見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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9-4 悪徳業者の策謀と反撃の始まり

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9-4 悪徳業者の策謀と反撃の始まり

 それから数日が過ぎた。
 ディオール領には一見、穏やかな日常が戻っていた。商人は店を開き、農民は田畑を耕し、子どもたちの笑い声が風に混じる。

 けれど、セリカはその静けさを「嵐の前」と感じていた。
 ロワンスという男が、あれほど露骨に食い下がっていたのだ。あれで終わるはずがない。

 領主館の執務室で書類に目を通すセリカの横で、補佐官のドライドが報告を読んでいた。

「お嬢様。……やはり予想どおりです。ロワンスが、領内の商人や農民に接触しているとの報告が入りました」

 その言葉に、セリカは静かに眉を寄せた。
 思ったより早かった。

「どうやら、あの男……まだ諦めていないようですね」

「ええ。奴は金で人を動かせると信じています。領主の信頼を失墜させる――その一点に狙いを絞ったようです」

 セリカはゆっくりと息を吐き、立ち上がった。

「彼の狙いは明白ですわね。領民の信頼を揺るがせば、領政そのものが崩れる。……挑戦を受けて立ちましょう」

 そこへ、扉をノックする音。
 入ってきたのは、いつものように几帳面な身なりの少女――サエだった。

「お嬢様、失礼いたします」
「サエ、どうしたの?」

 彼女は書類の束を抱え、軽く頭を下げる。

「領内の文書を確認していたところ、新しい契約書の写しがありました。念のため確認を……と思いまして」

 セリカは受け取り、目を走らせた。
 ――やはり。違約金の文言が、以前よりもさらに巧妙に書き換えられている。

「またしても“借り手を破滅させる罠”ね……。言い回しを変えて、罠の匂いを薄めているわ」

 サエは淡々と頷き、ページをめくった。
「ええ。法の専門家でも一読では気づかない構成です。ですが、要約してみれば――返済が一日でも遅れれば、全財産の没収、ですね」

 セリカは唇を引き結び、ドライドを見た。
「奴ら、完全に私たちを試しているわね。……サエ、あなたの見抜く力があって助かったわ」

「当然の務めです。お嬢様が領地を守るために戦っておられるのですから、私も微力ながら支えたいのです」

 セリカはほほ笑んだ。
 頼もしい“知恵の剣”がそばにいる。そのことが、何よりの力になる。

 その夜、セリカは執務室に地図を広げ、ドライドと対策を練った。

「まずは噂の真偽を確かめ、それに対抗する“真実”を広めましょう」
「領民に不安が広がる前に、信頼できる者たちを集めるべきですな」

 翌日、ディオール領の商人、職人、そして村の長老たちが館に招かれた。
 重厚な会議室に入ると、皆がざわめきを止め、セリカの前に並んだ。

 彼女は立ち上がり、朗らかに、しかし芯の通った声で語りかけた。

「皆さん。私たちの領地には、平等と努力によって未来を築く力があります。けれど、それを妨げようとする者が現れました。――彼らは私たちを疑わせ、分断しようとしています」

 沈黙。だが、その沈黙は敵意ではなく、真剣な耳を傾ける静けさだった。

「私は、この領地を誰かの金儲けの道具にはさせません。皆さんが正直に働いた分だけ、正当に報われる。そんなディオール領を、私は守ります」

 その言葉に、最前列の老商人が目を潤ませながら頭を下げた。
「お嬢様……わしらは、ついていきます。誰が何を言おうと、あんたの領地は間違っちゃおらん」

 他の者たちも次々に頷き、拍手が起こった。
 会議が終わる頃には、彼らの心は完全にセリカのもとへ戻っていた。

 その後、商人たちは率先して真実を語り、村々でもセリカの言葉が広まっていった。
 ロワンスが流した「ディオール家は崩壊寸前」などという噂は、まるで朝霧のように消え去っていった。

 執務室で報告を受け取ったセリカは、安堵の笑みを浮かべた。
「ふふ……少しずつ、光が戻ってきたわね」

 ドライドは深く頷き、穏やかな声で言った。
「お嬢様の人望の勝利です。ロワンスなど、いずれ自らの悪意に飲まれるでしょう」

 セリカは静かに立ち上がり、窓の外を見つめた。
 陽光が差し込む領都の街並み。そこには、彼女が守ろうとする民の暮らしがあった。

「この戦いは、まだ始まったばかりよ。……でも、絶対に負けない」

 その瞳には、領地の未来を見据える“領主代理”としての強い意志が宿っていた。
 そしてその日、ディオール領に新たな夜明けが訪れようとしていた。


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