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閑話 貴公子達の恋愛論
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穏やかな午後の一時。
王太子であるエドヴァスの私室にて、珍しく各々の恋愛について語りはじめた。
「…で、クリストファーにとっての恋愛とは」
少し揶揄いを含んだ声音でエドヴァスクリストファーに問う。
エドヴァスの問いにクリストファーは真剣な趣で告げる。
「僕にとってはマリアンヌです!
それ以上もそれ以下もありません!(力説)」
真顔で何を言うかと思いつつ、キッパリと確固たる意志の表れにエドヴァスは肩を竦める。
溜息を漏らしながら心の中で呟いた。
聞くべきではなかった、と。
そして隣にいるエリオットに視線を注ぐ。
エドヴァスの視線に気付いたのか、エリオットは傍迷惑な話だと考えながらエドヴァスに問う。
「……、私にこの手の話を論じろと」
不機嫌極まり無い声音にエドヴァスは苦笑する。
朴念仁なこいつに恋愛云々をどう語るか、大体の想像がつくが一応、話を振ってみる事にした。
予想通りの答えが出ると信じて疑っていないが、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないとエドヴァスは思ったがエリオットの容赦無い一言に、エドヴァスの顔が引き攣る。
「その意味不明な言葉は、私の人生に必要ありません。
あと、貴方様がクリスティアーナ・レガーリス公爵令嬢に報われ無い恋情を抱いている事が恋愛だと申されるのなら、全く不毛な感情だと」
「……どうして俺の話となる!
あくまでもお前の恋愛論についてだ!」
淡々と語るエリオットに、エドヴァスは不貞腐れる様に言葉を吐き捨てる。
ぶつぶつとどうして俺の恋愛が不毛なのか、と延々と呟きながら。
そんなエドヴァスにふっと息を吐き、淡々と語る。
「では、クリストファー殿の様に締まりの無い緩んだ表情が、感情が乱れまくっているのが恋愛では無いでしょうか」
エリオットの発言に、ぶっとエドヴァスが吹き出す。
「的を得てるな」と、エドヴァスが腹を抱えて豪快に笑い出す。
部屋中に響くエドヴァスの笑い声にクリストファーの表情から感情が消え、ヒヤリとした冷気が漂う。
氷の女王の如く冷酷な笑みを浮かべるクリストファーにエドヴァスは、心の中で「おお怖」と呟く。
クリストファーの鋭い視線を受けても揺るがないエリオットの平常心に、これはこれで恐ろしいとエドヴァスは何度目かの溜息を吐く。
ふと、エリオットの言葉に我に変える。
一方的な恋愛を由とは思ってはいないが、側から見るとそう思われているのか、と。
(ティア)
亡き婚約者に今だに変わらぬ愛を抱くクリスティアーナ。
そのクリスティアーナに幼い頃からずっと恋情を抱き、愛を告げても相手にされず。
それでもクリスティアーナを求める気持ちを抑える事が出来ない。
諦められない想いが存在する事を、エドヴァスは初めて知った……。
(不得手な感情だ。
俺の性に合わん筈だが……)
ままならない感情に振り回されていると自覚している。
これが恋愛なのかと思うと不条理としか思えない。
その不条理な想いに囚われている己に、王太子たるもの、何事にも囚われずただ国の秩序と安寧を唯一と思い、生きる事が定めかと叱責するエリオットの言葉を思い出す。
王太子であるエドヴァスに個人の感情を優先する事は許されない。
だが……。
己の考えに囚われているエドヴァスを横目に、エリオットは妹のコゼットを思い浮かべていた。
激しい嫉妬を隠す事なく、自室で喚き散らすコゼット。
感情の赴くまま、婚約者のいるクリストファーに堂々と恋情を告げるコゼット。
報われ無い想いだと自覚もせず、ただただ己の感情に身を任せ。
エリオットには理解不能としか思えない、コゼットの騒々しい行動も身勝手な感情も。
ふと、幼いコゼットを思い出す。
幼い頃、病弱でずっとベッドに臥せっていたコゼット。
「何時、病が治るの!」、「私はいつになったら元気に動けるの!」と激しく泣いて泣きじゃくりながら看病するエリオットの手を握り締め、掠れた声で呟いた。
「……元気になって、私は、王子様と恋をするの」
熱に魘され涙を流しながら発した、幼いコゼットの願い。
エリオットはコゼットの呟きに肯定も否定もする事が出来なかった……。
*
(……、全く僕のマリアンヌに対する愛を俗物だと言わんばかりのエリオット殿の冷ややかな物言いは!
