見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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10-3 金融業者への反撃の準備

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10-3  金融業者への反撃の準備

 夜のディオール邸。
 ランプの炎が揺れ、重ねられた契約書の影が机の上に長く伸びていた。
 セリカは集めた契約書を一枚ずつめくりながら、眉を寄せていた。

 ――ページをめくるたびに、胸の奥に怒りが積もっていく。

 文字の並びは一見、整然としている。だが、そこに潜む罠はあまりにも悪質だった。

「彼ら……初めから奪うつもりで契約を作っているのね」

 低くつぶやくと、隣で資料を整理していたカトレアが頷いた。
「はい。契約内容を要約したところ、法的に抜け道がいくつも仕掛けられています。返済を続けても元金が減らない構造、違約金の異常な高額設定……まさに、合法という名の鎖です」

 机の向かいでドライドが資料を置き、深い溜息をついた。
「彼らは最初の取引で信頼を得た後、あえて条件を変えて不利な契約を押しつける。商人たちは“恩義”に縛られ、断れなくなるのです」

 セリカは唇を噛みしめ、目を閉じた。
 彼女の脳裏には、困り果てた商人たちの顔が浮かんでいた。
 守りたい――その思いが、怒りに火をつける。

「こんな不公平が許されるなら、正義なんて意味がないわ」

 沈黙のあと、彼女は顔を上げた。
「……なら、使わせてもらいましょう。この“罠”を、彼ら自身に返すのよ」


---

 会議室に漂う空気が、一瞬で変わった。
 ドライドが静かに頷く。
「お嬢様、彼らの契約内容をそのまま利用し、商人たちを“協力者”として潜入させるのはいかがでしょうか。あえて再契約を結ばせ、彼らに証拠を残させるのです」

 セリカは少し考え、瞳を細めた。
「……いいわ。それなら、彼らの手で自らの罪を証明させることができる」

 カトレアも冷静に続ける。
「ただし、商人たちには細心の注意が必要です。内容を理解しないまま契約すれば、彼ら自身が危険にさらされます。説明と訓練を、徹底しましょう」

 セリカは小さく微笑み、立ち上がった。
「ええ。私が直接話すわ。――商人たちに希望を取り戻してもらうために」


---

 翌日。
 ディオール邸の広間に商人たちが集められた。
 皆、緊張した面持ちでセリカを見つめている。

 セリカは壇上に立ち、ゆっくりと口を開いた。

「皆さん……あなたたちは何も悪くありません。
 悪いのは、人の誠実さを利用して利益をむさぼる者たちです」

 その声は落ち着いていて、それでいて胸を打つ強さがあった。
 商人たちの顔に、次第に安堵の色が広がっていく。

「どうか私に協力してください。
 あなたたちの力があれば、必ず奴らを追い詰められます」

 一人の商人が手を挙げた。
「ですが、お嬢様……もし失敗したら、我々が……」

 セリカはその言葉を遮り、微笑んだ。
「大丈夫。私があなたたちを守ります。――命に代えても」

 静まり返った空気の中で、その言葉は確かに響いた。
 商人たちは顔を見合わせ、やがて一人、また一人と頷く。

「わかりました。お嬢様のお言葉に従います」
「我々も、この領地のために協力いたします!」

 その瞬間、広間の空気が変わった。
 恐れではなく、信頼と決意が満ちていた。


---

 夜。
 セリカは作戦書を前に、最後の確認をしていた。
 机の上には、録音魔具と隠しカメラ用の小型魔石。
 商人たちが契約の現場で使うために用意されたものだ。

「これで、彼らの不正を証明できるわね」

 ドライドが頷き、低い声で答える。
「護衛の配置も完了しています。お嬢様の計画に沿って動けるよう、全員に指示済みです」

 カトレアも控えめに笑みを浮かべた。
「私は現場で直接監視に入ります。もし業者側が暴力的な手段に出ても、即座に制止できるように」

 セリカは二人を見回し、柔らかく頷いた。
「ありがとう、二人とも。これで完璧ね。……あとは、明日を待つだけ」

 窓の外には満月が浮かんでいた。
 その光を見つめながら、セリカは小さく呟いた。

「――この領地に、正義を取り戻す」

 彼女の決意は、夜の静寂よりも確かに燃えていた。

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