目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく

文字の大きさ
26 / 40

第26話 離れていても

しおりを挟む
入学式の翌朝。

 王立魔法学院の寮は、まだ少しだけ落ち着かない空気に包まれていた。

「……朝から騒がしいな」

 ユリウスは制服の襟を整えながら、廊下の様子を窺う。
 扉の向こうでは、新入生たちの足音と声が行き交っていた。

「みんな緊張してるんだよ」

 そう言いながら、レオンハルトは窓際で外を眺めている。

「初日から授業だし、寮生活も始まるし」

「お前は余裕そうだな」

「ううん。全然」

 レオンハルトは小さく笑った。

「ルクシアが王都にいるって思うと、ちょっと落ち着かない」

 その言葉に、ユリウスは一瞬だけ視線を伏せる。

「……同感だ」

 そこへ、扉がノックされた。

「ユリウス、レオンハルト、行こうぜ」

 エリオスの声だ。

「初授業、遅れたら即目立つぞ」
「もう十分目立ってる気もするけど」

 セレスの軽口に、場の空気が少し和らぐ。

 ――初日の授業は、基礎魔力理論。

 魔力の流れ、制御、身体への負荷。
 思っていた以上に、実践的な内容だった。

「……なるほど」

 ユリウスは真剣な表情で講義を聞きながら、ある一文に強く反応する。

『成長期以前に過剰な魔力を持つ者は、制御を誤ると身体に大きな負担をかける』

(……ルクシア)

 思わず、拳を握りしめる。

 離れているからこそ、
知識を得る意味がある。

 守るために、強くなる。

 ――――――――――

 同じ頃。

 王都、ノクティス公爵邸。

 私は訓練用の部屋で、静かに呼吸を整えていた。

「……ゆっくり」

 光が、淡く指先に灯る。

 闇は、その奥で静かに揺れている。

 以前のような暴走はない。
 でも、油断はできない。

「いいですね、その調子です」

 そばで見守っているのは、専属の魔術師。

「今日は“出す”のではなく、“留める”練習をしましょう」

「……はい」

(学院、どうしてるかな)

 授業。
 寮。
 新しい環境。

 私がまだ知らない世界。

 胸の奥が、少しだけきゅっとする。

 練習を終えた後、母が部屋に入ってきた。

「無理してない?」

「してないよ」

 そう答えると、母は安心したように微笑んだ。

「学院に行ったみんなから、もう手紙が届いているわ」

「……え?」

 一気に顔を上げる。

「今朝届いたの。後で一緒に読みましょう」

(はやっ)

 思わず心の中で突っ込む。

 部屋へ戻り、机に並べられた手紙を見る。

 ユリウスの、少し堅い文字。
 レオンハルトの、丸くて読みやすい文字。
 エリオスたちの、にぎやかな連名。

 胸の奥が、じんわり温かくなる。

 ――――――――――

 学院の中庭。

 授業の合間、ベンチに腰掛けながらレオンハルトが言った。

「ルクシア、ちゃんと休んでるかな」

「過保護ルールあるし、大丈夫だろ」
「でも心配だよ」

 カイが苦笑する。

「俺たちが心配しても、今はできること少ないしな」

 ユリウスは、静かに空を見上げた。

「だからこそ、ここで学ぶ」

 全員が、無言で頷く。

 ――――――――――

 王都。

 夕暮れの部屋で、私は手紙を読み終えた。

「……みんな、元気そう」

 安心と、少しの寂しさ。

 でも、それ以上に――

(私も、ちゃんと頑張らなきゃ)

 学院に行くその日まで。

 追いつくために。
 並ぶために。

 離れていても、
それぞれの場所で積み重ねる時間がある。

 その想いは、きっと交差する。

 未来の、その日のために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

処理中です...