そしてエドヴァス様の、あの揶揄いを含んだ言葉。
全く人を馬鹿にしている。
ああ、マリアンヌに会いたい!
会って想いの限り抱き締めて、そして)
クリストファーの愛の深さ、重さを、マリアンヌの至る場所に刻んで、そして……。
ぶわり、と濃厚な薔薇の薫りが思考を蕩けさせ、瞳がサファイヤブルーから鈍いアメジストに変化している事に気付き、クリストファーは被りを振り我に返る。
ドクドクと脈打つ心臓の音に背中に冷たい汗が流れ落ちる。
冷静さを取り戻したクリストファーは目を閉じ、ふううと息つく。
(一瞬、恐ろしい思考に陥りそうになった)
青褪めるクリストファーにエドヴァスとエリオットは気付かない。
狂気じみた愛をマリアンヌに抱いている事は自覚している。
これが対なる君の呪いが起因か、若しくはクリストファー本来の願望か。
どちらも否定しようとは思わない。
(恋愛とは、僕にとってのマリアンヌは……)
ふっと口元が緩む。
思い浮かべるマリアンヌの優しい笑みに、クリストファーは「ああ」と言葉を紡ぐ。
マリアンヌが愛おしい。
ただ、それだけ。
(マリアンヌ、愛しているよ……)
晴れやかな笑みを浮かべるクリストファーに、「やっと機嫌が治ったか」と苦笑するエドヴァスだった。
王太子であるエドヴァスの私室にて、珍しく各々の恋愛について語りはじめた。
「…で、クリストファーにとっての恋愛とは」
少し揶揄いを含んだ声音でエドヴァスクリストファーに問う。
エドヴァスの問いにクリストファーは真剣な趣で告げる。
「僕にとってはマリアンヌです!
それ以上もそれ以下もありません!(力説)」
真顔で何を言うかと思いつつ、キッパリと確固たる意志の表れにエドヴァスは肩を竦める。
溜息を漏らしながら心の中で呟いた。
聞くべきではなかった、と。
そして隣にいるエリオットに視線を注ぐ。
エドヴァスの視線に気付いたのか、エリオットは傍迷惑な話だと考えながらエドヴァスに問う。
「……、私にこの手の話を論じろと」
不機嫌極まり無い声音にエドヴァスは苦笑する。
朴念仁なこいつに恋愛云々をどう語るか、大体の想像がつくが一応、話を振ってみる事にした。
予想通りの答えが出ると信じて疑っていないが、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないとエドヴァスは思ったがエリオットの容赦無い一言に、エドヴァスの顔が引き攣る。
「その意味不明な言葉は、私の人生に必要ありません。
あと、貴方様がクリスティアーナ・レガーリス公爵令嬢に報われ無い恋情を抱いている事が恋愛だと申されるのなら、全く不毛な感情だと」
「……どうして俺の話となる!
