魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした

月影みるく

文字の大きさ
29 / 35

第29話 余波

しおりを挟む
ゆっくりと、意識が浮かび上がる。

――あたたかい。

柔らかな寝台。
微かに香る薬草の匂い。

「……」

セラフィナは、ゆっくりと目を開けた。

天井。
見慣れた、魔界城の自室。

「……あ」

体を起こそうとして、視界が揺れる。

「無理をなさってはいけません」

すぐ近くで、声がした。

視線を向けると。

そこには、たくさんの顔があった。

魔王。
ノエル。
アルト。
リリア。
そして――

「……クロウ」

包帯を巻いたクロウ・フェルゼンが、寝台の傍に膝をついていた。

その姿を見た瞬間。

胸が、ぎゅっと締め付けられる。

「……姫君」

クロウは、セラフィナの目が開いたのを確認すると、
すぐに深く頭を下げた。

「この度は」

「私の不覚により」

「姫君を、完全にはお守りできませんでした」

「誠に……申し訳ございません」

包帯の隙間から、まだ痛々しい傷が覗く。

震える指先。
わずかに強張った表情。

「……」

セラフィナの喉が、ひくりと鳴った。

「……ちがう」

小さく、声が漏れる。

「ちがうよ、クロウ」

だが、クロウは顔を上げない。

「いえ」

「結果として、姫君を危険に晒しました」

「騎士として、許されぬ失態です」

その言葉。

その姿。

――怪我をしているのに。
――それでも、自分を責めている。

「……やめて」

セラフィナの声が、少し震えた。

「……それ、全部」

「私のせいじゃん」

一斉に、空気が張り詰める。

魔王が、口を開こうとする。

「セラフィナ――」

「ちがう!」

セラフィナは、叫ぶように言った。

「私が……!」

「私が、魔力を持ってるから」

「私が、あそこにいたから」

「クロウが……!」

視線が、包帯に向く。

「……こんなことに、なったんでしょ」

ぎゅっと、シーツを握りしめる。

「……私」

声が、かすれる。

「私が魔法、使わなければ」

「私が強くなければ」

「こんなこと、起きなかった」

「……姫君」

クロウが、ようやく顔を上げる。

その目は、真剣で。
どこまでも、まっすぐで。

「それは、違います」

「違わない!」

セラフィナの感情が、溢れ出す。

「だって、私の魔力に魔獣が寄ってきたんでしょ!」

「私がいるだけで、危ないなら」

「私が外に出なければ……!」

息が、乱れる。

「……もう」

「魔法、使うの、怖い」

ぽつりと、落ちた本音。

部屋が、静まり返る。

「……外に出るのも」

「誰かと一緒にいるのも」

「……また、誰かが怪我するかもしれない」

目に、熱いものが滲む。

「……私」

「怖いよ……」

クロウは、一瞬だけ目を伏せた。

そして、ゆっくりと。

痛むはずの体で、姿勢を正す。

「……姫君」

声は、いつも通り敬語。
だが、どこか震えている。

「姫君が怖がる必要は、ありません」

「私が怪我をしたのは」

「姫君を守ると、決めているからです」

「それを後悔したことは」

「一度も、ございません」

セラフィナは、唇を噛む。

「……でも」

「それでもです」

クロウは、はっきりと言った。

「たとえ、何度怪我をしても」

「私は、姫君の前に立ちます」

「それが」

「私の誇りであり、忠誠であり」

「――愛ですから」

その言葉に。

セラフィナの胸が、大きく波打った。

「……クロウ」

声が、震える。

魔王は、静かに一歩前に出た。

「……セラフィナ」

低く、しかし優しい声。

「お前の力は、恐れるものではない」

「だが」

「今は、傷ついた」

「心も、体も」

セラフィナは、俯いたまま呟く。

「……私」

「しばらく」

「外、出たくない」

「魔法も……」

「使いたくない」

誰も、否定しなかった。

魔王は、ただ静かに頷く。

「……いい」

「今は、それでいい」

「逃げることは、負けではない」

「立ち止まることも、罪ではない」

セラフィナは、ぎゅっと目を閉じた。

(……怖い)

(……私が、私でいるのが)

その夜。

魔界に静かな余波が広がる中。

魔界の姫は。

初めて――

自分の力を、
そして自分自身を、

心から、怖いと思っていた。

そしてそれは。

これから始まる、
さらに大きな物語の、

静かな、始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり
恋愛
【まじめ侍女と、小悪魔系王子、無自覚系ツンデレ王子、寡黙ぼんやり系王子、三人の甘党王子様たちによるラブコメ】 王宮侍女ロアナは、あるとき思いがけない断罪にみまわれた。 彼女がつくった菓子が原因で、美貌の第五王子が害されたという。 しかしロアナには、顔も知らない王子様に、自分の菓子が渡った理由がわからない。 けれども敬愛する主には迷惑がかけられず… 処罰を受けいれるしかないと覚悟したとき。そんな彼女を救ったのは、面識がないはずの美貌の王子様で…? 王宮が舞台の身分差恋物語。 勘違いと嫉妬をふりまく、のんきなラブコメ(にしていきたい)です。 残念不憫な王子様発生中。 ※他サイトさんにも投稿予定

処理中です...