見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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7-2 サエの家庭環境への疑念と虐待の発覚

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7-2 サエの家庭環境への疑念と虐待の発覚

放課後の図書館。
窓の外では夕陽が沈み、赤い光が本棚の間を染めていた。
だが、その光の中でページをめくる手は、相変わらず止まらない。

――サエ。

授業が終わっても、彼女はいつも教室に残って本を読んでいた。
他の子たちが元気に外で遊ぶ中、彼女だけが静寂の世界にいる。

(どうして……いつも一人で?)

セリカは気になって仕方がなかった。
同じクラスの中で、これほど孤立しているのに、彼女は寂しそうな顔ひとつ見せない。
むしろ、“孤独を選んでいる”ようにすら見えた。


---

その日の放課後。
勇気を出して、セリカはサエの隣に腰を下ろした。

「ねぇ、サエ。」

「……あら、セリカちゃん。」

「いつも図書館で本を読んでるけど、借りて家で読まないの?」

サエは少しだけ目を瞬かせて、ほんのり笑った。
「図書館の空気が好きなの。静かで……安心するの。」

「家だと落ち着かないの?」

一瞬――サエの指先が止まった。
ページの角をつまんだまま、わずかに震える。

「……そうね。少し、ね。」

その笑顔は柔らかかった。
けれど、どこか――“演じている”ようにも見えた。

セリカはそれ以上踏み込まず、ただ静かに見守った。
けれど、サエが図書館を出る後ろ姿を見たとき、胸の中に小さな棘が刺さる。

歩幅は小さく、家に帰るのを嫌がるように、足が重い。
その肩は、夕暮れの光に沈んで見えた。


---

夜になっても、セリカの心は落ち着かなかった。
窓の外では雨が降り始めていたが、彼女は机に頬杖をつき、ぽつりと呟いた。

「……おかしい。あの子の笑顔、どこか違う。」

すぐに彼女の脳裏に浮かんだのは――
一人の頼れる存在。

「……カトレアを呼んで。」


---

応接間に入ってきたのは、いつもの“ドジっ子教師”の顔ではなく、
ディオール公爵家の騎士――カトレア・デイレイドの顔だった。

「どうされましたか、お嬢様。」

「サエのことよ。あの子、何か隠してる気がするの。
家のこと……落ち着かないって言ってたの。」

カトレアは真剣な表情に変わり、静かに頷く。
「お嬢様の直感は、よく当たりますからね。調べてまいりましょう。」

「お願い、カトレア。……嫌な予感がするの。」

「承知いたしました。」

カトレアは深く一礼し、闇夜の中へと消えていった。


---

翌朝。
セリカが朝食を取っていると、カトレアが戻ってきた。
その顔にはいつもの笑みがない。

「……お嬢様。」

「結果を聞かせて。」

「――サエが、ご家庭で虐待を受けていることが判明しました。」

静かな報告。
しかし、その言葉は雷のようにセリカの胸を打った。

「……うそ。」

「父親によるものです。
言葉の暴力だけでなく、時には手を上げられることも。
彼女が夜遅くまで学校に残っていたのは、家に帰りたくなかったからです。」

セリカの手が震えた。
小さなスプーンが皿の上でカチンと鳴る。

「……そんなの、許せない。」

拳を握りしめ、唇を噛む。
怒りが、胸の奥で燃え上がる。

「自分の子どもを傷つけて平気でいられるなんて……どうしてそんなことができるのよ!」

涙が、頬を伝った。
でもそれは悲しみの涙ではなかった。

「……助ける。私が、サエを助ける!」

「お嬢様……」

「たとえ法律に逆らってもいい!
お金でも権力でも使うわ! あんな家に戻らせない!」

セリカの瞳は炎のように輝いていた。
その決意は幼い少女のものとは思えないほど、まっすぐだった。

カトレアは静かに微笑み、敬礼した。
「……承知しました。お嬢様の命令とあらば、全力で。」


---

その夜。
雨の降りしきる中、黒い馬車が王都の裏通りを駆け抜けた。
ランプの光が雨粒を切り裂き、車輪が泥を跳ね上げる。

窓越しに外を見つめるセリカの横顔は、固い決意に満ちていた。

「待ってて、サエ。今、助けに行くから。」

その小さな呟きが、雷鳴にかき消される。
だが――その声には、確かな力が宿っていた。


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