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第30話 閉ざした世界
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魔界城・姫の私室。
カーテンは閉められたまま。
昼か夜かも、もうわからない。
セラフィナは、ベッドの上で膝を抱えていた。
(……静か)
あれほど賑やかだった城が、
今は、ひどく遠い。
「……魔法」
ぽつり、と呟く。
あの日。
クロウが、血に染まったあの日。
(私が……)
(私の、せいで)
胸の奥が、きゅっと縮む。
魔法を使えば、誰かが傷つく。
力を解放すれば、守るつもりだった人を壊してしまう。
(……怖い)
指先が、微かに震えた。
* * *
「姫君」
控えめなノック。
聞き慣れた声。
「……入らないで」
即座に、返す。
「少し、話をするだけです」
「……やだ」
扉の向こうで、わずかな沈黙。
「……承知しました」
そのまま、足音が遠ざかる。
(……)
(クロウ)
胸が、ちくりと痛んだ。
* * *
廊下。
クロウ・フェルゼンは、壁際に立ったまま動かなかった。
肩から腕にかけて、包帯。
まだ、完全には治っていない。
(……守れなかった)
いや。
守った。
だが、代償を払わせてしまった。
(姫君に、“恐怖”を)
拳を、そっと握る。
(私は)
(それでも、そばにいるべきだ)
そう思うのに。
扉一枚が、ひどく遠い。
* * *
数日後。
訪問を告げる声が、姫の部屋に届く。
「……セラフィナ?」
「セラフィナ?」
ノエルとアルトの声。
だが、返事はない。
二人は、扉の前で立ち尽くす。
「無理に、とは言わない」
「でも、心配してる」
中から、微かな気配。
それでも、扉は開かなかった。
「……また来る」
そう言って、足音は去っていく。
セラフィナは、布団の中で目を閉じた。
(……みんな、優しい)
だから。
余計に、怖い。
* * *
その夜。
再び、扉の前に気配が戻る。
「……姫君」
クロウの声。
「今日は、話さない」
「ただ、ここにおります」
「姫君が、眠るまで」
「……意味わかんない」
小さく、そう返す。
それでも。
足音は、去らなかった。
* * *
しばらくして。
「……クロウ」
小さな声。
「はい」
即座に、返る。
「……立ってるの?」
「はい」
「……ばかじゃない?」
「恐れ入ります」
少し、間があって。
「……でも」
セラフィナは、布団の中で唇を噛む。
「離れないで」
クロウの呼吸が、一瞬止まった。
「……承知しました」
低く、確かな声。
「私は、ここにおります」
「姫君が、怖い間も」
「ご自身を責める間も」
「……すべて」
「そばにおります」
セラフィナの目から、静かに涙が落ちた。
(……ずるい)
(そんなこと言われたら)
(怖いって、言えなくなるじゃん)
「……クロウ」
「はい」
「……ごめん」
「何について、でしょうか」
「……怪我、させた」
廊下の向こうで、クロウは首を振る。
「それは、違います」
「私は、騎士です」
「姫君を守れたことを、誇りに思っています」
「……でも」
「それでも、です」
きっぱりと。
「姫君が、力を恐れる必要はありません」
「……」
「恐れるべきなのは」
「その力を、利用しようとする者です」
その言葉に。
セラフィナは、初めて“外”を思った。
(……利用)
(……怖がる人)
胸の奥に、微かな違和感。
まだ、形にならない不安。
「……ねえ、クロウ」
「はい」
「私……外、出るの」
「まだ、怖い」
「それでも」
少し、息を吸って。
「……一人は、やだ」
クロウは、迷わなかった。
「では」
「私が、共に参ります」
「いつでも」
「何度でも」
扉一枚越し。
それでも、確かに。
二人の距離は、近づいていた。
――閉ざした世界は、まだ完全には開かない。
だが。
