見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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10-4 商人たちと金融業者の決戦

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10-4 商人たちと金融業者の決戦

 ――決戦の日が、ついに訪れた。

 晴れ渡る空の下、街の中央商館では、まるで何事もないかのように机が並べられていた。
 金融業者たちはいつものように、金と権力の香りを漂わせ、余裕の笑みを浮かべている。
 一方、彼らの前に座る商人たちは、穏やかな表情で頭を下げながらも、内心は嵐のように燃えていた。

(セリカ様……ご命令の通り、必ず証拠を掴みます)

 商人の一人が懐に忍ばせた小型の魔録石――それはディオール邸の工房で作られた特製の録音魔具だ。
 その小さな石が、今まさに“悪”の声を刻もうとしていた。


---

「さて諸君、今日も契約の更新をしようじゃないか」

 鼻にかかった声で話すのは、金融業者のリーダー、オズワルド。
 脂ぎった髪を後ろへ撫でつけ、上等な服に金の指輪をはめた中年男だった。

「こちらが新しい契約書だ。利子率は、まあ少々上がったがね――市場の変動というやつだ」

 商人たちは、差し出された紙束を手に取り、黙って読み込む。
 文字の端には、悪意が隠されていた。
 “延滞一日につき罰金三割”“返済が滞った場合、店舗の所有権は貸主に帰属する”――。

 だが、今日は違う。
 彼らは“知らぬふりをした狩人”だった。

「……この契約書、本当に正当なものなのですか?」

 若い商人が、静かに口を開いた。
 その声は、まるで風が止まるように空気を張りつめさせた。

 オズワルドの眉がぴくりと動く。
「ほう? 今さらそんなことを聞くのかね? これがうちのルールだ。嫌なら契約しなければいいだけの話だ」

「ですが……この利子率では、働いても働いても借金が減らないのでは?」

「ははっ、商売ってのはそういうものだよ、若造。世の中は“知恵ある者”が勝つ。文句があるなら、自分で金を貸す側に回ることだな」

 ――その瞬間、魔録石が淡く光を放った。

 罠にかかった獲物が、自ら縄を締めていく音がするようだった。


---

 数時間後、契約は形式上“成立”した。
 商人たちはいつも通り頭を下げて退室するが、その表情には確かな自信が宿っていた。

「……セリカ様の作戦、成功です」
「全て録音済みです。明日、決着を」


---

 夜。
 ディオール邸の会議室に、商人たちとセリカ、ドライド、カトレアが集まった。

 机の上に並ぶのは、録音魔具と複写された契約書の束。
 セリカは一枚一枚を確認しながら、深く息をついた。

「……これだけの証拠があれば、逃げ場はないわね」

 怒りを抑えた声だった。
 だが、その瞳は冷たい光を宿していた。

「ドライド、明日の審議の準備を」
「はっ。すでに領主府へ連絡済みです。証拠はすべて正式な記録として提出可能です」

「カトレア、証言を整理して。商人たちの安全は最優先よ」
「承知しました、お嬢様。――あの男たちには、正義の報いを受けてもらいましょう」


---

 翌朝――領主邸の大広間。

 重厚な扉が開き、金融業者たちが入ってきた。
 その顔には、まだ余裕の笑みが浮かんでいる。
 自分たちが“招かれた理由”など、想像すらしていなかったのだ。

「ディオール公爵令嬢、何かご用件でも?」
 オズワルドは軽く帽子を持ち上げて、慇懃無礼に頭を下げた。

 セリカは静かに微笑み、手元の書類を机に置いた。
「ええ、少し確認したいことがございますの。あなた方の“契約”について――です」

「契約? もちろん正当な商取引ですとも。どの一点を疑われているのやら」
「では……こちらの録音をお聞きください」

 セリカが指先を軽く動かすと、魔録石が光を放ち、声が響いた。

> 『ははっ、商売ってのはそういうものだよ、若造。世の中は“知恵ある者”が勝つ――』



 その声を聞いた瞬間、オズワルドの顔色が変わった。

「なっ……!」

「続きもございますわ。“延滞罰金三割”――あなた方が明言された内容です」

 場内がざわめく。
 証人として出席していた商人たちが次々に証言を述べる。
 契約の不正、強要、脅迫の実態。
 すべてが暴かれた。

 オズワルドは必死に言い逃れを試みた。
「ち、違う! あれは誤解だ! 録音など捏造だろう!」

「では、契約書のこの部分も誤解ですか?」
 セリカが突きつけたのは、彼ら自身が署名した書類。
 筆跡、印章、日付――すべてが一致している。

 沈黙。
 やがて、オズワルドは崩れ落ちるように膝をついた。

「ま、待ってくれ……あれは……」
「弁明は後ほど伺いますわ。あなたがたは本日をもって、領内での取引を禁止します。
 違反した場合は、領法第八条――詐欺および搾取行為として処罰の対象です」

 セリカの声は冷ややかで、どこまでも透き通っていた。
 それは怒りでも憎しみでもない――“秩序を守る者”の声だった。


---

 その後、金融業者たちはすべての資産を没収され、領外追放となった。
 商人たちは歓喜の声を上げ、セリカに感謝を捧げた。

「セリカ様、あなたがいなければ、我々は今も奴らの鎖の中にいました」
「ありがとう。本当に……ありがとう」

 セリカは微笑んで首を振った。
「感謝は無用ですわ。――正義は、取り戻すためにあるものです」

 陽光が大広間に差し込み、彼女の銀髪を照らした。
 その光景は、まるで“希望”そのもののように輝いていた。


---

 そして、ディオール領は再び平穏を取り戻した。
 人々の心には、“理不尽に屈しない令嬢”の名が刻まれた。

> 「ディオールの令嬢がいる限り、この地に闇は落ちぬ」



 そう語り継がれるほどに、セリカの正義は人々の心を照らし続けた――。


---
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