見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

文字の大きさ
47 / 108

10-4 商人たちと金融業者の決戦

しおりを挟む
10-4 商人たちと金融業者の決戦

 ――決戦の日が、ついに訪れた。

 晴れ渡る空の下、街の中央商館では、まるで何事もないかのように机が並べられていた。
 金融業者たちはいつものように、金と権力の香りを漂わせ、余裕の笑みを浮かべている。
 一方、彼らの前に座る商人たちは、穏やかな表情で頭を下げながらも、内心は嵐のように燃えていた。

(セリカ様……ご命令の通り、必ず証拠を掴みます)

 商人の一人が懐に忍ばせた小型の魔録石――それはディオール邸の工房で作られた特製の録音魔具だ。
 その小さな石が、今まさに“悪”の声を刻もうとしていた。


---

「さて諸君、今日も契約の更新をしようじゃないか」

 鼻にかかった声で話すのは、金融業者のリーダー、オズワルド。
 脂ぎった髪を後ろへ撫でつけ、上等な服に金の指輪をはめた中年男だった。

「こちらが新しい契約書だ。利子率は、まあ少々上がったがね――市場の変動というやつだ」

 商人たちは、差し出された紙束を手に取り、黙って読み込む。
 文字の端には、悪意が隠されていた。
 “延滞一日につき罰金三割”“返済が滞った場合、店舗の所有権は貸主に帰属する”――。

 だが、今日は違う。
 彼らは“知らぬふりをした狩人”だった。

「……この契約書、本当に正当なものなのですか?」

 若い商人が、静かに口を開いた。
 その声は、まるで風が止まるように空気を張りつめさせた。

 オズワルドの眉がぴくりと動く。
「ほう? 今さらそんなことを聞くのかね? これがうちのルールだ。嫌なら契約しなければいいだけの話だ」

「ですが……この利子率では、働いても働いても借金が減らないのでは?」

「ははっ、商売ってのはそういうものだよ、若造。世の中は“知恵ある者”が勝つ。文句があるなら、自分で金を貸す側に回ることだな」

 ――その瞬間、魔録石が淡く光を放った。

 罠にかかった獲物が、自ら縄を締めていく音がするようだった。


---

 数時間後、契約は形式上“成立”した。
 商人たちはいつも通り頭を下げて退室するが、その表情には確かな自信が宿っていた。

「……セリカ様の作戦、成功です」
「全て録音済みです。明日、決着を」


---

 夜。
 ディオール邸の会議室に、商人たちとセリカ、ドライド、カトレアが集まった。

 机の上に並ぶのは、録音魔具と複写された契約書の束。
 セリカは一枚一枚を確認しながら、深く息をついた。

「……これだけの証拠があれば、逃げ場はないわね」

 怒りを抑えた声だった。
 だが、その瞳は冷たい光を宿していた。

「ドライド、明日の審議の準備を」
「はっ。すでに領主府へ連絡済みです。証拠はすべて正式な記録として提出可能です」

「カトレア、証言を整理して。商人たちの安全は最優先よ」
「承知しました、お嬢様。――あの男たちには、正義の報いを受けてもらいましょう」


---

 翌朝――領主邸の大広間。

 重厚な扉が開き、金融業者たちが入ってきた。
 その顔には、まだ余裕の笑みが浮かんでいる。
 自分たちが“招かれた理由”など、想像すらしていなかったのだ。

「ディオール公爵令嬢、何かご用件でも?」
 オズワルドは軽く帽子を持ち上げて、慇懃無礼に頭を下げた。

 セリカは静かに微笑み、手元の書類を机に置いた。
「ええ、少し確認したいことがございますの。あなた方の“契約”について――です」

「契約? もちろん正当な商取引ですとも。どの一点を疑われているのやら」
「では……こちらの録音をお聞きください」

 セリカが指先を軽く動かすと、魔録石が光を放ち、声が響いた。

> 『ははっ、商売ってのはそういうものだよ、若造。世の中は“知恵ある者”が勝つ――』



 その声を聞いた瞬間、オズワルドの顔色が変わった。

「なっ……!」

「続きもございますわ。“延滞罰金三割”――あなた方が明言された内容です」

 場内がざわめく。
 証人として出席していた商人たちが次々に証言を述べる。
 契約の不正、強要、脅迫の実態。
 すべてが暴かれた。

 オズワルドは必死に言い逃れを試みた。
「ち、違う! あれは誤解だ! 録音など捏造だろう!」

「では、契約書のこの部分も誤解ですか?」
 セリカが突きつけたのは、彼ら自身が署名した書類。
 筆跡、印章、日付――すべてが一致している。

 沈黙。
 やがて、オズワルドは崩れ落ちるように膝をついた。

「ま、待ってくれ……あれは……」
「弁明は後ほど伺いますわ。あなたがたは本日をもって、領内での取引を禁止します。
 違反した場合は、領法第八条――詐欺および搾取行為として処罰の対象です」

 セリカの声は冷ややかで、どこまでも透き通っていた。
 それは怒りでも憎しみでもない――“秩序を守る者”の声だった。


---

 その後、金融業者たちはすべての資産を没収され、領外追放となった。
 商人たちは歓喜の声を上げ、セリカに感謝を捧げた。

「セリカ様、あなたがいなければ、我々は今も奴らの鎖の中にいました」
「ありがとう。本当に……ありがとう」

 セリカは微笑んで首を振った。
「感謝は無用ですわ。――正義は、取り戻すためにあるものです」

 陽光が大広間に差し込み、彼女の銀髪を照らした。
 その光景は、まるで“希望”そのもののように輝いていた。


---

 そして、ディオール領は再び平穏を取り戻した。
 人々の心には、“理不尽に屈しない令嬢”の名が刻まれた。

> 「ディオールの令嬢がいる限り、この地に闇は落ちぬ」



 そう語り継がれるほどに、セリカの正義は人々の心を照らし続けた――。


---
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

婚約破棄されたので辺境伯令嬢は自由に生きます~冷酷公爵の過保護が過ぎて困ります!~

sika
恋愛
「君のような女と婚約していたなど、恥だ!」 公爵嫡男に突然婚約を破棄された辺境伯令嬢リーゼは、すべてを捨てて故郷の領地へ戻る決意をした。 誰にも期待せず、ひっそりと生きようとするリーゼの前に現れたのは、冷酷と噂される隣国の公爵・アルヴィン。 彼はなぜかリーゼにだけ穏やかで優しく、彼女を守ることに執着していて――。 「君はもう誰にも踏みにじられない。俺が保証しよう」 呪いのような過去を断ち切り、真実の愛を掴むざまぁ×溺愛ラブストーリー!

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

処理中です...