている。
え?
大学を知らないのか?
日本も?
日本にいるのに?
まさか、密入国者じゃないよな。
日本語がわからない訳じゃないようだし。
だって、言葉も普通に通じてる。薬はわかってるみたいだし。会話だって、問題なかったよな?
……まさかここ。
日本アルプスじゃないのか?
なんだかものすごく、嫌な予感がする。
男の声。
目を開けると、間近に、もっさりしたヒゲが。
この、灰色のヒゲは。
どこかで見たような……。
しかし、細部がよく見えない。
手探りで、眼鏡を探していたら。
『ああ、これか?』
と、眼鏡を手渡された。
確か、転んだ時に落としたはずだ。この人が拾ってくれたのか。
「ありがとう」
お礼を言って、眼鏡をかけて。上体を起こし、辺りを見回す。
†‡†‡†
僕のいる場所は、山小屋のような、木を組んで作った簡素な家の中だった。
家の土台は、石を組んだもののようで。
同じく石造りの暖炉もある。
全体的に、手造りっぽい感じだ。
ベッドは木で出来ているようだ。申し訳程度の布が敷いてあったが、その下は硬い木の感触だった。
なるほど、身体のあちこちが痛むと思ったのは、固いベッドに寝かされていたからだったのか。腰が痛い……。
というか。
僕、助かったのか。
灰色熊に襲われたはずなのに。
もしかして、このヒゲモジャの大男があの恐ろしく大きな灰色熊から僕を助けてくれたのか? 凄いな。
この人、伝説のマタギだったのだろうか?
あれ?
でも、この人に噛まれたような記憶もあるんだけど……。
いや、あまりの恐怖で混乱して、おかしな夢でも見たのかも。
そうに違いない。
いきなり、見ず知らずの他人の首筋に噛みつくような人間がいてたまるか。
†‡†‡†
男はベッドの横に椅子を置いて腰を掛けているけど。
座っていても、やたら大きいのがわかる。
肩幅とかも、僕の倍くらいありそうに大きな男だ。
「あの、僕、灰色熊に襲われていたんじゃ……?」
ヒゲ男に訊いてみる。
『逆だ。お前はそこの山で倒れていた。野犬に喰われそうだったから、俺が助けた』
男は意外にいい声だった。
一見、野太い声でしゃべりそうな容姿なのに。意外と若いのかもしれない。
「ああ、野犬……」
あの辺に、野犬が出るなんて噂は聞かなかったけど。
でも、この人はこの山に住んでるみたいだし。最近の山情報に詳しいんだろう。
確かに灰色熊の姿を見たと思ったんだけど。
それこそが夢だったのかも。
こんな場所に、あんな化け物級サイズの灰色熊が存在するはずがないしな。
逃げ出したりしたら、ニュースになって、山も立ち入り禁止になっているに決まってる。
転んで頭を打ったのかもしれない。
眼鏡もしてなかったし。
きっと、野犬か何かがクマに見えたんだろう。マスチフとか、クマっぽいしな。
うん、気のせい気のせい。
「そうですか。助けてくださって、ありがとうございます」
頭を下げ、礼を言う。
『礼はいい。育ったら嫁にするつもりで拾った。助けるのは当たり前のことだ』
……はい?
今、嫁とか言ったような。気のせいかな?
……たぶん、これも気のせいだよね……?
†‡†‡†
よし、聞かなかったことにしよう。
「あの、お名前をお聞きしても……?」
とりあえず、名前を訊いてみた。
『俺の名はジャン=ジャック・フォスター。親しいものはJ・Jと呼ぶが、好きなように呼ぶといい。ここ、グラン・テール王国の森林管理人をしている』
え?
ジャン・ジャック何とかって言った?
まさかの外国人!?
王国、だって?
ここ、日本アルプスですよね!?
森林管理人って何?
見た目で言っちゃ悪いけど、マタギじゃないの!?
よく見ればこの人、灰色っぽい髪とヒゲで顔を覆われているけど。
手とか、肌には張りがあった。
声も若そうだし、かなり若いのかな?
なのに着ている服は、獣の皮を剥いで紐で結んで作ったような簡素なもので。
ちょっと、普通じゃない雰囲気がする。
原始的というか、獣っぽいというか。
伝説では、聞いたことがある。完全に現代文明から隔離された一族、サンカとか、山の民に拾われたのだろうか?
でも、言葉が普通に通じるのはどうしてだろう……。
「ジャン、さん……?」
『敬称はいらないが。まだ馴れないのだろう。今はそれでいい』
頭を撫でられた。
大きな手だなあ。
雰囲気も、クマみたいな人だ。
不思議と、子供みたいに頭を撫でられても。
嫌な感じはしなかった。
『お前の名は?』
続けて色々と質問したかったものの。
助けてくれた人に、礼を欠くわけにはいかない。
「あ、黒江 理人です。大学の薬学部で、生薬の研究をしてます。それで、日本アルプスに植物採集に来たんですが……」
†‡†‡†
『クロエか。かわいい名前だな。よく似合っている』
どうやらにっこりと笑ったようだ。
目が見えなくなった。
目の色は青灰色っぽかったな。灰色っぽい毛も、染めているんじゃないのは生え際を見ればわかる。
鼻も高いし、確かに日本人離れしてるような。
『なるほど、薬草を採りに森に入ったのか。ダイガクとは何だ? ニホン・アルプスとは? どこの国だ?』
不思議そうに、首を傾げている。
え?
大学を知らないのか?
日本も?
日本にいるのに?
まさか、密入国者じゃないよな。
日本語がわからない訳じゃないようだし。
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なんだかものすごく、嫌な予感がする。
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