見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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9-1 悪徳金融業者の陰謀

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9-1 悪徳金融業者の陰謀

ディオール学園の創立から半年。
セリカが推進した教育制度は領内に根を下ろし、領地の子どもたちが学ぶ姿は今や日常の風景となっていた。
貴族も平民も同じ机を囲み、未来を語り合う――それはかつて誰も想像しなかった変化だった。

だが今、セリカの活動の舞台はすでに学園を離れ、ディオール公爵邸へと移っていた。
学園の運営が安定した今、彼女は公爵家の後継者として領地そのものの運営に関わり始めていたのだ。

今日も領主邸の執務室には、分厚い報告書と数枚の地図が広げられている。
セリカは机に肘をつき、真剣な眼差しで文書を確認していた。
傍らには補佐官ドライドと、書記として働くサエの姿がある。

「学園関連の寄付金、予想より多いですね」
サエが明るく言うと、セリカは小さく微笑んだ。
「みんなが教育の価値を理解してくれている証ね。……でも、慢心は禁物よ。」

穏やかな午後。
窓から射し込む陽光に包まれたその空間に、突然、来客を告げる声が響いた。

「お嬢様、商人のロワンス殿がお見えです。」

セリカは眉をわずかにひそめる。
「ロワンス? 聞いたことのない名前ね。……通してちょうだい。」


---

やがて、黒いスーツを着た中年の男が姿を現した。
笑顔を浮かべながらも、どこか油のようにぬめる雰囲気を纏っている。
細身の鞄を脇に抱え、ぺこりと頭を下げた。

「お嬢様にお目通りできるとは、光栄の至りでございます。」
その声には、媚びるような甘さが混じっていた。

「私はこの領内で金融業を営んでおります、ロワンスと申します。
 ディオール領の発展に微力ながらお力添えを――と参上いたしました。」

「金融業?」セリカは表情を崩さずに問い返す。
「この領内でそのような業者を見かけるのは珍しいわね。」

ロワンスは恭しくうなずいた。
「ええ、まだ新しい試みでして。ですが、領地の発展には資金の循環が不可欠。
 学園のような大事業を成功させたお嬢様には、今後も多くの資金が必要かと。」

「つまり、融資の話をしに来たのですね?」

「さすがはお嬢様、話が早い。」
ロワンスはにやりと笑い、契約書の束を取り出した。
「特別に“低金利”でお貸しします。しかも、条件は非常に柔軟。
 ご決断いただけるなら、今夜中にでも契約を。」

“今夜中に”――その言葉に、セリカの胸に嫌な予感が走る。
彼女は書類を手に取り、数枚をざっとめくった。
やけに細かい条文がずらりと並び、読むだけで息が詰まるような文面だ。

「ずいぶん複雑な契約書ですね。」
「はい、安心のための条項でございます。」
男はにこにこと笑うが、その目は笑っていなかった。

「……少し検討させてください。」
セリカは静かに言う。
ロワンスは表面上は穏やかに頭を下げ、しかしその目の奥で不快な光を宿していた。


---

その夜。
領主邸の書斎で、セリカは再び契約書を開いていた。
蝋燭の炎が書面を照らし、紙の端が微かに揺れている。

(……金利は確かに低い。けれど“延滞時の追加利息”の項目……これは?)

読み進めるほどに、胸の奥に重苦しい違和感が広がった。
セリカはペンを置き、机を指で叩いた。

「サエを呼びましょう。彼女なら、細かい数字にも強いはず。」


---

翌朝。
サエは領主邸の執務室に呼ばれ、契約書を手渡された。
「金融契約……?」
書類を数枚めくるや否や、彼女の表情が一変する。

「セリカ様、これ……完全に罠です。」

「罠?」

サエは冷静に説明を始めた。
「確かに金利は低く見えるけど、違約条項が異常に多いです。
 少しでも支払いが遅れると、罰金が十倍以上に跳ね上がる。
 しかも、“担保”の欄には――学園と領地資産が指定されてる。」

「そんな……!」
セリカは思わず立ち上がった。
その手に握られた書類が、ぱさりと机に落ちる。

「つまり、この契約を結んだ瞬間、
 ディオール領そのものが、彼のものになる危険があるということですね。」

「ええ。もしも支払ができなければ、領民の税や土地までも吸い取られる仕組みです。」

セリカの瞳に怒りが宿る。
「子ども扱いして……わたしを騙すつもりだったのね。」

彼女は深呼吸し、ドライドを呼び出した。
ほどなくして、黒衣の補佐官が現れる。
セリカは契約書を手渡し、事情を説明した。

ドライドは目を通し、わずかに唇を歪める。
「……なるほど、やはり奴です。ロワンス――この名は裏市場でも悪名高い。
 借金で人を縛り、領地ごと飲み込む。数多の家が、奴の手で没落しました。」

セリカは唇を引き結ぶ。
「放っておけば、領民が同じように被害を受けるわね。」

ドライドが深く頷く。
「はい。法の外で動く相手です。証拠を掴むまでは、安易に動くのは危険でしょう。」

「……それでも、黙って見ているわけにはいかないわ。」
セリカの声は凛としていた。
「彼が金で領地を支配しようとするなら――わたしは知恵で立ち向かう。」


---

暖炉の炎が、彼女の横顔を照らす。
かつて学園で理想を語った少女は、いまやひとりの“領主”として決断を下していた。

> 「知識は人を救う。ならば、知恵は人を守る――
 そのことを、証明してみせるわ。」



その夜、セリカ、サエ、ドライドは密かに集まり、
ロワンスの裏の資金の流れを探るための“対抗策”を練り始めた。

彼らの静かな反撃が、今まさに幕を開けようとしていた。


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