58 / 108
13-2 アコード王子の反省と決意の新たな道
しおりを挟む
13-2 アコード王子の反省と決意の新たな道
ディオール領での視察を終え、王都へ戻る馬車の中。
アコード王子は窓の外に流れる風景をぼんやりと眺めながら、深く息を吐いた。
心はずっしりと重く、胸の奥には言葉にできない痛みがあった。
セリカ――かつて自分が婚約を破棄した少女。
その小さな背中が、今では領地を導く存在にまで成長している。
豊かな土地、笑顔を取り戻した民、そして誰よりも未来を見据えたまなざし。
あの少女が、これほどの力を秘めていたとは……。
「なぜ、私は――彼女の価値を見誤ったのだろう」
静まり返った馬車の中、王子の独り言が落ちる。
答えは分かっていた。
若さと驕り。
立場に甘え、人を見る目を持たなかった愚かさ。
セリカの努力も、志も、あの頃の自分には見えなかった。
いや、見ようともしなかったのだ。
「……あの幼い少女が、ここまでの人物になるなんて」
そう呟いたあと、自ら苦笑する。
それは、ただの言い訳だ。
誰が想像できたかではなく――自分が“見ようとしなかった”のだ。
思い出す。
婚約破棄の夜、あの舞踏会でセリカが放った言葉。
> 「ですぐに結婚というわけではありませんし、とりあえず“キープ”でもよろしかったのでは?
> 大人になって、私が期待にそぐわない成長をした時に捨てる、という選択肢もありましたでしょう?」
あの時の彼女は、皮肉を口にしながらも決して取り乱さなかった。
涙ひとつ見せず、淡々と自分の立場を理解し、未来を見据えていた。
――それこそが、幼さを装いながらも本質を見抜く才。
なのに、自分は「子どもの戯言」だと笑い飛ばした。
彼女が放った言葉の意味を、ひとつも理解しなかった。
「……全くだ。なぜ、あの時の俺は――」
拳を膝の上で握りしめる。
あの瞬間、自分は“王族”という立場に胡坐をかいていた。
自分に頭を下げる人間ばかりの世界で、真正面から意見を言う少女にどう接していいかも分からなかった。
そして、理解できないものを“未熟”と切り捨てた。
今思えば、それはただの臆病だ。
◇
王都に戻ったその夜、アコード王子は眠れなかった。
窓辺に立ち、月を見上げながら、胸の中で何度も言葉を反芻する。
「――このままでは、彼女の隣に立つ資格などない」
彼女にふさわしい人間になるには、ただ後悔するだけでは足りない。
自ら変わらなければならない。
王族として、いや、一人の人間として。
翌朝。
王子は信頼する友、ルーカスを呼び出した。
「ルーカス、私は変わりたい」
「変わりたい、ですか?」
「セリカが示した理想を見た。あれを支えたのは、努力と信念だ。
彼女は、誰の後ろにも隠れず、未来を自分の手で掴んだ。
だが私は……王家の庇護のもとで、何もせずにいた」
その言葉に、ルーカスは静かにうなずいた。
「殿下、過去を悔いるだけでは意味がありません。
セリカ様は今でも前を向いておられる。
ならば、殿下もまた“次の道”を歩むべきです」
王子は小さく笑った。
「……その通りだな。私は、国を導く者として恥ずべきだった。
だがこれからは違う。
ディオール領の成功を模範に、リュミエール王国を内側から強くする」
彼の声には、もう迷いはなかった。
「教育を改革し、地方の産業を興し、民に希望を――。
彼女の力を頼るのではなく、彼女と肩を並べる存在になる」
ルーカスは微笑んだ。
「それが殿下の決意なら、私は全力でお仕えします」
「ありがとう、ルーカス。……私は、もう“後悔”ではなく“行動”で語る」
王子の瞳に、燃えるような光が宿っていた。
◇
執務室に戻ったアコード王子は、机の上の地図を広げた。
王都から広がる街道、地方の村々、未開発の鉱山――。
すべての点を線でつなぎ、ひとつの理想を描く。
「セリカが導いた民は、未来を信じていた。
私も、彼女に恥じぬ王国を築こう」
その手が自然と震える。
不安ではなく、昂ぶり。
それは、初めて“王”としての自覚を掴んだ瞬間だった。
「私は、あの少女に教えられたのだ――
“王の価値”は血ではなく、どれだけ民に向き合えるかで決まる、と」
窓の外では、春の風が吹き抜けた。
柔らかな光が差し込む中で、王子はペンを取り、決意を新たにする。
――この国を、誇れる場所に変えてみせる。
かつて彼女に見限られたあの日の少年は、もういない。
代わりに立ち上がったのは、過去と向き合い、前へ進もうとするひとりの王だった。
「セリカ。次に会う時こそ、胸を張って言おう。
“君にふさわしい王になった”と――」
その言葉を、誰に聞かせるでもなく呟く。
けれど確かに、それは王国の未来を照らす“第一歩”だった。
-
ディオール領での視察を終え、王都へ戻る馬車の中。
アコード王子は窓の外に流れる風景をぼんやりと眺めながら、深く息を吐いた。
心はずっしりと重く、胸の奥には言葉にできない痛みがあった。
セリカ――かつて自分が婚約を破棄した少女。
その小さな背中が、今では領地を導く存在にまで成長している。
豊かな土地、笑顔を取り戻した民、そして誰よりも未来を見据えたまなざし。
あの少女が、これほどの力を秘めていたとは……。
「なぜ、私は――彼女の価値を見誤ったのだろう」
静まり返った馬車の中、王子の独り言が落ちる。
答えは分かっていた。
若さと驕り。
立場に甘え、人を見る目を持たなかった愚かさ。
セリカの努力も、志も、あの頃の自分には見えなかった。
いや、見ようともしなかったのだ。
「……あの幼い少女が、ここまでの人物になるなんて」
そう呟いたあと、自ら苦笑する。
それは、ただの言い訳だ。
誰が想像できたかではなく――自分が“見ようとしなかった”のだ。
思い出す。
婚約破棄の夜、あの舞踏会でセリカが放った言葉。
> 「ですぐに結婚というわけではありませんし、とりあえず“キープ”でもよろしかったのでは?
