見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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9-5 ロワンスとの対決

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9-5 ロワンスとの対決

 数週間が経った。
 セリカの冷静な判断と領民たちの結束によって、ロワンスが撒き散らした悪意ある噂はすっかり沈静化していた。
 領内には再び穏やかな風が吹き、商人たちの笑い声が市場に戻っていた。

 ――だが、セリカは知っていた。
 あの男が、このまま引き下がるはずがないことを。

 そして、その予感は的中した。
 ある日、執務室にドライドが駆け込んできた。

「お嬢様。……ロワンスが再び来訪を求めています」

 セリカは静かに羽ペンを置き、わずかに頬を緩めた。
「やはり来たのね。では、通してちょうだい。――今度こそ、終止符を打ちます」


---

 重い扉が開き、ロワンスが姿を現した。
 以前と変わらぬ高価な服装に、いやらしい笑み。
 まるで“勝利者”のような顔だった。

「セリカ様。お久しぶりですな」
 彼はわざとらしく帽子を取ると、皮肉げな声で言葉を続けた。
「どうやら、私の忠告が少しは効いたようで。噂も落ち着きましたし……少しは反省なさったご様子で」

 セリカは穏やかな笑みを浮かべ、椅子から立ち上がった。
「あなたが広めた虚言は、領民の協力で全て訂正されました。ディオール領は、あなたのような詐欺師に揺らぐほど弱くはありません」

 その言葉に、ロワンスの眉がぴくりと動いた。
 しかし、すぐに不気味な笑みを取り戻す。

「はは……お嬢様、まだお若い。世の中というものは、綺麗事だけでは回りません。私の背後には強力な後ろ盾がいる。あなたの領地にだって、いつでも手を伸ばすことができるのですよ」

「そうですか」
 セリカは静かに一歩踏み出した。
「ならば、どうしてその“強力な後ろ盾”を連れて来なかったのです?」

 淡々とした声。だが、鋭い刃のような響きがあった。
 ロワンスは一瞬、言葉を失い、口元をひきつらせた。

 そこへ、背後のドライドがゆっくりと進み出た。
「お嬢様、準備は整っております」
 彼の目は冷静で、どこか勝者の余裕を宿していた。

 セリカはうなずき、ロワンスに視線を戻す。
「ロワンスさん。あなたがどれほど弁舌を振るおうと、もう遅いのです。――すでに、あなたの不正取引の証拠はすべて揃っています」

「な、なにを……」

 セリカは机の上に一枚の書類束を置いた。
 それは彼が他領で行ってきた違法融資と、詐欺行為の記録。
 ディオール領に潜入していた手下の証言書も添えられていた。

「あなたが領民を陥れようとしたその瞬間から、すべて監視させていただきましたの」

 ロワンスの顔から血の気が引く。
 背中に冷たい汗が流れ落ちた。

「……証拠もなしにそんなことを!」と、最後の抵抗を試みたその時――

 執務室の扉が再び開いた。
 入ってきたのは、淡い青の制服に身を包んだ若き女性。
 ディオール家の法務顧問、カトレア・ディレイドだった。

 彼女は冷たい視線をロワンスに向け、静かに言った。
「あなたの策謀はすでに全て記録済みです。――逃げ道はありません」

 ロワンスは立ち上がり、背を向けて出口へ向かおうとした。
 だが、カトレアが一歩前へ進み出て、その行く手を塞ぐ。

「立ち去ることは許されません。あなたの行為は明確な詐欺および脅迫行為。法のもとで裁かれます」

 セリカはゆっくりと歩み寄り、ロワンスを真正面から見据えた。
 その瞳には恐れも怒りもなく、ただ“正義”の光が宿っていた。

「ロワンス。あなたのような人間を放置しておけば、また誰かが傷つく。――この地では、もうあなたのやり方は通用しません」

 沈黙。
 やがて、ロワンスの肩がわずかに震えた。

「……わ、わかりました。私は手を引きます。もう、二度と関わりません……!」

 捨て台詞のような声を残し、彼は半ば逃げるように部屋を去った。
 扉が閉まる音が響き、静寂が戻る。


---

 セリカは深く息を吐き、微笑んだ。
「……終わりましたね」

 ドライドが安堵の息をつき、恭しく頭を下げた。
「お嬢様の毅然たるお姿に、誰もが心を打たれたでしょう。領民の信頼は、これでさらに強固なものになります」

 カトレアも穏やかに頷き、「お嬢様の判断が、ディオール領を救いました」と言葉を添える。

 セリカは二人に目を向け、柔らかく微笑んだ。
「いいえ。これは、皆の力です。私一人では到底できませんでした」

 窓の外では、陽光が庭園の花々を照らしていた。
 嵐のような陰謀を乗り越え、ディオール領には再び平穏が訪れる。

 そしてセリカは静かに心に誓った。
 ――この地を、決して二度と闇に染めさせはしない。

 彼女の新たな戦いは、ここから始まろうとしていた。


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