見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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7-3 救出

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7-3 救出

夜の街は、雨を含んだ冷たい風に包まれていた。
濡れた石畳を、馬車の車輪が勢いよく走り抜ける。

セリカの瞳は、夜の闇よりも深く、そして熱く燃えていた。
隣に座るのは護衛騎士――カトレア・デイレイド。
いつもの“ドジっ子教師”の姿ではなく、鋼のような騎士の表情だった。

「この世に、子どもを傷つける親がいるなんて……!」
セリカは拳を握りしめ、震える手を見つめた。
その震えは恐怖ではない。怒りと、決意の証だった。

「絶対に……許さない。」

カトレアは静かに頷く。
「お嬢様の命令であれば、どんな障害も排除いたします。」

馬車が急停止した。
――目的地に着いたのだ。


---

家は、薄暗く、沈んだ空気を放っていた。
小さなランプの光が、歪んだ影を壁に映している。

セリカは迷うことなく馬車から降り立った。
夜風がドレスの裾を揺らし、彼女の金の髪を翻す。

「行くわ、カトレア。」

「はい。」

二人は扉の前に立つ。
カトレアが拳で力強くノックした。

「誰だ! こんな夜更けに!」

荒々しい男の声が中から響く。
だが、返事を待つ前にカトレアは一歩踏み出し、
――ドンッ!!
重い扉を蹴り破った。

「侵入だと!? 何のつもりだ!!」

ランプの光が揺れ、そこにいたのはサエの父親。
酒瓶を片手に、憤怒の表情を浮かべていた。

その背後で、小さくうずくまる影――
ボロボロの服に身を包み、膝を抱えて震える少女。
サエだった。


---

「サエ!」

セリカが叫び、駆け寄る。
サエは顔を上げる――その頬には、薄い赤い跡。

「何だお前たちは!勝手に人の家に踏み込みやがって!」

父親の怒鳴り声が響く。
しかし、セリカは一歩も引かない。
彼女の声が、鋭く夜を切り裂いた。

「この子を連れて行くわ。」

「はぁ? ふざけるな! 俺の娘だぞ!」

「“父親”を名乗る資格なんてない!」

セリカの言葉が鋭く突き刺さる。
小さな身体から放たれたその威圧に、
男は思わずたじろいだ。

「この子を苦しめて、何が親よ!」

男が反論しようと一歩踏み出す――その瞬間。

「下がりなさい。」

カトレアの冷たい声が空気を裂く。
彼女の足元から漂う殺気に、男の足が止まった。
視線を合わせた瞬間、全身が凍りつく。

「お嬢様に手を上げるような真似をすれば――
その手、二度と使えなくなりますよ。」

「……っ!」

男は声にならない呻きを漏らし、後ずさった。


---

セリカはサエの隣に膝をつく。
「大丈夫……怖くないわ。」

サエは怯えた瞳でセリカを見上げた。
その瞳は、ずっと闇に閉ざされていた。

「私があなたを守る。もう、誰にも傷つけさせない。」

セリカはそっと手を差し伸べた。
その小さな手を包み込むように握る。

一瞬の沈黙――そして、サエの震える指が、ゆっくりとセリカの手を握り返した。

その手の温もりに、サエの目からぽろりと涙がこぼれた。

「……ありがとう。」

その声は、震えていても確かに届いた。


---

セリカは立ち上がり、再び父親を見据えた。
「あなたがしたこと、必ず償わせます。
 この子に触れた罪は、決して消えないわ。」

男は何も言えず、その場で立ち尽くす。
カトレアの視線が再び向けられると、
彼の背筋がびくりと震えた。

「お嬢様に対する不敬は、次は命で償っていただきます。」

低く、冷たく――それは騎士の宣告だった。


---

外に出ると、夜風が冷たく吹き抜けた。
サエはまだ少し震えていたが、セリカの手の中で少しずつ落ち着きを取り戻していた。

「……サエ、もう安心して。」

「……でも、私……迷惑をかけたくないの。」

「迷惑なんて思わないわ。」

セリカは優しく微笑んだ。
「あなたが一人で耐えてきたことを、放っておけるわけがないもの。」

その言葉に、サエの目からまた涙がこぼれる。
それは悲しみの涙ではなかった。
救われた安堵の涙だった。


---

屋敷に戻ると、ドライドが出迎えた。
「お嬢様……ご無事で何よりです。」

「ドライド、彼女を休ませてあげて。
 今夜はもうゆっくり眠らせてあげたいの。」

「かしこまりました。」

サエは小さく会釈をし、ドライドに連れられて廊下を歩いていった。
その背中を見送りながら、セリカは小さく呟いた。

「……これからは、私の家族よ。心配しないで。
 何があっても、私があなたを守る。」


---

その夜。
セリカは眠らなかった。
机の上にランプの灯をともして、静かにノートを開く。

そこに書いた言葉は――

> 『サエのように、誰にも助けを求められない子どもを救う方法を探す』



セリカの瞳が強く光った。
「私、変えてみせる。この国の“当たり前”を。」

その声は小さくても、確かに未来へと響いていた。


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