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9-3 新たな陰謀と知恵の力
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9-3 新たな陰謀と知恵の力
ロワンスとの直接対決から数日が過ぎた。
一見すると、ディオール領には平穏が戻ったように見えた。
だが、セリカもドライドも、あの男がそう簡単に諦めるとは思っていなかった。
悪意というものは、姿を消したように見せかけて、必ずどこかで蠢いている――それを二人は知っていた。
---
ある昼下がり。
執務室で報告書に目を通していたセリカのもとに、使用人が駆け込んできた。
「お嬢様、ロワンス殿の部下と名乗る者が来ております。」
その言葉に、ドライドがすぐ反応した。
「……やはり来ましたか。」
セリカは軽く頷き、冷静に言った。
「通して。こちらから拒めば、今度は裏で動くわ。」
---
現れたのは、いかにも腹に一物ありそうな中年の男だった。
身なりは整っているが、目は笑っていない。
低姿勢を装いながら、どこか人を見下ろすような眼差しだった。
「お嬢様、ロワンス様の代わりにご挨拶に参りました。
お話だけでもお聞きいただければと。」
「ええ、構いませんわ。」
セリカは落ち着いた笑みで応じたが、その瞳には警戒の色が宿っていた。
男はにこやかに頭を下げ、机の上に数枚の書類を並べた。
「我々のご提案を、もう一度ご検討いただけませんか?
ディオール領の発展には、潤沢な資金が必要です。
お嬢様が望む“教育の拡充”にも、我々の融資があれば――
より早く夢を実現できるでしょう。」
言葉は柔らかい。
だが、その声には、鋼のような圧が混じっていた。
「……ですが、お嬢様がどうしてもご不安であれば――」
男はわざとらしく肩をすくめる。
「この資金を、他の領にお回ししても構いません。
――次にその機会が巡るのは、十年先かもしれませんが。」
明らかに、脅しだった。
---
セリカは黙って男を見つめた。
静寂が流れる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「あなたたちは、資金提供を装って、領地を飲み込もうとしているのね。」
その声には怒りよりも冷たさがあった。
男はわずかに笑みを固くした。
「お嬢様、それは誤解で――」
「誤解ではありません。」
セリカはきっぱりと言い放った。
「私はあなたたちの契約をすでに読み解きました。
どんなに巧妙に文を飾っても、“詐欺”は“詐欺”です。
あなたたちの狙いは、領地の財産と未来――違いますか?」
男は一瞬、口を開いたまま凍りついた。
その沈黙を、セリカが静かに断ち切る。
「お引き取りなさい。
このディオール領に、あなたたちのような者が足を踏み入れる余地はありません。」
---
男はしばらくセリカを睨みつけたが、やがて薄笑いを浮かべた。
「……よくわかりました。
ですがお嬢様、私どもを敵に回すのは得策とは思えませんよ。」
「脅しは不要です。私は、正しい道しか選びません。」
その凜とした言葉に、男は舌打ちを押し殺すように頭を下げ、退室した。
扉が閉まると、ドライドが小さく息をついた。
「やはり、奴らはまだ諦めていませんね。」
セリカは頷き、真剣な表情で言った。
「ええ。今の言葉……あれは“まだ終わっていない”という宣言よ。」
---
その夜、セリカはドライドと共に対策を練っていた。
地図と帳簿を広げ、領地内の金融の流れをひとつずつ確認していく。
「奴らのような業者が入り込める隙があるなら、法を整えて塞ぐしかないわ。」
「はい。領内での貸付を公的に監査できる仕組みを作りましょう。」
ドライドが即座に提案する。
「それと、今後は融資契約の承認をすべて領主府で行う。
私設金融業者には“透明化”を義務付ける。」
セリカは頷き、ペンを取った。
「ええ、それでいきましょう。ディオール領から、闇金融を根絶します。」
---
翌朝。
執務室にサエが駆け込んできた。
書類を抱えた彼女の表情には、いつもの落ち着きと、少しの緊張が混じっていた。
「お嬢様、新たな契約書が届いていました。
昨日の男が置いていったようです。」
「……また来たのね。」
セリカは書類を受け取り、さっと目を通す。
内容は、前回よりさらに巧妙になっていた。
文字の言い回しが曖昧で、罰金の仕組みが一見すると“普通の利息”に見える。
だが、サエの指がすぐにその裏を指し示した。
「ここです。金利の表現を“週ごとの再計算”にして、
支払いが遅れたとき、指数的に増えるようになっています。
つまり――一度延滞したら、抜け出せない契約です。」
セリカは目を細める。
「なるほど……悪徳というより、執念ね。」
「ですが、解析できないほど複雑ではありません。」
サエは淡々と笑った。
「仕組みを理解してしまえば、怖くない。
むしろ、これを逆手に取れば――証拠になります。」
「証拠……?」
「はい。契約の構造を解析して、彼らの違法性を法廷で証明できるはずです。」
セリカはゆっくりと微笑んだ。
「サエ、あなたは本当に頼もしいわ。
あなたの知恵こそ、この領地の盾ね。」
サエは少し照れながらも頷く。
「ディオール領の未来を守るために、学んできたんですもの。」
ドライドも満足げにうなずいた。
「サエ様のような若き知識人が育っている……。
これこそお嬢様の教育が生んだ成果ですな。」
---
セリカは書類を閉じ、椅子に背を預けた。
窓の外では、朝の光が庭の花々を照らしている。
「知恵は、剣よりも強い。
彼らが策略で来るなら、こちらは理で立ち向かうだけです。」
ドライドとサエが同時に頷く。
その瞬間、セリカの中で一つの決意が固まった。
――悪徳業者たちを根こそぎ排除し、
“学び”と“正義”で築く新しい経済の形を作る。
少女領主の戦いは、まだ終わらない。
だが、その瞳は確かに、未来を見据えていた。
-
ロワンスとの直接対決から数日が過ぎた。
一見すると、ディオール領には平穏が戻ったように見えた。
だが、セリカもドライドも、あの男がそう簡単に諦めるとは思っていなかった。
悪意というものは、姿を消したように見せかけて、必ずどこかで蠢いている――それを二人は知っていた。
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ある昼下がり。
執務室で報告書に目を通していたセリカのもとに、使用人が駆け込んできた。
「お嬢様、ロワンス殿の部下と名乗る者が来ております。」
その言葉に、ドライドがすぐ反応した。
「……やはり来ましたか。」
セリカは軽く頷き、冷静に言った。
「通して。こちらから拒めば、今度は裏で動くわ。」
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現れたのは、いかにも腹に一物ありそうな中年の男だった。
身なりは整っているが、目は笑っていない。
低姿勢を装いながら、どこか人を見下ろすような眼差しだった。
「お嬢様、ロワンス様の代わりにご挨拶に参りました。
お話だけでもお聞きいただければと。」
「ええ、構いませんわ。」
セリカは落ち着いた笑みで応じたが、その瞳には警戒の色が宿っていた。
男はにこやかに頭を下げ、机の上に数枚の書類を並べた。
「我々のご提案を、もう一度ご検討いただけませんか?
