見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

文字の大きさ
104 / 108

25-4 真の統率者

しおりを挟む
25-4 真の統率者



城下を照らす夕陽が赤から紫へと溶けていくころ、セリカは王城の高窓から外を眺めていた。
レクサスⅧ世の形式的な署名を待つ書類は山積みで、忙しさは相変わらずだった。
だが、胸の奥を占めるのは疲労ではない。もっと深く、冷たいもの――。

(この国の王は、一体“誰”なのかしら?)

自分ではないことだけは明らかだ。
だが「国王」と呼ばれる男は、今日も応接室で昼寝をしているらしい。

セリカの肩にのしかかる現実と責任は、日に日に重さを増していた。


---

◆リリーの言葉がくれた“ひとすじの灯”

執務室で涙がこぼれたあの夜。
彼女にそっと寄り添ってくれた侍女リリーの存在は、思いのほか大きかった。

「セリカ様のお力になりたいのです。どうか、お一人で抱え込まないでください」

その言葉は、セリカの心の奥で小さな光となり、ひどく冷えきっていた心を少しだけ温めた。

翌朝からも業務は変わらず続いた。
だが――セリカの目には、昨日よりも強い光が宿っていた。

(私がやらなければ、この国は動かない。だったら私がやるだけ)

だがその“強さ”の奥に、確実に膨らんでいくものがあった。

――レクサスⅧ世への失望。
――そして「このままではいけない」という苛立ち。


---

◆地方視察――“王”と呼ばれるべき者はどちらか?

セリカは各地の現状を知るため、視察に出ることを決めた。
王妃である自分が動くことに宮廷は騒然としたが、彼女は有無を言わせず馬車に乗り込んだ。

農村では作物の不作を嘆く農民が、
商業都市では税率に悩む商人が、
辺境では守備兵不足を訴える領主が――。

ひとりひとりの言葉を真剣に聞き、即座に改善策を示すセリカに、住民たちはどこでも頭を垂れた。

「王妃様のおかげで命が助かりました」
「あなたこそ、この国の光です」

そんな言葉を向けられるたび、彼女は胸の奥が熱くなるのを感じた。

(私のしてきたことは、ちゃんと人々に届いていたんだ…)

誇りと同時に、次第にひとつの思いが形を成し始める――。

(もし“本物の統治者”が必要なら、私がその役目を負うべきなのかもしれない)


---

◆決戦の夜――レクサスⅧ世との対話

視察から戻ったその夜。
庭園の月明かりが石畳を照らすなか、セリカは意を決してレクサスⅧ世を呼び出した。

彼はワインのグラスを片手に、いつもの気の抜けた笑みを浮かべていた。

「話って何? また書類のことなら、君に任せてるって言ったよね」

セリカは静かに、しかし強く言い放った。

「――任せています、では済まされないのです。
 あなたはこの国の王です。国の未来を共に考えていただかなくては困ります」

レクサスⅧ世はしばし目を瞬かせたあと、ゆるく笑った。

「どうしてそんなに必死なんだい、セリカ?
 君が有能だから任せてるんだ。私は面倒なことはしたくないだけさ」

その一言で、セリカの中の何かが静かに凍りついた。

(ああ、やっぱり……この人は、国王ではない)

怒りは湧かなかった。
それを通り越した先にある、乾いた諦観。そして確信。

「――承知しました。ならば、私が『この国を導く者』として動きます」

彼女が告げると、レクサスⅧ世は肩をすくめただけだった。

「好きにすればいいよ。君の方が向いてるしね」

(では、私が“王”になる)

そう心の中で静かに宣言した瞬間、セリカの迷いは消えていた。


---

◆影の王――セリカの新たな統治

翌日から、セリカは一切の遠慮を捨てた。

王命の起草、軍の再編、経済政策の調整、外交交渉。
どれも彼女が中心となって動き、地方領主たちも彼女の判断に従い始めた。

「セリカ様のお言葉なら従います」
「実際に国を動かしているのは王妃様だ」

やがて宮廷でもこう噂され始める。

“国王はセリカ様であるべきだ”
“レクサスⅧ世は象徴にすぎない”

その声は日に日に強まり、ついには国外の使者まで彼女を「統治者殿」と呼ぶようになった。


---

◆そして――真の支配者として

ある朝、セリカは王城のバルコニーから国を見下ろした。
市場は活気に満ち、軍は規律を取り戻し、国は再び発展し始めている。

(私が歩んできた道は正しかった)

彼女は初めて、心からそう思えた。

「レクサス王国は、私が守る」

その決意は揺るがない。
たとえ名目上の王は別にいるとしても――この国を動かすのは、彼女以外にありえなかった。


---

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔法務省の過労令嬢と残業嫌いな冷徹監査官の契約からはじまる溺愛改革

