見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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4-5 横領

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4-5 横領

数日後の放課後。
柔らかな夕陽が教室を照らす頃、セリカはカイルと並んで校門の外を歩いていた。
二人の間には、かつてのぎこちなさはもうなかった。
互いに笑い合い、時折冗談を交わす――そんな関係になっていた。

「ねえ、カイル」
セリカはふと立ち止まり、何気ない調子で尋ねた。
「この学校に、よく出入りしてる貴族っている?」

「貴族?」
カイルは目を丸くしたあと、少し考えるように首をかしげた。
「……ああ、一人だけ見たことがあるな。中年くらいで、髭があって、いつも偉そうなやつ。名前は知らねぇけど、事務所に出入りしてるのを何度か見た」

「事務所に?」
セリカの瞳がわずかに鋭く光る。

「そうだ。俺たちの学校に貴族が顔を出すなんて珍しいから、みんな不思議がってる。
 ま、俺もあいつの顔は気に入らなかったけどな」

「そう……ありがとう、カイル。助かったわ」
セリカは微笑みながら礼を言った。

だがその胸の奥では――
(やはり……何かがおかしい)
という確信が芽生えていた。


---

翌日。

セリカは放課後、静まりかえった校舎の一角――事務所の廊下に身を潜めていた。
夕日が差し込む中、廊下の向こうから、例の「髭の貴族」がゆっくりと歩いてくるのが見えた。

(やっぱり……ウォーロック男爵)

見間違えるはずがない。
王都でも評判の悪い、財務局の予算監査官だ。
通常なら年度末以外に地方学校を訪れることなどありえない。
それがこの時期に? しかも平民学校に?

ウォーロック男爵が馬車に乗り込んで去るのを見届けたあと、セリカは迷わず事務所の扉を押し開けた。

中では、髭面の事務員が帳簿を前に座っていた。
その目は油断と怠慢の色を帯び、セリカを一瞥しただけで吐き捨てるように言った。

「子供が来るところじゃねぇ。用があるなら先生を呼べ」

セリカは怯まず、まっすぐに彼を見つめた。
「さっきの貴族、あの人は誰?」

「……ここはガキの遊び場じゃねぇって言ってんだ」

「質問に答えなさい」
セリカの声には、幼いながらも一切の甘さがなかった。

事務員は眉をひそめたが、彼女の眼差しの強さに押され、しぶしぶ答えた。
「……ウォーロック男爵様だよ」

「やっぱり」
セリカの表情が一瞬、冷たく引き締まる。
「ウォーロック男爵は予算監査官のはず。年度末でもないのに、なぜこの学校に?」

事務員の顔色が変わる。
「そ、それは……子供には関係ねぇことだ!」

その瞬間、セリカの視線が机の上の“帳簿”に吸い寄せられた。
開きかけた帳簿の中、見慣れない印章と、削られたような記録跡――。

「その帳簿を見せて」

「だ、駄目だ! 関係者以外は――」

セリカは一歩前に出て、凛とした声を響かせた。
「セリカ・ディオール公爵令嬢の名において、帳簿の開示を命じます」

その一言に、事務員の動きが止まった。
「な、何だって……? お嬢、様……?」

彼の顔から血の気が引く。
その隙に、セリカは素早く机の引き出しを開け、帳簿を手に取った。
ページをめくるたび、違和感が増していく。

(やはり……予算が消えてる。給食費も備品費も、金額が合わない。
 どこへ流れたの……?)

指先が止まった。
“出金先:ウォーロック家財務補填”――。

「やっぱり、あなたたちね」

事務員が青ざめて口を開きかける。
「そ、それは……! 私は、命令に従っただけで――!」

「黙りなさい!」
セリカの声が室内に鋭く響いた。

「貴様、ウォーロックと結託して帳簿を改ざんしたな!」

「ち、違う! 私は平民で……逆らえなかったんです!」

「なら、なぜ報告しなかった?」
セリカの視線が氷のように冷たい。
「金を受け取ったのね。公金を私物化した罪は重いわ」

事務員は震える手で頭を下げた。
「ど、どうかお許しを……!」

「許す? あり得ないわ」
セリカは帳簿を手に、毅然と宣告する。
「この学校の資金は、子供たちの未来のためのもの。
 それを奪ったあなたたちは、未来そのものを盗んだのよ」

沈黙。
その場にいた全員が、幼い令嬢の放つ威圧感に息を呑んでいた。

やがて事務員は、観念したように小さく頷いた。

「……私が、ウォーロック男爵に協力しました」

「よろしい」
セリカは淡々と告げる。
「あなたは職を解かれます。そして、金額を返済できないなら、公金横領で告発します」

事務員は崩れ落ちるようにその場に膝をついた。


---

夕刻。
校舎を出たセリカは、帳簿を抱えたまま西の空を見上げた。
空の端に、薄く光る月が浮かんでいる。

「……ドライド、やっぱり私の勘は正しかった」

背後でドライドが静かに頷く。
「見事なお手並みでした、お嬢様。ですが――これで終わりではありません」

セリカは微笑み、視線を前へ向けた。
「もちろん。ウォーロック男爵を、このまま逃がすつもりはないわ」

その声は、幼い少女のものとは思えないほど、冷たく凛としていた。
平民のための学校改革――その裏に潜む闇を暴く戦いが、今、始まったのだった。


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