その前に立ち続ける影がいる限り。
セラフィナは、独りにはならなかった。
カーテンは閉められたまま。
昼か夜かも、もうわからない。
セラフィナは、ベッドの上で膝を抱えていた。
(……静か)
あれほど賑やかだった城が、
今は、ひどく遠い。
「……魔法」
ぽつり、と呟く。
あの日。
クロウが、血に染まったあの日。
(私が……)
(私の、せいで)
胸の奥が、きゅっと縮む。
魔法を使えば、誰かが傷つく。
力を解放すれば、守るつもりだった人を壊してしまう。
(……怖い)
指先が、微かに震えた。
* * *
「姫君」
控えめなノック。
聞き慣れた声。
「……入らないで」
即座に、返す。
「少し、話をするだけです」
「……やだ」
扉の向こうで、わずかな沈黙。
「……承知しました」
そのまま、足音が遠ざかる。
(……)
(クロウ)
胸が、ちくりと痛んだ。
* * *
廊下。
クロウ・フェルゼンは、壁際に立ったまま動かなかった。
肩から腕にかけて、包帯。
まだ、完全には治っていない。
(……守れなかった)
いや。
守った。
だが、代償を払わせてしまった。
(姫君に、“恐怖”を)
拳を、そっと握る。
(私は)
(それでも、そばにいるべきだ)
そう思うのに。
扉一枚が、ひどく遠い。
* * *
数日後。
訪問を告げる声が、姫の部屋に届く。
「……セラフィナ?」
「セラフィナ?」
ノエルとアルトの声。
だが、返事はない。
二人は、扉の前で立ち尽くす。
「無理に、とは言わない」
「でも、心配してる」
中から、微かな気配。
それでも、扉は開かなかった。
「……また来る」
そう言って、足音は去っていく。
セラフィナは、布団の中で目を閉じた。
(……みんな、優しい)
だから。
余計に、怖い。
* * *
その夜。
再び、扉の前に気配が戻る。
「……姫君」
クロウの声。
「今日は、話さない」
「ただ、ここにおります」
「姫君が、眠るまで」
「……意味わかんない」
小さく、そう返す。
それでも。
足音は、去らなかった。
* * *
しばらくして。
「……クロウ」
小さな声。
「はい」
即座に、返る。
「……立ってるの?」
「はい」
「……ばかじゃない?」
「恐れ入ります」
少し、間があって。
「……でも」
セラフィナは、布団の中で唇を噛む。
「離れないで」
クロウの呼吸が、一瞬止まった。
「……承知しました」
低く、確かな声。
「私は、ここにおります」
「姫君が、怖い間も」
「ご自身を責める間も」
「……すべて」
「そばにおります」
セラフィナの目から、静かに涙が落ちた。
(……ずるい)
(そんなこと言われたら)
(怖いって、言えなくなるじゃん)
「……クロウ」
「はい」
「……ごめん」
「何について、でしょうか」
「……怪我、させた」
廊下の向こうで、クロウは首を振る。
「それは、違います」
「私は、騎士です」
「姫君を守れたことを、誇りに思っています」
「……でも」
「それでも、です」
きっぱりと。
「姫君が、力を恐れる必要はありません」
「……」
「恐れるべきなのは」
「その力を、利用しようとする者です」
その言葉に。
セラフィナは、初めて“外”を思った。
(……利用)
(……怖がる人)
胸の奥に、微かな違和感。
まだ、形にならない不安。
「……ねえ、クロウ」
「はい」
「私……外、出るの」
「まだ、怖い」
「それでも」
少し、息を吸って。
「……一人は、やだ」
クロウは、迷わなかった。
「では」
「私が、共に参ります」
「いつでも」
「何度でも」
扉一枚越し。
それでも、確かに。
二人の距離は、近づいていた。
――閉ざした世界は、まだ完全には開かない。
だが。
その前に立ち続ける影がいる限り。
セラフィナは、独りにはならなかった。
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