YY
恋愛
土日は5話投稿(7:00、8:00、12:00、19:00、20:00)。 平日は2話投稿(7:00、19:00)。 全100話、既に予約投稿設定済みなので、エタる事はありません。 「君はもう用済みだ」 過労の果てに婚約者から価値ゼロの烙印を押され、全てを失った令嬢アリア。 倒れた彼女を拾ったのは、「氷の悪魔」と恐れられる冷徹な監査官カインだった。 「君は興味深いサンプルだ。本日より、君の幸福度を24時間管理する」 追放先で始まったのは、人生初の定時退勤、栄養管理された(まずい)食事、そして「休むことは権利だ」と教え込まれる奇妙な日々。 冷徹なはずの彼の管理は、次第に不器用で過保護な「溺愛」へと変わっていく。 やがてアリアの血に眠る「失われた癒やしの力」と、この国を蝕む「システムの真実」が明らかになり、二人の個人的な関係は、国を揺るがす巨大な陰謀との戦いへと発展していく――! 絶望の淵から始まる、じれ甘ハッピーエンド!

婚約破棄されたので、自由に生きたら王太子が失脚しましたあ

鍛高譚
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢 ロザリー・フォン・アーデン は、王太子 エドワード・カミル・レグノード の婚約者として誰もが認める完璧な貴族令嬢だった。 しかしある日、王太子は突如 “聖女” を名乗る平民の少女 セシリア・ブランシュ に夢中になり、ロザリーに無情な婚約破棄を言い渡す。 「これは神の導きだ! 私の本当の運命の相手はセシリアなんだ!」 「ロザリー様、あなたは王太子妃にふさわしくありませんわ」 ──ふたりの言葉を前に、ロザリーは静かに微笑んだ。 「……そうですか。では、私も自由に生きさせていただきますわね?」 だが、これがロザリーの “ざまぁ” 逆転劇の幕開けだった! 神託と称して王太子を操る “聖女” の正体は、なんと偽者!? さらに王室財政を私物化する 汚職貴族との黒い繋がり も発覚!? 次々と暴かれる陰謀の数々に、王宮は大混乱。 そして、すべての証拠が王の手に渡ったとき──王太子 エドワードは王太子の地位を剥奪され、偽の聖女と共に国外追放 となる! 「ロザリー様を捨てた王太子は大馬鹿者だ!」 「やっぱり王妃にふさわしかったのはロザリー様だったのよ!」 社交界ではロザリーへの称賛が止まらない。 そしてそんな彼女のもとに、なんと隣国の 若き王クラウス・アレクサンドル から正式な求婚が──!? 「私はあなたの聡明さと誇り高き心に惹かれました。私の王妃になっていただけませんか?」 かつての婚約破棄が嘘のように、今度は 本物の愛と自由を手にするチャンス が巡ってくる。 しかし、ロザリーはすぐに頷かない。 「私はもう、誰かに振り回されるだけの人生は選びません」 王妃となる道を選ぶのか、それとも公爵家の令嬢として新たな未来を切り開くのか──?

婚約破棄されました(効率の悪い労働でした) ― 働いてない? 舞踏会は、充分重労働ですわ! ―

ふわふわ
恋愛
「働いていない?――いいえ、舞踏会も社交も重労働ですわ!」 前世で“働きすぎて壊れた”記憶を持ったまま、 異世界の公爵令嬢ルナ・ルクスとして転生したヒロイン。 生まれながらにして働く必要のない身分。 理想のスローライフが始まる――はずだった。 しかし現実は、 舞踏会、社交、芸術鑑賞、気配り、微笑み、評価、期待。 貴族社会は、想像以上の超・ブラック企業だった。 「ノブレス・オブリージュ?  それ、長時間無償労働の言い換えですわよね?」 働かないために、あえて“何もしない”を選ぶルナ。 倹約を拒み、金を回し、 孤児院さえも「未来への投資」と割り切って運営する。 やがて王都は混乱し、 なぜか彼女の領地だけが安定していく――。 称賛され、基準にされ、 善意を押し付けられ、 正義を振りかざされ、 人格まで語られる。 それでもルナは、動かない。 「期待されなくなった瞬間が、いちばん自由ですわ」 誰とも戦わず、誰も論破せず、 ただ“巻き込まれない”ことを貫いた先に待つのは、 何も起きない、静かで満たされた日常。 これは―― 世界を救わない。 誰かに尽くさない。 それでも確かに幸せな、 働かない公爵令嬢の勝利の物語。 「何も起きない毎日こそ、私が選び取った結末ですわ」

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

処理中です...