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9-2 悪徳金融業者との対峙
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9-2 悪徳金融業者との対峙
翌日。
ディオール公爵邸の応接室には、静かな緊張が漂っていた。
磨き上げられたテーブルの上には、一枚の契約書と香り高い紅茶。
外の陽光が差し込む中、セリカは落ち着いた表情で椅子に座り、来訪者を待っていた。
「お嬢様、ロワンス殿が参りました。」
執事の声にセリカは軽く頷く。
(――来たわね。昨日の“狩人”が。)
ほどなくして、黒いスーツを着たロワンスが現れた。
昨日と同じようににこやかに笑っていたが、その笑みの裏に潜む不気味な計算を、セリカは見抜いていた。
「お嬢様、お呼びいただき光栄でございます。」
ロワンスは深々と頭を下げ、すぐに契約書を広げる。
「本日こそ、この素晴らしい融資契約を正式に結ばせていただければと。」
セリカは紅茶を一口含み、ゆったりとした口調で応じた。
「その件ですが……昨日いただいた契約書に、少々気になる点がありまして。」
ロワンスの動きが一瞬だけ止まる。
だが、すぐに薄い笑みを浮かべた。
「お嬢様ほどの方が気になる点など、そうそうございませんでしょう。どの部分でございますか?」
「ここです。」
セリカは、契約書の一節を指で軽く叩いた。
「“返済遅延時に発生する追加金利および担保資産の差押え”――この条文。
こちらについて、詳しくご説明願えますか?」
ロワンスの笑顔が、わずかに引きつる。
「それは、あくまで通常の保証です。取引先が支払いに困った場合に備える、いわば保険のようなもので――」
「保険、ですか?」
セリカの声が、わずかに冷たくなった。
「しかし、この条文によれば、支払いが三か月遅れた時点で“学園および領地の資産の一部を譲渡”する義務が発生しています。
これでは、領地を守るどころか、差し出す契約です。」
「……っ!」
ロワンスの顔がわずかに引きつる。
それでも、彼はなんとか取り繕おうとした。
「お、お嬢様は誤解を――我々は決して不当なことを――」
「いいえ、誤解ではありません。」
セリカは微笑んだ。だが、その笑みには冷たい理性が宿っていた。
「私は昨夜、この契約を専門家と共に精査しました。
その結果、あなたの“融資条件”は、明らかに違法行為に該当するものだと判断しました。」
背後の扉が静かに開く。
そこには、サエとドライドが立っていた。
サエは契約書の複製を手にし、はっきりとした声で続ける。
「この契約、罰金の累積計算が巧妙に隠されてるんです。
一度支払いが遅れると、利息が毎週加算され、三か月で元金の十倍以上。
そのうえ、担保が“領内全資産”……。
完全に詐欺です。」
「な……っ!」
ロワンスは椅子から身を乗り出したが、すぐにドライドがその前に立ちはだかった。
「ロワンス殿。」
ドライドの低い声が、部屋の空気を引き締める。
「あなたの行いは、ディオール領を害する犯罪行為です。
お嬢様は、昨日からすでに領内の商務局に調査を依頼しております。
おそらく、あなたの他の契約もすでに確認されているでしょう。」
ロワンスの顔から血の気が引いた。
「な、なんだと……! まさか、あの短時間で……!」
セリカはゆっくりと立ち上がり、真っすぐロワンスを見つめた。
その瞳は、少女のものではなかった。
――領主の眼だった。
「ロワンス。あなたのような者は、民の信頼を食い物にする寄生虫です。
ディオール領では、あなたの手口は通用しません。」
その言葉に、ロワンスは笑顔を失い、舌打ちをした。
「……チッ。小娘が、貴族の名を笠に着て――!」
しかし、その瞬間、ドライドが一歩踏み出す。
「その口を慎め。貴様の発言はすべて記録されている。
このまま退去すれば、正式な裁きをもって処理されよう。
――まだ、“罪状”の追加を望むか?」
ロワンスは言葉を失い、額に冷や汗を浮かべる。
彼は乱暴に契約書を掴み、吐き捨てるように言った。
「……結構。契約は白紙に戻します。だが――この件、後悔なさらぬよう。」
セリカは落ち着いた声で応じた。
「ええ。あなたが正しく罪を償うなら、後悔する理由などありません。」
そのやりとりを最後に、ロワンスは足早に去っていった。
重く閉じられた扉の向こうで、彼の靴音が遠ざかっていく。
---
静寂が戻った応接室。
サエが安堵の息を漏らし、セリカの方を見た。
「セリカ様……本当に、あの人をやり込めちゃいましたね。」
セリカは小さく笑い、紅茶を口に含む。
「知識は力。彼のような者に奪われないためにこそ、学ぶのです。」
ドライドが深く頭を下げた。
「お嬢様のお見事な采配でした。……ただし、奴がこのまま引き下がるとは思えません。」
「ええ、わかっています。」
セリカの瞳は静かに燃えていた。
「でも大丈夫。彼が闇に逃げるなら――光で照らすだけですわ。」