> 大人になって、私が期待にそぐわない成長をした時に捨てる、という選択肢もありましたでしょう?」
あの時の彼女は、皮肉を口にしながらも決して取り乱さなかった。
涙ひとつ見せず、淡々と自分の立場を理解し、未来を見据えていた。
――それこそが、幼さを装いながらも本質を見抜く才。
なのに、自分は「子どもの戯言」だと笑い飛ばした。
彼女が放った言葉の意味を、ひとつも理解しなかった。
「……全くだ。なぜ、あの時の俺は――」
拳を膝の上で握りしめる。
あの瞬間、自分は“王族”という立場に胡坐をかいていた。
自分に頭を下げる人間ばかりの世界で、真正面から意見を言う少女にどう接していいかも分からなかった。
そして、理解できないものを“未熟”と切り捨てた。
今思えば、それはただの臆病だ。
◇
王都に戻ったその夜、アコード王子は眠れなかった。
窓辺に立ち、月を見上げながら、胸の中で何度も言葉を反芻する。
「――このままでは、彼女の隣に立つ資格などない」
彼女にふさわしい人間になるには、ただ後悔するだけでは足りない。
自ら変わらなければならない。
王族として、いや、一人の人間として。
翌朝。
王子は信頼する友、ルーカスを呼び出した。
「ルーカス、私は変わりたい」
「変わりたい、ですか?」
「セリカが示した理想を見た。あれを支えたのは、努力と信念だ。
彼女は、誰の後ろにも隠れず、未来を自分の手で掴んだ。
だが私は……王家の庇護のもとで、何もせずにいた」
その言葉に、ルーカスは静かにうなずいた。
「殿下、過去を悔いるだけでは意味がありません。
セリカ様は今でも前を向いておられる。
ならば、殿下もまた“次の道”を歩むべきです」
王子は小さく笑った。
「……その通りだな。私は、国を導く者として恥ずべきだった。
だがこれからは違う。
ディオール領の成功を模範に、リュミエール王国を内側から強くする」
彼の声には、もう迷いはなかった。
「教育を改革し、地方の産業を興し、民に希望を――。
彼女の力を頼るのではなく、彼女と肩を並べる存在になる」
ルーカスは微笑んだ。
「それが殿下の決意なら、私は全力でお仕えします」
「ありがとう、ルーカス。……私は、もう“後悔”ではなく“行動”で語る」
王子の瞳に、燃えるような光が宿っていた。
◇
執務室に戻ったアコード王子は、机の上の地図を広げた。
王都から広がる街道、地方の村々、未開発の鉱山――。
すべての点を線でつなぎ、ひとつの理想を描く。
「セリカが導いた民は、未来を信じていた。
私も、彼女に恥じぬ王国を築こう」
その手が自然と震える。
不安ではなく、昂ぶり。
それは、初めて“王”としての自覚を掴んだ瞬間だった。
「私は、あの少女に教えられたのだ――
“王の価値”は血ではなく、どれだけ民に向き合えるかで決まる、と」
窓の外では、春の風が吹き抜けた。
柔らかな光が差し込む中で、王子はペンを取り、決意を新たにする。
――この国を、誇れる場所に変えてみせる。
かつて彼女に見限られたあの日の少年は、もういない。
代わりに立ち上がったのは、過去と向き合い、前へ進もうとするひとりの王だった。
「セリカ。次に会う時こそ、胸を張って言おう。
“君にふさわしい王になった”と――」
その言葉を、誰に聞かせるでもなく呟く。
けれど確かに、それは王国の未来を照らす“第一歩”だった。
-
60
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ
鷹 綾
恋愛
婚約破棄されたその日、私は“追放令”も同時に宣告された。
王太子エドモンド殿下曰く、
「君のように冷たい女はいらない。真実の愛は聖女ローザだ」──と。
……それなら結構ですわ。
捨ててくださって、ありがとうございます。
行く宛もなく王都を去った私を拾ったのは、
冷徹と噂される若き宰相代理アレクシス様。
「俺と“白い結婚”をしないか。
互いの自由を侵さない、契約だけの結婚だ」
恋愛感情は一切なし。
――そんなはずだったのに。
料理を褒めてくれる優しい声。
仕事帰りにかけてくれる「ただいま」。
私の手をそっと包む温もり。
気づけば、契約のはずの彼との距離が、少しずつ近づいていく。
そんな折──王太子と偽聖女ローザが私を“罪人”に仕立て上げ、
祝福の儀の場で公開断罪しようと企む。
「セレナに触れるな。……彼女は、俺の妻だ」
アレクシス様が壇上で剣を抜いた瞬間、
私の世界は大きく動き出した。
偽りの聖女は暴かれ、王太子は没落。
追放された令嬢の“ざまぁ”が王都を駆け巡る中、
契約で始まった白い結婚は――本物の夫婦の誓いへと変わっていく。
これは、
捨てられた令嬢が“本当の幸せ”をつかみ取る、
大逆転のラブストーリー。
---
悪役だから仕方がないなんて言わせない!
音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト
オレスト国の第一王女として生まれた。
王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国
政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。
見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。
buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ?
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる