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第25話 試される忠誠
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第25話 試される忠誠
その呼び出しは、あまりにも自然だった。
「少し、時間をいただけますか」
イーグル・タロンの声は、いつも通り穏やかで、
そこに含みはない――ように聞こえた。
「ええ、構いませんわ」
アヴェンタドールは、微笑みを崩さない。
(……来ましたわね)
場所は、皇帝の執務室に隣接する小会議室。
記録官も、護衛もいない。
二人きり。
「最近、政務の速度が上がっています」
イーグルは、世間話のように切り出した。
「陛下も、満足しておられる」
「それは、何よりです」
アヴェンタドールは、椅子に腰掛ける。
「ただ――」
イーグルは、一瞬、間を置いた。
「情報の流れが、
少し“整理されすぎている”」
探り。
だが、浅い。
「効率化しただけですわ」
即答せず、
ほんの一拍、考えてから返す。
「帝国は大きい。
無駄は、敵ですもの」
「……同感です」
イーグルは、目を伏せた。
(……逃げた)
だが、それでいい。
次だ。
「ローゼリア王国の件ですが」
その名を出した瞬間、
空気が、わずかに張りつめた。
「王太子から、
非公式な打診が来ています」
「内容は?」
「――婚約の再考を」
アヴェンタドールは、
一切、表情を変えなかった。
「陛下は?」
「一笑に付されました」
それは、事実だ。
だが、
“その後”がある。
「……ですが」
イーグルは、
アヴェンタドールを真っ直ぐに見た。
「貴女が、
どう思われるかは、別です」
沈黙。
短いが、
十分すぎる沈黙。
「……おかしな質問ですわ」
アヴェンタドールは、
静かに微笑んだ。
「わたくしは、
帝国の皇帝陛下の婚約者であり、
秘書官です」
「個人の感情は?」
「――ありません」
嘘ではない。
だが、
全てでもない。
イーグルは、
その“余白”を見逃さなかった。
「では、仮に」
声を、少しだけ落とす。
「帝国にとって、
貴女の存在が“重荷”になるとしたら?」
これは、
明確な一線越え。
アヴェンタドールは、
ようやく視線を上げた。
「……それは」
一拍。
「陛下が、
お決めになることです」
――完璧な回答。
忠誠。
線引き。
そして、距離。
(……なるほど)
イーグルは、内心で息を吐いた。
(この人は、
誰にも“寄りかからない”)
それは、
使いやすくもあり、
制御しにくい。
「失礼しました」
イーグルは、立ち上がる。
「ただの確認です」
「お気になさらず」
アヴェンタドールも、立ち上がる。
「確認は、大切ですわ」
二人は、互いに礼をした。
だが――。
扉が閉まった瞬間。
(……決まりですわ)
アヴェンタドールの胸中は、
冷え切っていた。
(イーグル・タロンは、
“忠誠”を測ってきました)
(つまり――
わたくしを、
どこまで利用できるか)
同時に。
廊下を歩きながら、
イーグルも考えていた。
(……彼女は、
帝国側だ)
(少なくとも、
今は)
だが、それは――
絶対ではない。
夜。
アヴェンタドールは、
一人、日記代わりの覚書に書き込む。
> 忠誠を問われた。
問う者は、
すでに“忠誠の外”にいる可能性が高い。
ペンを置く。
(……静かに、
準備を始めましょう)
表では、何も変えず。
裏では、確実に。
帝国の中で、
もう一つの戦いが、
本格的に始まった。
---
その呼び出しは、あまりにも自然だった。
「少し、時間をいただけますか」
イーグル・タロンの声は、いつも通り穏やかで、
そこに含みはない――ように聞こえた。
「ええ、構いませんわ」
アヴェンタドールは、微笑みを崩さない。
(……来ましたわね)
場所は、皇帝の執務室に隣接する小会議室。
記録官も、護衛もいない。
二人きり。
「最近、政務の速度が上がっています」
イーグルは、世間話のように切り出した。
「陛下も、満足しておられる」
「それは、何よりです」
アヴェンタドールは、椅子に腰掛ける。
「ただ――」
イーグルは、一瞬、間を置いた。
「情報の流れが、
少し“整理されすぎている”」
探り。
だが、浅い。
「効率化しただけですわ」
即答せず、
ほんの一拍、考えてから返す。
「帝国は大きい。
無駄は、敵ですもの」
「……同感です」
イーグルは、目を伏せた。
(……逃げた)
だが、それでいい。
次だ。
「ローゼリア王国の件ですが」
その名を出した瞬間、
空気が、わずかに張りつめた。
「王太子から、
非公式な打診が来ています」
「内容は?」
「――婚約の再考を」
アヴェンタドールは、
一切、表情を変えなかった。
「陛下は?」
「一笑に付されました」
それは、事実だ。
だが、
“その後”がある。
「……ですが」
イーグルは、
アヴェンタドールを真っ直ぐに見た。
「貴女が、
どう思われるかは、別です」
沈黙。
短いが、
十分すぎる沈黙。
「……おかしな質問ですわ」
アヴェンタドールは、
静かに微笑んだ。
「わたくしは、
帝国の皇帝陛下の婚約者であり、
秘書官です」
「個人の感情は?」
「――ありません」
嘘ではない。
だが、
全てでもない。
イーグルは、
その“余白”を見逃さなかった。
「では、仮に」
声を、少しだけ落とす。
「帝国にとって、
貴女の存在が“重荷”になるとしたら?」
これは、
明確な一線越え。
アヴェンタドールは、
ようやく視線を上げた。
「……それは」
一拍。
「陛下が、
お決めになることです」
――完璧な回答。
忠誠。
線引き。
そして、距離。
(……なるほど)
イーグルは、内心で息を吐いた。
(この人は、
誰にも“寄りかからない”)
それは、
使いやすくもあり、
制御しにくい。
「失礼しました」
イーグルは、立ち上がる。
「ただの確認です」
「お気になさらず」
アヴェンタドールも、立ち上がる。
「確認は、大切ですわ」
二人は、互いに礼をした。
だが――。
扉が閉まった瞬間。
(……決まりですわ)
アヴェンタドールの胸中は、
冷え切っていた。
(イーグル・タロンは、
“忠誠”を測ってきました)
(つまり――
わたくしを、
どこまで利用できるか)
同時に。
廊下を歩きながら、
イーグルも考えていた。
(……彼女は、
帝国側だ)
(少なくとも、
今は)
だが、それは――
絶対ではない。
夜。
アヴェンタドールは、
一人、日記代わりの覚書に書き込む。
> 忠誠を問われた。
問う者は、
すでに“忠誠の外”にいる可能性が高い。
ペンを置く。
(……静かに、
準備を始めましょう)
表では、何も変えず。
裏では、確実に。
帝国の中で、
もう一つの戦いが、
本格的に始まった。
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