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翌日。
ディオール公爵邸の応接室には、静かな緊張が漂っていた。
磨き上げられたテーブルの上には、一枚の契約書と香り高い紅茶。
外の陽光が差し込む中、セリカは落ち着いた表情で椅子に座り、来訪者を待っていた。
「お嬢様、ロワンス殿が参りました。」
執事の声にセリカは軽く頷く。
(――来たわね。昨日の“狩人”が。)
ほどなくして、黒いスーツを着たロワンスが現れた。
昨日と同じようににこやかに笑っていたが、その笑みの裏に潜む不気味な計算を、セリカは見抜いていた。
「お嬢様、お呼びいただき光栄でございます。」
ロワンスは深々と頭を下げ、すぐに契約書を広げる。
「本日こそ、この素晴らしい融資契約を正式に結ばせていただければと。」
セリカは紅茶を一口含み、ゆったりとした口調で応じた。
「その件ですが……昨日いただいた契約書に、少々気になる点がありまして。」
ロワンスの動きが一瞬だけ止まる。
だが、すぐに薄い笑みを浮かべた。
「お嬢様ほどの方が気になる点など、そうそうございませんでしょう。どの部分でございますか?」
「ここです。」
セリカは、契約書の一節を指で軽く叩いた。
「“返済遅延時に発生する追加金利および担保資産の差押え”――この条文。
こちらについて、詳しくご説明願えますか?」
ロワンスの笑顔が、わずかに引きつる。
「それは、あくまで通常の保証です。取引先が支払いに困った場合に備える、いわば保険のようなもので――」
「保険、ですか?」
セリカの声が、わずかに冷たくなった。
「しかし、この条文によれば、支払いが三か月遅れた時点で“学園および領地の資産の一部を譲渡”する義務が発生しています。
これでは、領地を守るどころか、差し出す契約です。」
「……っ!」
ロワンスの顔がわずかに引きつる。
それでも、彼はなんとか取り繕おうとした。
「お、お嬢様は誤解を――我々は決して不当なことを――」
「いいえ、誤解ではありません。」
セリカは微笑んだ。だが、その笑みには冷たい理性が宿っていた。
「私は昨夜、この契約を専門家と共に精査しました。
その結果、あなたの“融資条件”は、明らかに違法行為に該当するものだと判断しました。」
背後の扉が静かに開く。
そこには、サエとドライドが立っていた。
サエは契約書の複製を手にし、はっきりとした声で続ける。
「この契約、罰金の累積計算が巧妙に隠されてるんです。
一度支払いが遅れると、利息が毎週加算され、三か月で元金の十倍以上。
そのうえ、担保が“領内全資産”……。
完全に詐欺です。」
「な……っ!」
ロワンスは椅子から身を乗り出したが、すぐにドライドがその前に立ちはだかった。
「ロワンス殿。」
ドライドの低い声が、部屋の空気を引き締める。
「あなたの行いは、ディオール領を害する犯罪行為です。
お嬢様は、昨日からすでに領内の商務局に調査を依頼しております。
おそらく、あなたの他の契約もすでに確認されているでしょう。」
ロワンスの顔から血の気が引いた。
「な、なんだと……! まさか、あの短時間で……!」
セリカはゆっくりと立ち上がり、真っすぐロワンスを見つめた。
その瞳は、少女のものではなかった。
――領主の眼だった。
「ロワンス。あなたのような者は、民の信頼を食い物にする寄生虫です。
ディオール領では、あなたの手口は通用しません。」
その言葉に、ロワンスは笑顔を失い、舌打ちをした。
「……チッ。小娘が、貴族の名を笠に着て――!」
しかし、その瞬間、ドライドが一歩踏み出す。
「その口を慎め。貴様の発言はすべて記録されている。
このまま退去すれば、正式な裁きをもって処理されよう。
――まだ、“罪状”の追加を望むか?」
ロワンスは言葉を失い、額に冷や汗を浮かべる。
彼は乱暴に契約書を掴み、吐き捨てるように言った。
「……結構。契約は白紙に戻します。だが――この件、後悔なさらぬよう。」
セリカは落ち着いた声で応じた。
「ええ。あなたが正しく罪を償うなら、後悔する理由などありません。」
そのやりとりを最後に、ロワンスは足早に去っていった。
重く閉じられた扉の向こうで、彼の靴音が遠ざかっていく。
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静寂が戻った応接室。
サエが安堵の息を漏らし、セリカの方を見た。
「セリカ様……本当に、あの人をやり込めちゃいましたね。」
セリカは小さく笑い、紅茶を口に含む。
「知識は力。彼のような者に奪われないためにこそ、学ぶのです。」
ドライドが深く頭を下げた。
「お嬢様のお見事な采配でした。……ただし、奴がこのまま引き下がるとは思えません。」
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セリカの瞳は静かに燃えていた。
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