見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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25-3 誰が国王ですか?

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25-3 誰が国王ですか?

朝の光が差し込む王妃の私室。
鏡の前に立ったセリカは、自分の姿を見て思わず息をのんだ。

「……だれ、これ?」

鏡に映るのは、まだ5歳の幼女のはずなのに――
目の下にはうっすらと隈、頬は少しやつれ、表情は大人びてさえ見えた。

(これが……私の望んだ未来?)

その問いは胸に刺さるように重かった。
だがセリカはすぐに顔を上げ、深呼吸をした。

「……行かなきゃ。」

今日も彼女を待つのは、執務室の「書類の山」だ。


---

◆国の中心にいるのは王妃(5歳)だった。

執務室には、机を覆い尽くすほどの文書が積み重ねられている。

税収報告。
隣国から届いた外交文書。
地方領主からの訴え。
軍備改善案。
貴族の内紛調停。

そのすべてが――

「王妃セリカ様のご判断を!」

と差し出される。

(……あの、私、まだ幼稚園にも行ってませんけど!?)

書類に署名しながら、セリカは何度も心の中で突っ込んだ。

ディオール領での統治経験があったからこそ対応はできる。
だが、その規模は何十倍にも膨れ上がっていた。

(これ……人間が一人でやる仕事じゃないよ……)

肩は痛いし、目はショボショボする。
机に小さな身体を乗り出しながら、セリカは必死で国を支えていた。


---

◆夜、更けて。ついに涙がこぼれた。

その夜。
誰もいない執務室。
ペンを握ったまま、セリカはふと手を止めた。

――ぽとり。

一滴、涙が落ちる。

(私……間違ってたのかな……?)

「自由にやれる」と言われて嫁いだのに。

自由どころか、国の全部を抱え込まされている。

「私は……ここに来るべきじゃなかった……?」

胸が痛い。
苦しい。
狭い肩に背負わせられた重責が、幼い心を押しつぶしていく。


---

◆ひとすじの光――侍女リリー

その時。

「……セリカ様?」

静かな声が、涙の落ちる音をかき消すように響いた。

侍女リリーがそっと部屋に入り、セリカの横に跪いた。

「どうか、お顔を上げてくださいませ」

セリカは慌てて涙を拭った。

「あ……大丈夫よ。仕事が少し、大変なだけ……」

だが、リリーは首を横に振る。

「嘘は……だめですよ」

その瞬間――
氷のように固まっていたセリカの胸が、ふっと温かく溶けた。

誰も聞いてくれなかった弱音。
誰も見てくれなかった苦しみ。

たった一人、リリーだけが、気づいた。

セリカは小さな声で、絞り出すように言った。

「……すごく重いの。
 国のすべてを……私一人で支えてるみたいで……
 陛下は……なにもしてくれないの……」

リリーはそっとセリカの手を握った。

「セリカ様は……本当によく頑張っておられます。
 まだ幼いお身体で、誰よりも国のために働いている。
 その強さを、私はいつも尊敬しています」

その言葉は、疲れ切った心に染み込むように優しかった。

「でも……つらい時は……どうか、誰かに頼ってください。
 王妃様は、一人ではありません」

セリカのまつげが再び震え、涙がこぼれた。

(……ありがとう。ありがとう、リリー……)

リリーの言葉は、暗闇に灯る小さな光のようだった。


---

◆翌朝、少女は再び立ち上がる

翌朝。
セリカの机の上には、いつも通り山のような書類が積まれていた。

でも――

(まだ……やれる)

昨日より肩は軽かった。

孤独ではないと知るだけで、人はこんなにも強くなれるのだ。

そして、この日を境に宮廷内ではひそかに噂が広まる。

> 「レクサス王国の実質的な統治者は……もう陛下ではない」
「王妃様こそ、真の王では……?」



その声はやがて、国中へと広がっていくのであった。


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