見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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14-3 大量の婚約希望者の殺到

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14-3 大量の婚約希望者の殺到

 ――リュミエール王国が、少しだけ静かでいられた時代はもう終わった。

 ディオール公爵家が発表した、前代未聞の一言。

 > 「我が娘セリカには、いずれ婿を取らせる。」

 その瞬間、王国中の貴族社会が爆発した。
 手紙、使者、贈り物、縁談書類――朝から晩まで、公爵邸の玄関が埋まるほどの勢いで押し寄せてきたのだ。

 「公爵様、こちら!婚約希望書、今日だけで百二十件です!」
 「昨日の倍ではないか!? 一体いつ終わるんだこれは!」

 補佐官のドライドは、もう半ば悲鳴だった。
 机の上には、申請書の山、山、山――。
 まるで小さな紙の城が建設されているようだ。

 「隣国の侯爵家からの申し出も届いております」
 「その下の束は?」
 「……庶民出身の冒険者ギルド長だそうです。“地位と身分は後からつけます”と。」

 「……無理だ。」

 公爵は、思わず頭を抱えた。
 まさか四歳の娘にここまでの人気が出るとは――いや、人気というより、もはや“国家規模の求婚騒動”である。

 「セリカにふさわしい婿は……どこにいるんだ。」
 「むしろ、この中にいない可能性の方が高いかと。」
 「だろうな……。」

 ドライドの苦笑に、公爵も深いため息をつく。

 ◇

 その夜、夕食の席で。
 食卓には、いつものように香ばしいロースト肉とポタージュ。
 だが話題は、胃もたれするほど“重い”。

 「お父様。」

 スプーンを置いたセリカが、真剣な顔で口を開いた。
 小さな体で椅子にちょこんと座り、しかしその瞳は年齢を超えた知性を湛えている。

 「最近、婚約希望者が多すぎる気がします。」

 「……だな。」
 苦笑する公爵の横で、ドライドが無言で頷く。
 今日も届いた求婚書類は三百通を超えていた。

 「お父様、これはもう異常事態です。何かおかしいです。」
 「まあ……確かに、通常の四歳児に対しては聞いたことがないな。」

 「ですよね? もしかしてこの国、ロリコンしかいないんですか?」

 ブフォッ!!

 ドライドが飲んでいたスープを盛大に噴き出した。
 公爵も思わず咳き込みながら、慌ててハンカチで口を拭う。

 「セリカ! その言葉はどこで覚えた!?」
 「リリア(侍女)が言ってました。“世の中には小さい子が好きな変な人が多いから気をつけて”って。」

 「……あいつめ……!」
 公爵はこめかみを押さえた。
 ドライドは泣き笑いのような顔をしている。

 「と、とにかくだな、セリカ。君の人気は才能の証だ。
  皆、君の未来に賭けているのだよ。」

 「未来に賭けるって言っても、私、まだ身長100センチもないんですけど?」
 「そ、そういう意味ではない……!」

 公爵の声が上ずる。
 しかしセリカは、すっかり冷静に戻っていた。

 「お父様。私、自分の未来は自分で決めたいです。」

 その瞳の奥に宿る光は、幼さの中に確かな強さを秘めていた。
 それは、彼女が本気でこの領地の未来を背負おうとしている証だった。

 「……わかった。父として、領主として、君の意志を尊重しよう。」

 公爵の言葉に、セリカは静かに微笑んだ。

 「ありがとう、お父様。でも、婚約話はもう少し“静か”にお願いします。
  このままだと、書類の山でディオール邸が埋まりますわ。」

 「……気をつけよう。」

 ◇

 翌朝。
 ドライドがまた山のような封筒を抱えて広間に現れた。

 「……本日も、新たに百五十件の申請が届いております。」
 「……減っていないな。」
 「むしろ増えております。」

 「……セリカに言え。“静か”には無理だと。」

 公爵は顔を覆いながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。
 この混乱の中心にいる少女こそ、未来を変える存在――。
 誰よりも、彼がそれを理解していた。


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