見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

文字の大きさ
49 / 108

10-6 破滅への道 ― 悪徳金融業者の終焉

しおりを挟む
10-6 破滅への道 ― 悪徳金融業者の終焉

 ――ついに、その日が訪れた。

 ディオール領を揺るがせた悪徳金融業者たちの罪が、白日の下に晒される日。
 会場には領民、商人、農民、そして有力者たちが一堂に集まっていた。
 その中央に立つのは、領主代理セリカ・ディオール。
 凛とした立ち姿に、誰もが息を呑む。

「皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 セリカの声は、穏やかでありながらも、不思議と誰の耳にも鮮明に届いた。
 その一言で、ざわめきが静まり返る。

「今回、私たちの領で起きた不当な取引と搾取の実態を明らかにし、二度と同じ過ちを繰り返さないための場を設けました」

 その瞳には、冷たい怒りと、温かな正義の光が宿っていた。


---

 壇上の机に、証拠の山が積まれている。
 セリカは一枚の契約書を手に取り、高く掲げた。

「これは、彼らが農民や商人に無理やり結ばせた契約書です。
 一見、整った取引のように見えますが――ここに記された“利子率”を見てください。毎月の返済額が、借り入れの三倍。返済が一日でも遅れれば、担保の家も畑も没収される」

 会場から、驚きと怒りの声が上がった。

「こんな契約が……!」
「人の弱みに付け込んで……!」

 セリカは静かにうなずく。
「ええ、彼らは人の誠実さと恐怖心を利用していました。利益を得るために、人の生活を犠牲にしたのです」

 机の端に座る悪徳金融業者たちの顔がみるみる青ざめていく。
 それでも、リーダー格の男――オズワルドだけは、なおも虚勢を張っていた。

「……そ、そうだとしても!」
 彼は椅子を軋ませて立ち上がった。
「我々も商人です! 利益を得るのは当然だ! 取引とはそういうものだろう!」

 だが、セリカは微笑みながら言葉を返した。

「利益を得ること自体は悪ではありません。
 ですが――“他人の絶望”の上に成り立つ利益は、商売ではなく、ただの略奪です」

 その言葉は、氷のように冷たく、しかし鋭い正義の刃のように突き刺さった。


---

 セリカはカトレアに合図を送る。
 次の瞬間、魔法録音具《マギア・コーダー》が起動し、淡い光と共に音声が再生された。

> 『返済が遅れたら、担保は全部もらう。それが契約だ』
『ははっ、これでも前より優しい条件なんだぜ?』



 会場の空気が凍りついた。
 それは、オズワルドたち自身の声だった。

「な、なぜそれを……!?」

「あなたたちが領外で再び不当契約を行っていた証拠です」
 セリカは淡々と告げた。
「あなたたちの“口”が、自らの罪を証明しました」

 オズワルドたちは顔面蒼白となり、次々に弁解を始めた。
「誤解だ! 脅したつもりは――」
「領民が勝手に勘違いを――!」

 だが、セリカは首を横に振る。
「いいえ。ここにいる皆さんが証人です」

 商人たち、農民たち、かつての被害者たちが立ち上がった。
 「俺の家を奪ったのはあんたらだ!」
 「うちの子供は、あんたらのせいで飢えたんだ!」

 怒りと涙の声が会場に響く。
 その中で、セリカだけが静かに立っていた。


---

 やがて、彼女は宣告を下した。

「――オズワルド一派に告ぐ。
 あなたたちはディオール領法第八条、詐欺および搾取行為により、有罪と認めます。
 本日をもって、商業権の剥奪および領外追放とします」

 広間に、沈黙が落ちた。
 やがて、それが波紋のように広がり、拍手と歓声へと変わっていく。

「セリカ様、万歳!」
「ディオール家に栄光あれ!」

 人々の声が一斉に響く中、オズワルドたちは護衛に囲まれ、連行されていった。
 彼らが二度とこの地に戻ることはなかった。


---

 その夜。
 邸宅の執務室で、セリカは窓辺に立ち、月を見上げていた。

「終わったわね……」

 ドライドが穏やかにうなずく。
「はい。これで領内は本当の意味で救われました。お嬢様のご英断です」

 セリカは小さく微笑んだ。
「私一人の力じゃないわ。商人たち、農民たち、皆が勇気を出してくれたおかげ」

「しかし、お嬢様の導きがなければ、この結末はなかったでしょう」

「……そうかもしれないわね。でも、これからも油断はできない。
 正義を守るには、戦い続けなければならないもの」

 窓の外では、夜風が静かに吹き抜けていた。
 ディオール領は今、確かに新しい時代を迎えようとしていた。


---

 翌朝、領内ではセリカの名を称える声があちこちで上がった。
 「ディオールの令嬢こそ、真の守り神だ」
 「彼女がいる限り、この領に闇は訪れない」

 そして、セリカ自身は静かに胸の内で呟いた。

> 「――正義とは、ただ罰することではない。
  人を導き、立ち上がらせる力のことよ」



 その言葉とともに、朝の光が差し込み、彼女の金の髪を照らした。
 それはまるで、夜明けとともに訪れる希望の光のようだった。


---
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ

鷹 綾
恋愛
婚約破棄されたその日、私は“追放令”も同時に宣告された。 王太子エドモンド殿下曰く、 「君のように冷たい女はいらない。真実の愛は聖女ローザだ」──と。 ……それなら結構ですわ。 捨ててくださって、ありがとうございます。 行く宛もなく王都を去った私を拾ったのは、 冷徹と噂される若き宰相代理アレクシス様。 「俺と“白い結婚”をしないか。  互いの自由を侵さない、契約だけの結婚だ」 恋愛感情は一切なし。 ――そんなはずだったのに。 料理を褒めてくれる優しい声。 仕事帰りにかけてくれる「ただいま」。 私の手をそっと包む温もり。 気づけば、契約のはずの彼との距離が、少しずつ近づいていく。 そんな折──王太子と偽聖女ローザが私を“罪人”に仕立て上げ、 祝福の儀の場で公開断罪しようと企む。 「セレナに触れるな。……彼女は、俺の妻だ」 アレクシス様が壇上で剣を抜いた瞬間、 私の世界は大きく動き出した。 偽りの聖女は暴かれ、王太子は没落。 追放された令嬢の“ざまぁ”が王都を駆け巡る中、 契約で始まった白い結婚は――本物の夫婦の誓いへと変わっていく。 これは、 捨てられた令嬢が“本当の幸せ”をつかみ取る、 大逆転のラブストーリー。 ---

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。 実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。 どうして貴方まで同じ世界に転生してるの? しかも王子ってどういうこと!? お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで! その愛はお断りしますから! ※更新が不定期です。 ※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。 ※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト オレスト国の第一王女として生まれた。 王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国 政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。 見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...