103 / 108
25-3 誰が国王ですか?
しおりを挟む
25-3 誰が国王ですか?
朝の光が差し込む王妃の私室。
鏡の前に立ったセリカは、自分の姿を見て思わず息をのんだ。
「……だれ、これ?」
鏡に映るのは、まだ5歳の幼女のはずなのに――
目の下にはうっすらと隈、頬は少しやつれ、表情は大人びてさえ見えた。
(これが……私の望んだ未来?)
その問いは胸に刺さるように重かった。
だがセリカはすぐに顔を上げ、深呼吸をした。
「……行かなきゃ。」
今日も彼女を待つのは、執務室の「書類の山」だ。
---
◆国の中心にいるのは王妃(5歳)だった。
執務室には、机を覆い尽くすほどの文書が積み重ねられている。
税収報告。
隣国から届いた外交文書。
地方領主からの訴え。
軍備改善案。
貴族の内紛調停。
そのすべてが――
「王妃セリカ様のご判断を!」
と差し出される。
(……あの、私、まだ幼稚園にも行ってませんけど!?)
書類に署名しながら、セリカは何度も心の中で突っ込んだ。
ディオール領での統治経験があったからこそ対応はできる。
だが、その規模は何十倍にも膨れ上がっていた。
(これ……人間が一人でやる仕事じゃないよ……)
肩は痛いし、目はショボショボする。
机に小さな身体を乗り出しながら、セリカは必死で国を支えていた。
---
◆夜、更けて。ついに涙がこぼれた。
その夜。
誰もいない執務室。
ペンを握ったまま、セリカはふと手を止めた。
――ぽとり。
一滴、涙が落ちる。
(私……間違ってたのかな……?)
「自由にやれる」と言われて嫁いだのに。
自由どころか、国の全部を抱え込まされている。
「私は……ここに来るべきじゃなかった……?」
胸が痛い。
苦しい。
狭い肩に背負わせられた重責が、幼い心を押しつぶしていく。
---
◆ひとすじの光――侍女リリー
その時。
「……セリカ様?」
静かな声が、涙の落ちる音をかき消すように響いた。
侍女リリーがそっと部屋に入り、セリカの横に跪いた。
「どうか、お顔を上げてくださいませ」
セリカは慌てて涙を拭った。
「あ……大丈夫よ。仕事が少し、大変なだけ……」
だが、リリーは首を横に振る。
「嘘は……だめですよ」
その瞬間――
氷のように固まっていたセリカの胸が、ふっと温かく溶けた。
誰も聞いてくれなかった弱音。
誰も見てくれなかった苦しみ。
たった一人、リリーだけが、気づいた。
セリカは小さな声で、絞り出すように言った。
「……すごく重いの。
国のすべてを……私一人で支えてるみたいで……
陛下は……なにもしてくれないの……」
リリーはそっとセリカの手を握った。
「セリカ様は……本当によく頑張っておられます。
まだ幼いお身体で、誰よりも国のために働いている。
その強さを、私はいつも尊敬しています」
その言葉は、疲れ切った心に染み込むように優しかった。
「でも……つらい時は……どうか、誰かに頼ってください。
王妃様は、一人ではありません」
セリカのまつげが再び震え、涙がこぼれた。
(……ありがとう。ありがとう、リリー……)
リリーの言葉は、暗闇に灯る小さな光のようだった。
---
◆翌朝、少女は再び立ち上がる
翌朝。
セリカの机の上には、いつも通り山のような書類が積まれていた。
でも――
(まだ……やれる)
昨日より肩は軽かった。
孤独ではないと知るだけで、人はこんなにも強くなれるのだ。
そして、この日を境に宮廷内ではひそかに噂が広まる。
> 「レクサス王国の実質的な統治者は……もう陛下ではない」
「王妃様こそ、真の王では……?」
その声はやがて、国中へと広がっていくのであった。
-
朝の光が差し込む王妃の私室。
鏡の前に立ったセリカは、自分の姿を見て思わず息をのんだ。
「……だれ、これ?」
鏡に映るのは、まだ5歳の幼女のはずなのに――
目の下にはうっすらと隈、頬は少しやつれ、表情は大人びてさえ見えた。
(これが……私の望んだ未来?)
その問いは胸に刺さるように重かった。
だがセリカはすぐに顔を上げ、深呼吸をした。
「……行かなきゃ。」
今日も彼女を待つのは、執務室の「書類の山」だ。
---
◆国の中心にいるのは王妃(5歳)だった。
執務室には、机を覆い尽くすほどの文書が積み重ねられている。
税収報告。
隣国から届いた外交文書。
地方領主からの訴え。
軍備改善案。
貴族の内紛調停。
そのすべてが――
「王妃セリカ様のご判断を!」
と差し出される。
(……あの、私、まだ幼稚園にも行ってませんけど!?)
