噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ

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3章 婚約式と陰謀

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「落ち着いたか?」
「ええ」
「もういいのか?」
「…大丈夫よ」
「本当に」
「大丈夫って言ってるでしょ!」

 顔を真っ赤にさせて怒る彼女に笑う。急に立ち上がったと思ったら「…さっさと行くわよ」と言って先に部屋を出て行ってしまった。そして追いかけて問うてみればこの状態だ。先程の抱きついてきた可愛らしい彼女はどこへやら。

「何笑ってんのよ…それよりも、今から大仕事よ」
「大仕事?商会がどうの言ってたやつか?」
「そう。あなたは自然体が一番いいと思ってあえて言わなかったのだけど、さっきお父様と対等に喋っているのを見て感心したわ」
「…あのなあ」
「当たり前よね。私と同じくらいの年齢で領主になったんだもの。勝手に見誤ってごめんなさい」
「………」

 何なのだ。さっきと言い、急に素直になりやがって。俺は片手で顔を覆い天を仰ぐ。

「どうしたの?」
「…何でもない。で?」
「変なの。まあいいわ。今回ここに来たのはさっきも言った通り腹いせと、もう一つ目的があったの。それとわざわざ目立つ様な行動をしたのにも理由がある」

 そう言って彼女はドレスを翻した。

「このドレスを見せるためよ。これをビジネスにしようと思って」
「ビジネス?」

 彼女の口からまさかそんなは言葉が出てくるとは思わなかった。彼女は得意げに続ける。

「そう、テーマは手直し。今回私がした様に、元々持ってるドレスを村で作った生地を使ってアレンジするの。商会に仲介してもらうからその分払わないといけないけど、元値をかけなくていいからよっぽど安いし、人手も生地も量産しなくて済む。社交界ではドレスを2度着ない事を逆手にとるの。貧乏臭いなんていう人もいるかもしれないけど、私が見本を見せればそれが最先端になるわ。私周りから嫌われていたけど、何故かみんな私のファッションは真似したがるの。それを利用させてもらう」

 これまでウィリアムズ領は様々な事業に手を出してきたが、殆どが食にまつわるものだった。まさかドレスを作り直すなんていう発想が出てくるわけが無い。

「本当にいらなくなったドレスはバラバラにして新しく作るか布製品にしてもいい。どう?いいと思わない?」
「そんな事をいつ考えていたんだ?」
「リンダさんの宝の部屋を見てからよ。折角あんなに素晴らしい技術があるのに勿体無いと思って。それと、どうにかウィリアムズ領を盛り立てたかったの。その…感謝、してるし」
「ミラ」
「…何よ」
「ありがとう」

 俺が礼を言うと、彼女はまた顔を赤くさせて「あなたにかかってるんだから、せいぜい頑張りなさいよ」と言った。

 会場に戻ると、さっきまで遠目で見られていたのが嘘みたいにいろんな人間が俺達を囲んだ。どうやら彼女の父親が俺達だけでなく、商会側の人間にも許可を出した様だった。近くにいた使用人に頼んで馬車で待機してもらっているウィンターを呼び、話を聞く段取りをしてもらう。

 俺は先程彼女が教えてくれた案を喋った。勿論周りにいる貴族たちも聞き耳を立てていて、彼女のドレスが手直しである事、田舎の領地でこんなにも上質な布を作る事が出来る事に驚いている様子だった。

 結局数ある商会の中から、俺達の案に前向きだったのは2つだけだった。その名刺をもらい、後日話そうという事になった。

「あんまり良くなかったかな、俺の説明」
「そんな事ないわ。どうせ殆どの商会がどのデザイナーに依頼したのか聞きたかったのでしょう。でもまさか私達の村がこんなに素敵なドレスを、しかも手直しでだなんて思わなかったんでしょうね。
 誰もやっていない様な事を挑戦しようなんていう人間はほんの一握りよ。それに前向きだった商会はどちらも好印象な人達だった。篩にかけられて良かったじゃない」

 彼女の言葉にほっとする。こんな風に俺をフォローしてくれる様になった事に嬉しい。それともう一つ。

「“私達の村”、ねえ」
「…何よ。悪い?」
「だから何でそう一々喧嘩腰なんだ。さ、帰ろう。
“俺達の村”に」

 彼女は微笑みながら俺の腕に手をかけた。そして出口に差し掛かろうとしていた時だった。

「すみません、最後に我々ともお話をさせて頂けませんか」

 先程の流れに出遅れたのだろうか、新たな商会が俺達に声をかけた。彼女に目配せすると、「どうぞ」と言って俺の腕から手を離す。出来ればもう帰りたかったが、これも大きなチャンスになるかもしれないと思って話を聞く事にした。

「…成程。とても興味深い」
「ええそうでしょう」

 相手は本当に興味深いのか矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。俺も結構な数の商会の人間に説明したおかげで一々彼女に確認せずとも答えれる様になっていた。

 その時、ふと嫌な予感がした。俺は彼女の事を最後にいつ確認しただろうか。そう思って振り返ると、いるはずの彼女の姿がなかった。背筋が凍り、途端に心臓が早鐘を打つ。次の瞬間、俺は商会の男に腕を掴まれていた。

「すみません、あちらの部屋でもう少し話をさせて頂けませんか?」
「…彼女をどこにやった?」

 商会の男は俺の問いに答えず、変わらぬ貼り付けた笑顔でこちらを見ていた。
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