あくまでもお前の恋愛論についてだ!」
淡々と語るエリオットに、エドヴァスは不貞腐れる様に言葉を吐き捨てる。
ぶつぶつとどうして俺の恋愛が不毛なのか、と延々と呟きながら。
そんなエドヴァスにふっと息を吐き、淡々と語る。
「では、クリストファー殿の様に締まりの無い緩んだ表情が、感情が乱れまくっているのが恋愛では無いでしょうか」
エリオットの発言に、ぶっとエドヴァスが吹き出す。
「的を得てるな」と、エドヴァスが腹を抱えて豪快に笑い出す。
部屋中に響くエドヴァスの笑い声にクリストファーの表情から感情が消え、ヒヤリとした冷気が漂う。
氷の女王の如く冷酷な笑みを浮かべるクリストファーにエドヴァスは、心の中で「おお怖」と呟く。
クリストファーの鋭い視線を受けても揺るがないエリオットの平常心に、これはこれで恐ろしいとエドヴァスは何度目かの溜息を吐く。
ふと、エリオットの言葉に我に変える。
一方的な恋愛を由とは思ってはいないが、側から見るとそう思われているのか、と。
(ティア)
亡き婚約者に今だに変わらぬ愛を抱くクリスティアーナ。
そのクリスティアーナに幼い頃からずっと恋情を抱き、愛を告げても相手にされず。
それでもクリスティアーナを求める気持ちを抑える事が出来ない。
諦められない想いが存在する事を、エドヴァスは初めて知った……。
(不得手な感情だ。
俺の性に合わん筈だが……)
ままならない感情に振り回されていると自覚している。
これが恋愛なのかと思うと不条理としか思えない。
その不条理な想いに囚われている己に、王太子たるもの、何事にも囚われずただ国の秩序と安寧を唯一と思い、生きる事が定めかと叱責するエリオットの言葉を思い出す。
王太子であるエドヴァスに個人の感情を優先する事は許されない。
だが……。
己の考えに囚われているエドヴァスを横目に、エリオットは妹のコゼットを思い浮かべていた。
激しい嫉妬を隠す事なく、自室で喚き散らすコゼット。
感情の赴くまま、婚約者のいるクリストファーに堂々と恋情を告げるコゼット。
報われ無い想いだと自覚もせず、ただただ己の感情に身を任せ。
エリオットには理解不能としか思えない、コゼットの騒々しい行動も身勝手な感情も。
ふと、幼いコゼットを思い出す。
幼い頃、病弱でずっとベッドに臥せっていたコゼット。
「何時、病が治るの!」、「私はいつになったら元気に動けるの!」と激しく泣いて泣きじゃくりながら看病するエリオットの手を握り締め、掠れた声で呟いた。
「……元気になって、私は、王子様と恋をするの」
熱に魘され涙を流しながら発した、幼いコゼットの願い。
エリオットはコゼットの呟きに肯定も否定もする事が出来なかった……。
*
(……、全く僕のマリアンヌに対する愛を俗物だと言わんばかりのエリオット殿の冷ややかな物言いは!
そしてエドヴァス様の、あの揶揄いを含んだ言葉。
全く人を馬鹿にしている。
ああ、マリアンヌに会いたい!
会って想いの限り抱き締めて、そして)
クリストファーの愛の深さ、重さを、マリアンヌの至る場所に刻んで、そして……。
ぶわり、と濃厚な薔薇の薫りが思考を蕩けさせ、瞳がサファイヤブルーから鈍いアメジストに変化している事に気付き、クリストファーは被りを振り我に返る。
ドクドクと脈打つ心臓の音に背中に冷たい汗が流れ落ちる。
冷静さを取り戻したクリストファーは目を閉じ、ふううと息つく。
(一瞬、恐ろしい思考に陥りそうになった)
青褪めるクリストファーにエドヴァスとエリオットは気付かない。
狂気じみた愛をマリアンヌに抱いている事は自覚している。
これが対なる君の呪いが起因か、若しくはクリストファー本来の願望か。
どちらも否定しようとは思わない。
(恋愛とは、僕にとってのマリアンヌは……)
ふっと口元が緩む。
思い浮かべるマリアンヌの優しい笑みに、クリストファーは「ああ」と言葉を紡ぐ。
マリアンヌが愛おしい。
ただ、それだけ。
(マリアンヌ、愛しているよ……)
晴れやかな笑みを浮かべるクリストファーに、「やっと機嫌が治ったか」と苦笑するエドヴァスだった。
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