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噂の御仁と対面致しますわ
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それから迎える準備に一刻ほどの時間を使ってからリリアーヌはウィレネル男爵令嬢が通された一番格の低い応接間に着いた。侍女が部屋の扉をノックし、扉を開ける。
「いつまで待たせんのよっ!」
扉も開ききらないうちから、不機嫌そうな声が飛んできた。
(あらまあ・・・、思ってた以上に躾がなってないわねぇ。)
リリアーヌは心の中でそう呟き、ウィレネル男爵令嬢の評価をさらに下げた。
そして、何事もなかったかのようにウィレネル男爵令嬢の座る応接セットのソファの向かい側に座る。
テーブルの上を観察すると、出された茶菓子もお茶も全て食べ尽くされていた。
(あらまあ)
さらに心の中でそう呟く。
そして目線を本人に向ける。
(随分といいドレスですわね、このデザインだとあちらのデザイナーのものかしら?だとしたらエリックのプレゼントで間違いないでしょうね。)
男爵令嬢が身に纏うには上質すぎるドレスは、最新の流行をふんだんに取り入れつつ嫌味の無いデザインで作り手の力量がうかがえる逸品だ。
惜しむらくは纏ってる本人がそれに見合う着方を理解していないことだろうか。
(勝負服、のつもりではあるのでしょうけどねぇ。)
これほどのドレスであれば、宝飾品やメイクなども同じレベルに合わせなくてはそこだけ浮いて逆に不恰好になってしまう。
宝飾品も男爵家が買えるような値段のものではなさそうなので、エリックのプレゼントでいい品なのであろうが、デザインがドレスと合っていなかった。
さらにひどいのはメイクだ。下手ではない、気合を入れてしっかりとしているのはわかる。だが、質の悪いものを使っているからか発色などがよくない。おそらくだけど、これだけは自前の品なのだろう。まあ、殿方から化粧品をプレゼントというのはあまり聞かないから仕方のないことなのだろうけど。
結局トータルコーディネートとしては、チグハグで、一部見劣りがするという残念な結果になってしまっている。
もちろん、エリックにプレゼントされた物で身を固めることでリリアーヌにマウントを取ろうとしているウィレネル男爵令嬢の意図には気づいてはいる。
ただ、その結果があまりにも残念すぎてそこまでの気持ちを抱けずにいた。
「ちょっと!!聞いてるの!?」
リリアーヌがこの応接室に入ってきてからずっとキャンキャンと喚いていたウィレネル男爵令嬢は、ようやくリリアーヌが話を聞いていなかったことに気づいたようだった。
怒りで顔を上気させ、喚きすぎで息を切らせてしまっているウィレネル男爵令嬢を尻目に、リリアーヌはその場にすっと立ち上がった。
「ヴィンクト公爵家が娘、リリアーヌと申します。」
そう言って、完璧なカーテシーをしてから顔を上げる。
その様子をウィレネル男爵令嬢はソファに腰掛け、不遜な態度でうかがっていた。
そして、一切態度を変えようとしないまま、
「ウィレネル男爵令嬢でエリック様の最愛のソフィアよ。」
そう、礼儀も何もなっていない名乗りをしたのだった。
「いいからあんた、エリック様と婚約破棄しなさいよ!」
もうすでにウィレネル男爵令嬢、いやソフィアには礼儀がなっていないことはわかっていたが、最後のチャンスと一応名乗ってからカーテシーくらするかと待っているうちにウィレネル男爵令嬢が言い出した。
そして、冒頭に戻る。
「・・・婚約破棄、ですの?」
「ええそうよ!私と彼は愛し合っているの!!義務的な関係のあんたとは違ってね!そんな愛のない関係で彼を縛ってないで早く解放してしてあげて!」
その後もソフィアがキャンキャンと好き勝手に喚いているのをいいことに、驚きから回復したリリアーヌは思考に耽った。
正直なところ、リリアーヌはソフィアがマウントを取りに来ただけだと思っていたのだ。
愛人が正妻に対してマウントを取りに来るのはままあること。
それをどう諫め、立場をしっかりとわからせるかも貴族の妻の力量として評価されるものだ。
ソフィアのこの往訪もそのマウントの一環かと思っていたのだが、彼女はマウント取り以上をお望みのようだ。
「仰りたいことはわかりましたわ。」
言いたいことを言い切ったからか、それとも喚き疲れたからかソフィアの言葉が止まったところで声をかけた。
「けれど、婚約解消の方がよろしいのではなくって?」
そう一応は善意を持って提案した。
すると、その言葉にソフィアはニヤァといやらしい、人を見下したような笑みを浮かべた。
その笑みに、リリアーヌはソフィアへの評価が間違っていたことを察した。
(なるほど、わたくしを貶めたいのですわね。)
婚約を結んでいるとはいえ、あくまで政略による縁だ。利害が絡む婚約はこの国では容易に解消ができ、二、三度婚約者が変わってから結婚に至ることも珍しくはない。流石に10回、20回と常識的に考えてありえない回数であったり、よほどの訳ありであれば別だが、女性でも婚約破棄によって瑕疵になることはほとんどない。
ましてやリリアーヌは王家とも関わりの深い公爵家の令嬢。情勢によっては王女に代わり異国に嫁ぐことさえあるのだから余計に婚約の解消は瑕疵にならない。
さらに言えば、エリックとリリアーヌの不仲はよく知られた話で、やっとかと言われることはあっても誰もリリアーヌに問題が合ったと見なすものはいない状態だ。
だが、婚約破棄となると話は別。
婚約解消が容易にできる分それでは話がつかなかったから、一方的な破棄に及ぶのだと、どちらか、もしくは双方に問題があるのだ、とそう認識される。
これは双方に影響が出るので諸刃のつるぎにはなってしまうのだが、ソフィアからしたらエリックと自身が結婚するのだから問題ないとでも思っているのだろう。
そして、そういった婚約解消と婚約破棄の事情を知っていて、リリアーヌを貶めたいがために婚約破棄を迫っているのだ。
「本当に婚約破棄、それでよろしいの?」
「ええ、もちろん!」
念の為、再度問いを投げるも人を小馬鹿にするような笑顔は変わらぬまま答えが返ってきた。
「・・・あなたのご希望は伺いましたわ。でも、ご存知の通りこの婚約は利害の絡む政略によるもの。わたくしの一存でお答えできるお話ではございませんの。今お答えできるのは、お話は通しておく、それだけですわ。」
「ちっ、役立たずね。まあ、エリック様にも愛されないあんたみたいな役立たずなお嬢様じゃそんなもんよね。いいわ、絶対に話を通しておくのよっ!」
不満げではあったものの、確かにリリアーヌの言も一理あると考えたのか、喚き疲れたのか、ソフィアは暴言を吐いてから早々に応接室から出て行った。
当然退室の礼などすることもなく、だ。
「あれで、本当にエリック様の妻になれると思っているのかしら?」
つい、口をついて溢れた言葉に応えはなかった。
「いつまで待たせんのよっ!」
扉も開ききらないうちから、不機嫌そうな声が飛んできた。
(あらまあ・・・、思ってた以上に躾がなってないわねぇ。)
リリアーヌは心の中でそう呟き、ウィレネル男爵令嬢の評価をさらに下げた。
そして、何事もなかったかのようにウィレネル男爵令嬢の座る応接セットのソファの向かい側に座る。
テーブルの上を観察すると、出された茶菓子もお茶も全て食べ尽くされていた。
(あらまあ)
さらに心の中でそう呟く。
そして目線を本人に向ける。
(随分といいドレスですわね、このデザインだとあちらのデザイナーのものかしら?だとしたらエリックのプレゼントで間違いないでしょうね。)
男爵令嬢が身に纏うには上質すぎるドレスは、最新の流行をふんだんに取り入れつつ嫌味の無いデザインで作り手の力量がうかがえる逸品だ。
惜しむらくは纏ってる本人がそれに見合う着方を理解していないことだろうか。
(勝負服、のつもりではあるのでしょうけどねぇ。)
これほどのドレスであれば、宝飾品やメイクなども同じレベルに合わせなくてはそこだけ浮いて逆に不恰好になってしまう。
宝飾品も男爵家が買えるような値段のものではなさそうなので、エリックのプレゼントでいい品なのであろうが、デザインがドレスと合っていなかった。
さらにひどいのはメイクだ。下手ではない、気合を入れてしっかりとしているのはわかる。だが、質の悪いものを使っているからか発色などがよくない。おそらくだけど、これだけは自前の品なのだろう。まあ、殿方から化粧品をプレゼントというのはあまり聞かないから仕方のないことなのだろうけど。
結局トータルコーディネートとしては、チグハグで、一部見劣りがするという残念な結果になってしまっている。
もちろん、エリックにプレゼントされた物で身を固めることでリリアーヌにマウントを取ろうとしているウィレネル男爵令嬢の意図には気づいてはいる。
ただ、その結果があまりにも残念すぎてそこまでの気持ちを抱けずにいた。
「ちょっと!!聞いてるの!?」
リリアーヌがこの応接室に入ってきてからずっとキャンキャンと喚いていたウィレネル男爵令嬢は、ようやくリリアーヌが話を聞いていなかったことに気づいたようだった。
怒りで顔を上気させ、喚きすぎで息を切らせてしまっているウィレネル男爵令嬢を尻目に、リリアーヌはその場にすっと立ち上がった。
「ヴィンクト公爵家が娘、リリアーヌと申します。」
そう言って、完璧なカーテシーをしてから顔を上げる。
その様子をウィレネル男爵令嬢はソファに腰掛け、不遜な態度でうかがっていた。
そして、一切態度を変えようとしないまま、
「ウィレネル男爵令嬢でエリック様の最愛のソフィアよ。」
そう、礼儀も何もなっていない名乗りをしたのだった。
「いいからあんた、エリック様と婚約破棄しなさいよ!」
もうすでにウィレネル男爵令嬢、いやソフィアには礼儀がなっていないことはわかっていたが、最後のチャンスと一応名乗ってからカーテシーくらするかと待っているうちにウィレネル男爵令嬢が言い出した。
そして、冒頭に戻る。
「・・・婚約破棄、ですの?」
「ええそうよ!私と彼は愛し合っているの!!義務的な関係のあんたとは違ってね!そんな愛のない関係で彼を縛ってないで早く解放してしてあげて!」
その後もソフィアがキャンキャンと好き勝手に喚いているのをいいことに、驚きから回復したリリアーヌは思考に耽った。
正直なところ、リリアーヌはソフィアがマウントを取りに来ただけだと思っていたのだ。
愛人が正妻に対してマウントを取りに来るのはままあること。
それをどう諫め、立場をしっかりとわからせるかも貴族の妻の力量として評価されるものだ。
ソフィアのこの往訪もそのマウントの一環かと思っていたのだが、彼女はマウント取り以上をお望みのようだ。
「仰りたいことはわかりましたわ。」
言いたいことを言い切ったからか、それとも喚き疲れたからかソフィアの言葉が止まったところで声をかけた。
「けれど、婚約解消の方がよろしいのではなくって?」
そう一応は善意を持って提案した。
すると、その言葉にソフィアはニヤァといやらしい、人を見下したような笑みを浮かべた。
その笑みに、リリアーヌはソフィアへの評価が間違っていたことを察した。
(なるほど、わたくしを貶めたいのですわね。)
婚約を結んでいるとはいえ、あくまで政略による縁だ。利害が絡む婚約はこの国では容易に解消ができ、二、三度婚約者が変わってから結婚に至ることも珍しくはない。流石に10回、20回と常識的に考えてありえない回数であったり、よほどの訳ありであれば別だが、女性でも婚約破棄によって瑕疵になることはほとんどない。
ましてやリリアーヌは王家とも関わりの深い公爵家の令嬢。情勢によっては王女に代わり異国に嫁ぐことさえあるのだから余計に婚約の解消は瑕疵にならない。
さらに言えば、エリックとリリアーヌの不仲はよく知られた話で、やっとかと言われることはあっても誰もリリアーヌに問題が合ったと見なすものはいない状態だ。
だが、婚約破棄となると話は別。
婚約解消が容易にできる分それでは話がつかなかったから、一方的な破棄に及ぶのだと、どちらか、もしくは双方に問題があるのだ、とそう認識される。
これは双方に影響が出るので諸刃のつるぎにはなってしまうのだが、ソフィアからしたらエリックと自身が結婚するのだから問題ないとでも思っているのだろう。
そして、そういった婚約解消と婚約破棄の事情を知っていて、リリアーヌを貶めたいがために婚約破棄を迫っているのだ。
「本当に婚約破棄、それでよろしいの?」
「ええ、もちろん!」
念の為、再度問いを投げるも人を小馬鹿にするような笑顔は変わらぬまま答えが返ってきた。
「・・・あなたのご希望は伺いましたわ。でも、ご存知の通りこの婚約は利害の絡む政略によるもの。わたくしの一存でお答えできるお話ではございませんの。今お答えできるのは、お話は通しておく、それだけですわ。」
「ちっ、役立たずね。まあ、エリック様にも愛されないあんたみたいな役立たずなお嬢様じゃそんなもんよね。いいわ、絶対に話を通しておくのよっ!」
不満げではあったものの、確かにリリアーヌの言も一理あると考えたのか、喚き疲れたのか、ソフィアは暴言を吐いてから早々に応接室から出て行った。
当然退室の礼などすることもなく、だ。
「あれで、本当にエリック様の妻になれると思っているのかしら?」
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