書類に署名しながら、セリカは何度も心の中で突っ込んだ。
ディオール領での統治経験があったからこそ対応はできる。
だが、その規模は何十倍にも膨れ上がっていた。
(これ……人間が一人でやる仕事じゃないよ……)
肩は痛いし、目はショボショボする。
机に小さな身体を乗り出しながら、セリカは必死で国を支えていた。
---
◆夜、更けて。ついに涙がこぼれた。
その夜。
誰もいない執務室。
ペンを握ったまま、セリカはふと手を止めた。
――ぽとり。
一滴、涙が落ちる。
(私……間違ってたのかな……?)
「自由にやれる」と言われて嫁いだのに。
自由どころか、国の全部を抱え込まされている。
「私は……ここに来るべきじゃなかった……?」
胸が痛い。
苦しい。
狭い肩に背負わせられた重責が、幼い心を押しつぶしていく。
---
◆ひとすじの光――侍女リリー
その時。
「……セリカ様?」
静かな声が、涙の落ちる音をかき消すように響いた。
侍女リリーがそっと部屋に入り、セリカの横に跪いた。
「どうか、お顔を上げてくださいませ」
セリカは慌てて涙を拭った。
「あ……大丈夫よ。仕事が少し、大変なだけ……」
だが、リリーは首を横に振る。
「嘘は……だめですよ」
その瞬間――
氷のように固まっていたセリカの胸が、ふっと温かく溶けた。
誰も聞いてくれなかった弱音。
誰も見てくれなかった苦しみ。
たった一人、リリーだけが、気づいた。
セリカは小さな声で、絞り出すように言った。
「……すごく重いの。
国のすべてを……私一人で支えてるみたいで……
陛下は……なにもしてくれないの……」
リリーはそっとセリカの手を握った。
「セリカ様は……本当によく頑張っておられます。
まだ幼いお身体で、誰よりも国のために働いている。
その強さを、私はいつも尊敬しています」
その言葉は、疲れ切った心に染み込むように優しかった。
「でも……つらい時は……どうか、誰かに頼ってください。
王妃様は、一人ではありません」
セリカのまつげが再び震え、涙がこぼれた。
(……ありがとう。ありがとう、リリー……)
リリーの言葉は、暗闇に灯る小さな光のようだった。
---
◆翌朝、少女は再び立ち上がる
翌朝。
セリカの机の上には、いつも通り山のような書類が積まれていた。
でも――
(まだ……やれる)
昨日より肩は軽かった。
孤独ではないと知るだけで、人はこんなにも強くなれるのだ。
そして、この日を境に宮廷内ではひそかに噂が広まる。
> 「レクサス王国の実質的な統治者は……もう陛下ではない」
「王妃様こそ、真の王では……?」
その声はやがて、国中へと広がっていくのであった。
-
51
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ
鷹 綾
恋愛
婚約破棄されたその日、私は“追放令”も同時に宣告された。
王太子エドモンド殿下曰く、
「君のように冷たい女はいらない。真実の愛は聖女ローザだ」──と。
……それなら結構ですわ。
捨ててくださって、ありがとうございます。
行く宛もなく王都を去った私を拾ったのは、
冷徹と噂される若き宰相代理アレクシス様。
「俺と“白い結婚”をしないか。
互いの自由を侵さない、契約だけの結婚だ」
恋愛感情は一切なし。
――そんなはずだったのに。
料理を褒めてくれる優しい声。
仕事帰りにかけてくれる「ただいま」。
私の手をそっと包む温もり。
気づけば、契約のはずの彼との距離が、少しずつ近づいていく。
そんな折──王太子と偽聖女ローザが私を“罪人”に仕立て上げ、
祝福の儀の場で公開断罪しようと企む。
「セレナに触れるな。……彼女は、俺の妻だ」
アレクシス様が壇上で剣を抜いた瞬間、
私の世界は大きく動き出した。
偽りの聖女は暴かれ、王太子は没落。
追放された令嬢の“ざまぁ”が王都を駆け巡る中、
契約で始まった白い結婚は――本物の夫婦の誓いへと変わっていく。
これは、
捨てられた令嬢が“本当の幸せ”をつかみ取る、
大逆転のラブストーリー。
---
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
悪役だから仕方がないなんて言わせない!
音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト
オレスト国の第一王女として生まれた。
王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国
政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。
見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。
のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。
けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした
ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。
なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。
ザル設定のご都合主義です。
最初はほぼ状況説明的文章です・・・
【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。
buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる