見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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26-1 自由にやれるとは?

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26-1 自由にやれるとは?

――欺瞞と真実の間で揺れる王妃

レクサス王国の朝は遅い。
王宮の塔に差し込む陽光は、今日も変わらず優雅な金色を放っていた。

――だが、その美しい光景を前にして、セリカの胸は少しも晴れなかった。

結婚当初、レクサスⅧ世は確かに言ったのだ。

「君は自由にやれる。何も気にしなくていい」

その言葉を、彼女は信じた。
自分の能力を認め、信頼してくれたのだと。
ディオール領で培った行政手腕を国のために活かせるなら、これほど光栄なことはないと思った。

だが――。

(自由にやれる、って……こういう意味じゃないでしょう)

机に積み上がる書類の山。
外交文書、貴族間の争いの調停書類、税率改正案、地方軍の補充計画。

どれもこれも、ひとつ判断を誤れば王国の命運が傾くものばかりだ。

王妃である彼女が行うには、明らかに重すぎる“国王の仕事”だった。


---

◆王の姿はどこにもなく

昼になると、給仕がこっそりと告げに来た。

「……今日も陛下は、庭園の離れで昼からお酒を……」

(また……?)

セリカは目を閉じた。
深呼吸をして胸の怒りを押し留める。

やがて彼女は冷静さを取り戻したが、その表情には誇り高い王妃らしい凛とした緊張が走っていた。

(確認しないと。誤解だったら……それでいい。だけど……)

――彼が何もしていないという現実から、もう目を逸らせなかった。


---

◆王座の間で

王座の間。
本来国の象徴であるはずの空間は、今や虚ろな静寂に満ちていた。

そして奥の小部屋。
扉を開いた瞬間――。

「ははっ、見てリュカ! この葡萄酒、前より香りが濃いぞ!」

そこには、杯を手に愉快そうに笑うレクサスⅧ世の姿。

王国の未来でも、国民の苦しみでもなく――ただ自分の楽しみだけに向けられた笑顔。

セリカは足を踏みしめた。

「……レクサスⅧ世。少しお話があります」

空気が張り詰める。
侍従たちは一斉に部屋を退出し、ふたりきりになった。

「おや、セリカ。怖い顔してどうしたんだい?」

レクサスⅧ世は笑う。
それが、火に油を注いだ。


---

◆「自由にやれる」の真の意味

「あなたは……一体この国の何を見ているのですか?」

震える声で、しかしはっきりと告げた。

「私は毎日、国のために働いています。
 でも、あなたは……何もしていないじゃないですか」

レクサスⅧ世は杯を揺らしながら、気の抜けた声で言う。

「いやいや、してるよ?
 “君に任せる”という、重要な判断をね」

「任せる、ではなく……丸投げしているだけでしょう!?」

初めて、セリカは声を荒げた。

レクサスⅧ世は肩をすくめるだけだった。

「君がやりたいようにしてるんじゃないか?
 僕は干渉しないって約束しただろう。
 それが、君の“自由”だよ」

「違います!」

セリカの叫びが、静かな部屋を切り裂いた。

「これは“自由”なんかじゃありません。
 あなたが責任を放棄したせいで、私が全部背負わされているんです!」

レクサスⅧ世の笑顔が、ようやく消えた。

だが、それでも彼は理解しようとしなかった。

「だって、セリカ。君は優秀じゃないか。
 僕がやるより、君がやった方が国は回る。
 だったら僕は――邪魔しない。それだけだよ」

(邪魔しない……?)

セリカは悟った。

――彼にとって自分は、ただの“便利な王妃”でしかない。
――国の重責を押しつけ、自分は楽しい生活を続けたいだけの男。

それが「自由にやれる」の正体だったのだ。


---

◆決意――“本当の支配者”になる

その瞬間、セリカの中で何かが切れた。

静かに、しかし絶望的なほど冷たい声が口をつく。

「……私は、この国を守るためにここへ来たのです。
 あなたを甘やかすためではありません」

レクサスⅧ世は気まずそうに視線を逸らした。

セリカは続けた。

「このままでは、国が滅びます。
 私は、あなたと共に統治したかった。
 でも……あなたが国を見ようとしないなら――」

息を吸い、強い意志の光を宿した瞳で言い放つ。

「私が、この国を導きます」

レクサスⅧ世は驚きもせず、ただ軽く笑った。

「いいんじゃないか? 君ならできるよ。
 僕は……疲れたくないしね」

その瞬間、完全に理解した。
この男は、王ではない。

――なら、自分が“王”になればいい。

胸の奥で、ハッキリとした声が鳴り響いた。

(私が、この国の未来を守る)

それは王妃の誓いではなく、
統治者としての覚醒だった。


---

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