見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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4-6 弾劾

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4-6 弾劾

静まり返ったディオール領邸の謁見室。
天井の高い空間には、わずかな蝋燭の灯りが揺れていた。
セリカは椅子に腰かけたまま、無言で待っていた。
その装いは――平民の制服。
今日も学校に通っていたのだろう、靴にはまだ街の埃が残っている。

(この姿で迎えることに意味がある。
 “誰のために怒っているのか”を、はっきり示すために。)

やがて、重々しい足音が響き、扉が開いた。
入ってきたのは、予算監査官ウォーロック男爵。
腹の出た中年貴族で、顔には傲慢と疲弊が混じっている。

「お、お嬢様……そのお姿は……?」
男爵は目を見張り、思わず声を震わせた。

セリカはゆっくりと顔を上げる。
「実際に学校に通ってみなければ、見えないものがあると思いまして。
 平民の子供たちと同じ目線で過ごしてみましたの。」

「な、なんと……ご立派なお考えですな。さすがディオール家の――」

その言葉を途中で遮るように、セリカは机に一冊の帳簿を静かに置いた。
ぱさりと、重い音が響く。

「ではお聞きしますわ。――あなた、何をしていたのですか?」

男爵の笑みが凍る。
「……な、何を、とは?」

「白を切るおつもりですか?」
セリカの声には、怒りよりも冷たい確信が宿っていた。
「あなたが公金を横領していた証拠、すべてここにあります。
 帳簿も、あなたに協力していた事務員の自白も。」

男爵の顔から血の気が引いていく。
「そ、そんな馬鹿な! 証拠など……!」

「ご覧になりますか?」
セリカは帳簿を開き、指で一行をなぞる。

“出金先:ウォーロック家財務補填”。

「どう説明なさるの?」

男爵はしばし口を開けたまま凍りつき、やがてしどろもどろに言い訳を始めた。
「そ、それは! たかが平民の学校に、あれほどの予算を割くなどおかしいのです!
 貴族の財を平民に使うなど、浪費も同然でしょう!」

その瞬間、セリカの瞳が鋭く光った。
「ふざけるな」

その一言で、室内の空気が一変した。
幼い少女とは思えぬ、冷厳な威圧が放たれる。

「お前のような腐った考えの貴族が、国を蝕んでいるのよ。
 平民を見下し、彼らの努力を奪い、己の腹を肥やす。
 そんな者が“貴族”を名乗る資格などあると思って?」

「……っ」

男爵は震えた。
その声には怒号でも罵倒でもない――“真の支配者の声”があった。

「お嬢様、それは……お考えが甘いのです! 平民に施すより、貴族が富を――」

「黙りなさい」

セリカの言葉が、刃のように男爵を切り裂いた。

「貴族は民の上に立つ者ではない。
 民の“上に立たされている”者よ。
 その意味も理解せず、己の地位に酔う者など、存在自体が罪です。」

男爵は唇を噛み、うなだれた。

セリカは静かに立ち上がり、机に手を置く。
「ウォーロック男爵。あなたをこの学校の役員職から解任します。
 さらに、公職からも永久追放とします。」

「なっ……!?」

「返金が不可能な場合は、王国法第七条“公金横領”に基づき、告発いたします。
 あなたの名は、これから“貴族”ではなく、“罪人”として記録されるでしょう。」

男爵の顔から完全に色が消えた。
かつての傲慢な姿はどこにもなく、
今そこに立っているのは――ただの、哀れな小男だった。

セリカは背筋を伸ばし、冷たく告げる。
「退廷なさい。
 次に顔を合わせるときがあれば、そのときは“処罰”を与えます。」

男爵は、何も言わずに頭を垂れ、よろよろと部屋を去っていった。
その足音が遠ざかるたび、セリカの心に残る怒りが、少しずつ静まっていく。


---

しばしの沈黙。

ドライドが一歩進み出て、深く頭を下げた。
「……見事な采配でした、お嬢様。」

セリカは小さく息を吐き、机の上の帳簿を閉じた。
「これで終わりじゃないわ。まだ、この不正の根はどこかに繋がっている。
 “彼”だけで動くほどの金額じゃないもの。」

「ふむ……」
ドライドは感嘆の息を漏らす。

「激情に駆られて動いておられるようで、実に冷静。
 やはり――貴方様はただの令嬢ではありませんな。」

セリカは淡く笑った。
「誉め言葉として受け取っておくわ、ドライド。
 でも、まだ満足しないで。私たちの戦いは、これからよ。」

窓の外では、夜風が庭の薔薇を揺らしていた。
冷たい月光の下、セリカの瞳はまっすぐ未来を見据えている。

(この領地を、腐敗から救う。
 平民も、貴族も――すべての人が学び、生きられる場所にするために。)

その決意は静かに、しかし確かに燃え続けていた。


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