ディオール領の発展には、潤沢な資金が必要です。
お嬢様が望む“教育の拡充”にも、我々の融資があれば――
より早く夢を実現できるでしょう。」
言葉は柔らかい。
だが、その声には、鋼のような圧が混じっていた。
「……ですが、お嬢様がどうしてもご不安であれば――」
男はわざとらしく肩をすくめる。
「この資金を、他の領にお回ししても構いません。
――次にその機会が巡るのは、十年先かもしれませんが。」
明らかに、脅しだった。
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セリカは黙って男を見つめた。
静寂が流れる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「あなたたちは、資金提供を装って、領地を飲み込もうとしているのね。」
その声には怒りよりも冷たさがあった。
男はわずかに笑みを固くした。
「お嬢様、それは誤解で――」
「誤解ではありません。」
セリカはきっぱりと言い放った。
「私はあなたたちの契約をすでに読み解きました。
どんなに巧妙に文を飾っても、“詐欺”は“詐欺”です。
あなたたちの狙いは、領地の財産と未来――違いますか?」
男は一瞬、口を開いたまま凍りついた。
その沈黙を、セリカが静かに断ち切る。
「お引き取りなさい。
このディオール領に、あなたたちのような者が足を踏み入れる余地はありません。」
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男はしばらくセリカを睨みつけたが、やがて薄笑いを浮かべた。
「……よくわかりました。
ですがお嬢様、私どもを敵に回すのは得策とは思えませんよ。」
「脅しは不要です。私は、正しい道しか選びません。」
その凜とした言葉に、男は舌打ちを押し殺すように頭を下げ、退室した。
扉が閉まると、ドライドが小さく息をついた。
「やはり、奴らはまだ諦めていませんね。」
セリカは頷き、真剣な表情で言った。
「ええ。今の言葉……あれは“まだ終わっていない”という宣言よ。」
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その夜、セリカはドライドと共に対策を練っていた。
地図と帳簿を広げ、領地内の金融の流れをひとつずつ確認していく。
「奴らのような業者が入り込める隙があるなら、法を整えて塞ぐしかないわ。」
「はい。領内での貸付を公的に監査できる仕組みを作りましょう。」
ドライドが即座に提案する。
「それと、今後は融資契約の承認をすべて領主府で行う。
私設金融業者には“透明化”を義務付ける。」
セリカは頷き、ペンを取った。
「ええ、それでいきましょう。ディオール領から、闇金融を根絶します。」
---
翌朝。
執務室にサエが駆け込んできた。
書類を抱えた彼女の表情には、いつもの落ち着きと、少しの緊張が混じっていた。
「お嬢様、新たな契約書が届いていました。
昨日の男が置いていったようです。」
「……また来たのね。」
セリカは書類を受け取り、さっと目を通す。
内容は、前回よりさらに巧妙になっていた。
文字の言い回しが曖昧で、罰金の仕組みが一見すると“普通の利息”に見える。
だが、サエの指がすぐにその裏を指し示した。
「ここです。金利の表現を“週ごとの再計算”にして、
支払いが遅れたとき、指数的に増えるようになっています。
つまり――一度延滞したら、抜け出せない契約です。」
セリカは目を細める。
「なるほど……悪徳というより、執念ね。」
「ですが、解析できないほど複雑ではありません。」
サエは淡々と笑った。
「仕組みを理解してしまえば、怖くない。
むしろ、これを逆手に取れば――証拠になります。」
「証拠……?」
「はい。契約の構造を解析して、彼らの違法性を法廷で証明できるはずです。」
セリカはゆっくりと微笑んだ。
「サエ、あなたは本当に頼もしいわ。
あなたの知恵こそ、この領地の盾ね。」
サエは少し照れながらも頷く。
「ディオール領の未来を守るために、学んできたんですもの。」
ドライドも満足げにうなずいた。
「サエ様のような若き知識人が育っている……。
これこそお嬢様の教育が生んだ成果ですな。」
---
セリカは書類を閉じ、椅子に背を預けた。
窓の外では、朝の光が庭の花々を照らしている。
「知恵は、剣よりも強い。
彼らが策略で来るなら、こちらは理で立ち向かうだけです。」
ドライドとサエが同時に頷く。
その瞬間、セリカの中で一つの決意が固まった。
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